アレクサンダー・カルダー展 Alexander Calder: Motion and Color
カラフルなモビールで知られる現代美術家アレクサンダー・カルダーの活動を紹介する展示図録。動く彫刻をはじめ、ドローイングやペインティング、金属を用いた立体造形など、多彩な作品を豊富なカラー図版で収録している。軽やかな造形と鮮烈な色彩が生み出す独創的な表現世界を視覚的に伝える構成で、作品の持つダイナミズムを体感できる仕上がりとなっている。アートディレクションは中島英樹が担当し、20世紀美術に大きな足跡を残した作家の魅力を引き立てている。
Tingaud: Interieurs | Jean Marc Tingaud
1985年から1990年にかけて、マラケシュ、ネパール、パリ、マレなど世界各地の住空間を撮影したジャン=マルク・タンゴーの作品集。鳥籠や電話機、宗教画、家族写真、生活の痕跡を示す小さなオブジェが静かに佇む室内を、90点のカラー写真で構成している。そこに暮らす人々の姿は直接写らないものの、壁の装飾や置かれた品々からは、記憶や習慣、価値観といった個々の物語がほのかに漂う。余白を活かした構図と柔らかい光が、日常の断片に独自の詩情を与え、匿名の空間に潜む親密さを浮かび上がらせている。
中塚大輔・広告の魂
アートディレクター中塚大輔による広告作品集。コカ・コーラ、松下電器、マリークヮント、東京ディズニーランド、ジャック・ダニエルなど、数々の企業キャンペーンを手がけた代表作を収録。大胆な構図と鋭いコピーが融合した表現は、日本の広告デザインに新たな感覚をもたらした。題字は横尾忠則、扉写真は森山大道によるもの。広告というメディアに宿る創造の情熱と精神を鮮烈に伝えている。
ハンガリー構成主義 1918-1936 | ワタリウム美術館
1994年にワタリウム美術館で開催された展覧会の公式図録。ラヨシュ・カッシャーク、モホリ=ナジ・ラースローらをはじめとする、ハンガリーにおける構成主義の主要な作家たちを紹介している。絵画、グラフィック、写真、出版活動など多岐にわたる作品や資料を通じて、第一次世界大戦後の激動期に芽生えた前衛芸術の動向とその展開を示し、国際的なモダニズム運動の中で果たした役割を明らかにする内容となっている。
トマシェフスキ展 世界を震わす詩学
ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された「トマシェフスキ展 世界を震わす詩学」の図録。ポーランド・ポスターの巨匠として知られ、戦後のポーランド・グラフィックデザイン界を牽引したヘンリク・トマシェフスキの代表作を収録する。ポスター、ドローイング、スケッチなど多彩な作品を通して、ユーモアと詩情を融合させた独自の作風を紹介。矢萩喜従郎による解説評論を併載し、その創作の背景や思想にも迫る内容となっている。
Oscar Niemeyer | オスカー・ニーマイヤー
現代建築の巨匠の一人、オスカー・ニーマイヤーの作品集。ブラジリア、サンパウロ、ベロオリゾンテに点在する建築作品から、リオ・デ・ジャネイロにある自宅にいたるまで撮影。その数々作品のカラー図版と併せてインタビューを収録。コンクリートの造形美、創造の舞台裏を探る。英語表記。
東京 TOKYO | 隈研吾
建築家・隈研吾が東京で手がけた建築を集成した作品集。国立競技場や高輪ゲートウェイ駅、歌舞伎座、角川武蔵野ミュージアムなど、都市の各地に点在する23のプロジェクトを収録している。写真は新津保建秀が担当し、建築と都市、光と影、人の活動が織りなす姿を捉えている点が特徴。素材や構造の選択を通じて都市と調和しつつ、新たな風景を形づくる隈の建築を、多角的に記録する内容となっている。東京に息づく建築の現在を示している。
アイデア No.248 現代のグラフィックスに見る日本人の美意識
グラフィックデザイン誌『アイデア』No.248(1995年1月号)は、特集「現代のグラフィックスに見る日本人の美意識」を通して、日本の視覚文化に根づく感性を幅広い事例から検証する一冊。佐藤晃一監修のもと、ポスタートリエンナーレトヤマ1994金賞のスタシス・エイドゥリゲヴィチウスとイェチェク・シェレゲイド、第16回ブルノ・ビエンナーレで評価を得た福田繁雄らの作品を紹介。さらにサントリーミュージアム[天保山]による「美女100年」、ショーモン・ポスター・フェスティバル1994の松永真、ジョシュ・ゴスフィールドと岩吉隆悠のメッセージ性の高い表現など、多面的な企画が並ぶ。表紙デザインはスタシス・エイドゥリゲヴィチウス。
アイデア No.244 アンドレ・フランソワ
グラフィックデザイン誌『アイデア』No.244(1994年5月号)は、巻頭でアンドレ・フランソワを大きく取り上げ、その多彩な創作領域を再検証する内容となっている。1930年代にパリでカッサンドルと学び、戦後はフランス、イギリス、アメリカの雑誌でユーモアあふれる表現が評価されたフランソワ。ポスターや絵本、美術舞台から彫刻、油彩、ニューヨーカー誌の表紙に至るまで、ジャンルを軽やかに横断する仕事を豊富な図版とともに紹介する。併録企画では「新時代を予感させるロバート・ナカタ」、「ロドニー・グリーンブラットのコンテンポラリー・ワンダーランド」、「内在する世界を描くグレッグ・スパレンカ」、200の独創的な作品を集めた「時間を彩る200のオリジナリティー」など、90年代デザインの潮流を象徴するトピックが並ぶ。
アイデア No.243 アラン・フレッシャー
グラフィックデザイン誌『アイデア』No.243(1994年3月号)は、フォーチュン誌やコンテナー社、IBMの仕事で知られるアラン・フレッチャーを特集し、そのキャリアと造形哲学を多面的にたどる内容となっている。RCAとイェール大学で学び、ニューヨークで活動を開始したのち、ロンドンでフレッチャー/フォーブス/ギルを設立。さらに1972年にはペンタグラム創設メンバーとして国際的なデザイン・プログラムを牽引したフレッチャーの実践を、豊富な図版とテキストで紹介する。さらに田中一光による「東京イラストレーターズ・ソサエティ LA展」や、福田繁雄が取り上げるベルギーのポスター作家ジュリアン・キー、ラファル・オルビンスキの風刺的イラストレーション、上田義彦と葛西薫による写真表現の考察など、時代の幅広いビジュアル文化を捉える企画が並ぶ。
画家のおもちゃ箱 | 猪熊弦一郎
フランスでアンリ・マティスに師事し、生涯にわたり独自の色彩世界を育んだ猪熊弦一郎が、世界各地で集めてきた蒐集物への思いを綴った一冊。文化出版局『ミセス』での連載を中心に構成され、切手、パイプ、玩具、旅先で出会った小さな日用品など、多彩な品々にまつわるエッセイとともに、大倉舜二が撮影した写真が添えられている。蒐集という行為を通して作家が何を見つめ、どのような記憶と経験を蓄積してきたのかが、軽やかな語り口とともに浮かび上がる内容となっている。
Frei Otto: Thinking by Modeling
ドイツの建築家、フライ・オットーの作品集。2016年に開催されたカールスルーエ・アート・アンド・メディア・センターとヴュステンロート財団の共催による過去最大規模の展覧会にあわせて刊行されたもの。1950年代にテント構造で注目を集め、1972年ミュンヘンオリンピックではベーニッシュ&パートナーと共に屋根景観を創出した。建築、技術、芸術、科学、社会を横断する学際的思考に基づく彼の革新的なデザインは、自然を模範とし、それを建築や土木工学、未来のために活用する試みとして展開された。フライ・オットー・アーカイブに収められた多数の実験模型を初めて印刷物で紹介するとともに、彼の思想やプロセスを多角的に理解できる内容となっている。
Peter Fischli & David Weiss: Sonne, Mond und Sterne
スイス出身のアーティストデュオ、ペーター・フィッシュリとダヴィッド・ヴァイスによる作品集。国際的な雑誌広告に着想を得た800ページ・800点の画像で構成され、緩やかなカテゴリーごとに整理されている。チューリヒのデザイン事務所NORMとの共同デザインにより、2007年リングィアAG年次報告書への寄与を再構成。過剰な現代メディアのイメージやスローガンを切り取り、商業文脈から離して提示することで、視覚的に刺激的でありながら、思いがけない開かれた物語を生み出している。
Fruhauf Danach | Laurenz Berges
ドイツの写真家ローレンツ・バージェスによる作品集。放置されたアパートや空き家、手入れの行き届かない庭など、都市の隙間に潜むあいまいな領域を静かにとらえた写真を収録している。彼は、公益と荒廃、過去と未来が交差する“無人地帯”に足を踏み入れ、その場に残された痕跡を詩情と記録性の双方で描き出す。色彩を抑えた画面構成は一見するとミニマルだが、緻密に組み立てられたフレーミングの内部には、かつての営みの気配が複層的に息づく。これらの写真は、物質の質感や空間の沈黙を手がかりに、都市が抱える時間の堆積を掘り起こす試みでもあり、視覚的なアルテ・ポーヴェラとも呼べる表現へとつながっている。
Superkul: Rain Gravity Heat Cold
トロントを拠点とする建築スタジオ、superkülの創立10周年を記念して刊行された作品集。同じくトロントのデザイン事務所Blok Designによる紙質や印刷技法、銀色仕上げなどにこだわった実験的なデザインを通して、同スタジオの空間構成や設計哲学を表現している。タイトルの「雨・重力・熱・寒さ」が示すように、自然や素材の要素と建築空間との関係性に着目し、写真、図面、インタビューを通して作品のプロセスや思想を可視化。単なる作品集を超え、手に取ることで設計理念を直感的に体感できる構成となっている。
Arte Povera Seen by Ingvild Goetz
1960年代イタリアで生まれた芸術運動「アルテ・ポーヴェラ」を、ドイツのコレクター兼ギャラリスト、イングヴィルド・ゲッツの視点からたどる作品集。1970〜80年代のギャラリスト活動、そして80年代以降のコレクション形成を年表形式で整理し、未公開アーカイブによって運動の展開を読み解く構成となっている。クラウディオ・アバーテ、ジョヴァンニ・アンセルモ、アリギエロ・ボエッティ、マリオ・メルツ、ミケランジェロ・ピストレットら主要作家の作品を豊富な図版で紹介し、素材の力や空間性を重視したアルテ・ポーヴェラの表現を視覚的に示す。またダグラス・フォーグルとキアラ・ヴェッキアレッリによる論考を収録し、運動の歴史的意義を多角的に検証。
Eva Hesse: Sculpture
ドイツの彫刻家・画家・現代美術家、エヴァ・ヘスの作品集。1960年代アメリカ美術を代表する彼女のラテックスやファイバーグラスによる大規模彫刻に焦点を当て、その革新的な表現を多角的に読み解いていく。1968年の個展「チェーン・ポリマーズ」での躍進を軸に、未公開の家族の日記や写真を通して、亡命生活や戦後アメリカでの経験が作品に与えた影響を探る。さらに、当時の美学思想との関連や、1969~70年の吊り下げ彫刻の重要性など、専門家による論考も収録。豊富なカラー図版と詳細な年譜を備え、ヘスの芸術的到達点を包括的に伝える一冊となっている。
Christo and Jeanne-Claude: Prints and Objects
現代美術作家クリストとジャンヌ=クロードによる作品集。建築物や自風景全体を布などで包み込む壮大なプロジェクトで知られる2人によるエディション作品を網羅した改訂版カタログである。こうした巨大な作品を自らの力で資金調達するため、彼らは早くから版画やコラージュ、オブジェの制作に取り組み、その独創的な発想を多様な形で展開してきた。砂漠に石油ドラムを積み上げ、高さ120メートルの切頭ピラミッドを構想するなど、常識を超えるスケールと表現力を示す貴重な記録となっている。
Joseph Beuys: Plakate/Posters ペーパーバック版
ドイツの芸術家ヨーゼフ・ボイス(1921–1986)が手がけたポスター作品を体系的に収録した作品資料集。1960年代から没年までに制作された280点以上のポスターを網羅し、展覧会の告知から政治的キャンペーンまで、その活動の広がりを示している。緑の党の設立にも関わったボイスにとって、ポスターは単なる告知媒体ではなく、芸術と社会を結ぶメディアであり思想の実践の場でもあった。タイポグラフィや写真を駆使した大胆な構成の数々から、彼の「すべての人は芸術家である」という理念と、表現と行動が一体化した芸術観が浮かび上がる。
Tadao Ando: Light and Water
建築家・安藤忠雄の作品集。光や水、風といった自然の力を巧みに受けとめ、静けさと緊張感を両立させる空間づくりの軌跡を多様なプロジェクトを通して紹介する。大阪の住宅や「光の教会」「水の教会」をはじめ、プルツァー芸術財団、フォートワース現代美術館などの国内外の美術館や文化施設にいたるまで、30を超えるプロジェクトを紹介。幾何学的にシンプルながらも豊かに表現された空間は、日本建築の静謐さと明快さを受け継ぎ、自然と人の心をつなぐ建築の魅力を伝えている。
David Kimball Anderson: Works 1969–2017 | Radius Books
アメリカのアーティスト、デイヴィッド・キンボール・アンダーソンの約50年におよぶ創作活動をまとめた作品集。1969年から2017年までの彫刻や立体作品を収録し、スチール、ファイバーグラス、ブロンズ、アルミニウム、木材など多様な素材を駆使した造形を紹介している。硬質な素材に繊細な感性を宿すその表現は、重厚さと静謐さをあわせ持ち、独自の彫刻的世界を築いてきた。豊富な作品図版とあわせて解説も収められ、作家の半世紀にわたる歩みを俯瞰できる内容となっている。英語表記。
On the Table | Ai Weiwei
中国の現代美術を代表するアーティスト、アイ・ウェイウェイの活動を総覧する作品集。バルセロナのLa Virreina Centre de la Imatgeで開催された展覧会カタログであり、写真、映像、彫刻、インスタレーション、デザイン、音楽に至るまで、多領域にまたがる42点の作品を240点以上の図版とともに収録している。1980年代のニューヨークでの初期活動から、社会批評を鋭く孕んだ現在の制作に至るまでの歩みを一冊に凝縮。観光名所に中指を掲げるシリーズや、ひまわりの種のインスタレーションなど象徴的な作品が並び、既成概念を撹乱する彼の表現の広がりが示される。
Synecdotheque | Martin La Roche、Jacqueline Machado de Souza
アーティスト、ジャクリーン・マシャード・デ・ソウザとマーティン・ラ・ロシュによる作品集。2018年、オランダ・マーストリヒトのドミニカン教会内書店(Boekhandel Dominicanen)で開催された展示をもとにまとめられたもので、2人の日常的な制作活動から生まれた写真、ドローイング、版画、書籍、映像などを用い、書棚用に特別設計された構造物に展示した内容を収録している。インスタレーションの記録であると同時に、共同実践を具現化したものであり、アーティストの創造プロセスやアーカイブ的視点を体感できるデザインとなっている。
The Barbara Hepworth Sculpture Garden
イギリスのセント・アイヴスにある「バーバラ・ヘップワース彫刻庭園」を記録した写真資料集。四季の移ろいのなかで、植物と彫刻が響き合う庭園の姿を丁寧に写し取り、ヘップワースの造形と思索が自然のフォルムとどのように呼応していたかを探る一冊。アトリエを併設したこの庭は、制作の場であると同時に彫刻の展示空間であり、彼女が愛した植物が作品と共鳴する独自の風景をつくり出す。ヘッドガーデナーによる植物解説や新たに撮り下ろされた写真を交え、彫刻と庭の関係性を立体的に読み解ける構成となっている。
米田知子展 終わりは始まり
ロンドンを拠点に国際的に活動する写真家・米田知子の代表的シリーズをまとめた作品集。国際諜報団の密会場所を題材にした「パラレル・ライフ」、風景に潜む歴史的記憶を探る「見えるものと見えないもののあいだ」、都市の再生や変容を追う「立ち上がる都市」など、多様なテーマをモノクロとカラーで収録している。静謐な情景を手がかりに、土地が抱え込んできた記憶や時間の層を読み取ろうとする姿勢が一貫しており、風景そのものの“何気なさ”と背後に潜む物語との距離を精緻に見つめる視点が際立つ。
三養荘
伊豆長岡の名旅館として知られる三養荘を、多角的に捉えた建築資料集。四季の移ろいの中で庭園と呼応する数寄屋建築の姿を、畑亮夫による写真で丹念に記録し、空間の陰影や素材の質感まで追う。特に本書が焦点を当てるのは、村野藤吾が1988年に手がけた新館・別館・藤裏葉であり、最晩年に到達した和風建築の成熟した表現が随所に見られる。柔らかな曲線や微細な寸法調整など、村野の造形思想を示す意匠が綿密に検証。巻末の別冊には詳細図面を収録し、動線計画や構造、細部の納まりまで読み解ける充実した内容となっている。
藤本壮介 建築作品集 | ナオミ・ポロック
建築家・藤本壮介と、日本建築を長年研究してきた建築家ナオミ・ポロックによる対話を軸に構成された作品集。藤本の建築を読み解くため、形態や思考に通底する抽象的なテーマを二つずつのキーワードとして設定し、時系列ではなく概念的なカテゴリーに沿って作品を紹介。「House N」「House NA」「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」など主要プロジェクトを、写真、図面、テキストとともに収録し、空間生成のプロセスを多角的に示す。九州から北海道まで、実際に藤本建築を訪ね歩いてきた著者ならではの観察が随所に息づき、建築家の思想と実作の関係を立体的に捉え直している。藤本壮介の表現原理に迫り、その創造性の広がりを丁寧に描き出す一冊。
Gus Van Sant: Icons
アメリカの映画監督ガス・ヴァン・サントの創作活動を総覧するモノグラフ。2016年にパリのフランス・シネマテークで開催された展覧会にあわせて刊行されたもので、『ドラッグストア・カウボーイ』『グッド・ウィル・ハンティング』『マイ・プライベート・アイダホ』など、代表作の映画制作を軸に、写真、絵画、音楽など幅広い表現活動を紹介する。未発表インタビューでは、ウィリアム・バロウズやエド・ルシェといった影響源に触れながら、創作の背景と映画哲学を語っている。
ドアノーの贈りもの 田舎の結婚式
フランスの写真家ロベール・ドアノーが、1951年にサン・ソヴァン村で撮影した結婚式の一日を収めた写真集。18歳の花嫁と24歳の花婿を中心に、支度の時間、村役場での儀式、家族や友人が集う祝宴、夜更けまで続くダンス、そして新婚旅行へ向かう早朝の風景へと物語が静かに連なっていく。戦後間もない農村の素朴な表情、祝福に満ちた空気、村人たちの仕草やまなざしが、ドアノー特有の温かな視線によって丁寧に写し取られている。撮影当時に残されたドアノー自身のノートをもとにした解説も収録。
森羅万象を刻む デューラーから柄澤齊へ
2016年に町田市立国際版画美術館で開催された展覧会の図録。アルブレヒト・デューラーをはじめとする西洋版画の巨匠から、柄沢齊ら日本の版画家まで、エングレーヴィング(直刻銅版画)と木口木版画の系譜を約200点で辿る内容となっている。紙幣にも用いられるビュランによる精緻な線は、太細の変化や曲線・点線の組み合わせだけで人物や風景を立ち上げ、1ミリに10本以上を刻む超絶技巧が質感や量感を生み出した。直刻技法が切り拓いてきた表現の広がりを、作品図版と解説を通して丹念に示している。
Eikoh Hosoe Photographs
1990年にニューメキシコ州サンタフェのAndrew Smith Galleryで開催された、細江英公の展覧会カタログ。代表作「薔薇刑」「鎌鼬」「おとこと女」など主要シリーズから12点を精選し、細江の核となる視覚世界を凝縮している。暗く劇的なイメージ、身体の動きや造形をめぐる緊張感、映像的な構成力が一枚ごとに際立ち、戦後日本の精神風土を映す独自の表現が浮かび上がる。とりわけ三島由紀夫や舞踏家・土方巽との協働によって生まれた作品群は、パフォーマンスと写真が交錯する稀有な実験であり、細江の創作姿勢を象徴するシリーズとして再確認できる構成。
Thomas Demand: Model Studies Koto-ku | トーマス・デマンド
ドイツのアーティスト、トーマス・デマンドによる「Model Studies」シリーズ第2作。東京・江東区のSANAAオフィスで日々生まれる建築模型に目を向け、短命な素材に宿る思考の軌跡を見つめた作品集である。紙や段ボール、発泡スチロールなど、アイデアがかたちを結ぶ瞬間の質感がそのまま残され、創造のプロセスが静かに立ち上がる。模型を彫刻的な存在として捉えるデマンドは、建築家たちがアイデアを交わす場の空気や気配をも写し込み、思考が行き交う瞬間を鮮明に提示する。最終的にイメージへと還元される彼の制作と、大規模な建築へと展開するSANAAの模型とが呼応し、模型という概念の奥行きを豊かに示す内容。束の間の美が映し出された一冊となっている。
FARMAX: Excursions on Density MVRDV
オランダの建築家集団MVRDVが、都市を根本から読み替える概念として「密度(Density)」に焦点を当てた代表作『FARMAX』。人口過密都市ロッテルダムや香港の住環境をはじめ、オランダ全土の郊外化や土地利用の偏りを詳細な統計・図版とともに分析し、極端な高密度=“FARMAX” の可能性と限界を探る。建築が都市の広がりをどのように再構成し得るか、既存の居住モデルを大胆に再考する姿勢が全編に貫かれている。レム・コールハース+ブルース・マウの『S,M,L,XL』に続くシリーズ第二弾として位置づけられ、建築的思考と編集的アプローチが交差する一冊。
印刷史 タイポグラフィの視軸 | 府川充男
明治初年以前の近代日本活字史から、幕末〜大正期の新聞紙面と組版意匠の変遷までを体系的に解説した、印刷史・和文タイポグラフィの入門書。活字の成り立ちや表記の変化、新聞という大量印刷物の登場によるレイアウトの発展など、和文組版の基礎をかたちづくった歴史的背景を丹念にたどる内容となっている。とくに『長野新聞』の号外資料の検証や、『珊瑚集』の組版に関する考察など、資料批判を含んだ精密な分析が特徴で、文字文化の変遷を一次資料から読み解こうとする姿勢が際立つ。また、日本の基本書体として120年にわたり使用されてきた「築地体」をテーマに、覆刻・飜刻によるフォントを収録。
レタリング資料集2 ゴシック系3書体
見出しゴシック体・中太ゴシック体・見出し丸ゴシック体の3書体を比較しながら学べるレタリング資料。2400字に及ぶひらがな・カタカナ・漢字のサンプルを収録し、字形の特徴や線の太さ、丸みや角の処理など、書体ごとの性質を視覚的に把握できる構成となっている。実際のレタリング制作を想定したガイド点付きのレイアウトも用意され、書体設計の基礎研究と実務の橋渡しとして機能する内容に仕上がっている。さらに、文字の均衡を整えるための7つの法則や、線端処理・コントラストの付け方といったディテールに関する解説も併載。
レタリング資料集1 明朝系3書体
見出し明朝体・太明朝体・中細明朝体の3書体を、ひらがな・カタカナ・漢字の豊富な事例とともに比較できるレタリング資料。字形の特徴や線質の違いを視覚的に把握しやすい構成となっており、各書体2400字を収めたサンプルページにはガイド点が付与され、制作現場での参照性を高めている。さらに、文字の均衡を整える7つの法則や、明朝体に特有の細部処理の方法など、基礎的なレタリング技法も丁寧に紹介。線の強弱、角度、ディテールの整え方といった実践的な視点から、明朝系書体の造形理念と実践を明快に伝えている。
The Museum of Mistakes | Pierre Leguillon
ブリュッセルを拠点に活動するアーティスト、ピエール・ルギヨンが2013年に始動した移動式プロジェクト「ミステイクの美術館(Musée des Erreurs)」をまとめた作品集。ポストカードやレコードスリーブ、ポスター、布片、陶器、民芸品、子どもの絵など、量産品から個人的な拾得物までが雑多に並ぶこのコレクションは、美術館に“仮設”のように出現し、巡回し、また消えるという独自の形式をとる。日用品とアートが地続きのまま共存する展示は、権威づけられた価値観や美術史の区分を軽やかに裏切り、視覚文化の解釈をゆるやかに揺さぶるものとなっている。本書には、巡回展では扱えなかった小さな資料や、作者自身が撮影した日常風景の写真も収録され、コレクションの背景にある思考が立ち上がる。
Yves Klein & Claude Parent: The Memorial, an Architectural Project
アーティストのイヴ・クラインと建築家クロード・パランによる、未完の追悼建築計画をめぐる記録。1960年代後半、両者は〈空気の建築〉や〈ワルシャワの噴水〉などの構想で協働し、クラインのユートピア的ヴィジョンをパランが建築図面として具現化した。本書では、クラインの没後、妻ロトラウトと母マリー・レイモンの依頼により構想された「イヴ・クライン・メモリアル」の図面や資料をはじめ、二人の関係性をたどるドローイング、彫刻、アーカイブ資料などを収録。英語表記。
和田誠展
2021年から全国を巡回した「和田誠展」の公式図録であり、没後初となる本格的な作品集。4歳から83歳まで、約80年にわたり続いた創作の歩みを、500ページを超える圧倒的なボリュームでたどる一冊。幼少期のスケッチや日記、装丁・ポスター・絵本といった代表作に加え、映画監督やエッセイスト、作詞・作曲に至るまで、多彩な活動を豊富な図版とテキストで紹介している。ジャンルを自在に横断しながら独自の表現を築いた和田誠の全貌が浮かび上がる構成。作品年譜や30の主要トピック、本人の言葉を収めた章など、資料性の高い内容も特徴で、知られざる創作の背景や人物像を丁寧に読み解くことができる。
Gerhard Richter: Florence
ドイツを代表する現代アーティスト、ゲルハルト・リヒターによる「オーバーペインテッド・フォト」シリーズをまとめた作品集。1999年から2000年にかけてフィレンツェで撮影したスナップショットに、パレットナイフで油彩を重ねることで生まれた100点の小作品を収録する。写真に写る街角の断片は、力強いストロークや濃密な色彩によって部分的に覆われ、現実の風景と絵画的抽象が同一平面で交錯する。リヒターが1980年代末から継続する制作方法の中でも、本シリーズは具象と非具象のあいだに位置づけられる重要な試みであり、視覚の階層や再現の在り方を問い直すものとなっている。
Question the Wall Itself | Walker Art Center
アメリカ・ミネアポリスのウォーカーアートセンターで2017年に開催された展覧会をまとめた一冊。ジョナサス・デ・アンドラーデ、ユリ・アラン、ニーナ・バイヤーら23名の国際的アーティストが集い、インテリア空間や装飾が文化的アイデンティティの理解にどのような働きをもつのかを多角的に探る。室内建築や家具、装飾を「演出された場」として読み替え、歴史、社会、政治との接点を照らし出すアプローチは、マルセル・ブロタースが語った“esprit décor”の概念を指標としたもの。作品はアートと舞台装置のあいだを往還し、私たちが空間をどう経験し、そこにどのような価値や象徴を見出すのかを静かに問いかける。
パロディ、二重の声 日本の1970年代前後左右
1970年前後の日本で広く浸透した「パロディ」という表現形式を再検証するために開催された展覧会の図録。横尾忠則、赤瀬川原平、タイガー立石、木村恒久、つげ義春ら、多様な領域を越えて活動した作家たちの作品を通して、当時の視覚文化における引用と転覆の力学をたどる一冊。個性やオリジナリティを権威として扱う価値観そのものへ干渉し、既存のイメージを意図的にずらしながら社会に介入していった表現のあり方を、豊富な図版とテキストで読み解く構成となっている。テレビや雑誌が急速に普及し、情報が氾濫した時代に浮上したパロディの機能や意味を捉え直す内容であり、モダンからポストモダンへ移行する文化史的背景の中で、日本のアートがいかに複層的な声を発し続けたのかを示している。
菊地信義 装幀の本
日本を代表する装幀家・菊地信義が15年間にわたり手がけてきた装丁仕事を体系的にまとめた作品集。詩人・吉増剛造の詩集、中上健次や谷川俊太郎の著作、さらに埴谷雄高『高速者』で用いられた著者自身の脳のCTスキャン画像など、既存の枠組みを超えた造本の試みが多数収められる。1973年から1987年まで、年ごとに制作物を整理し、各作家との協働から生まれた思想や造形の関係性をたどる構成となっており、膨大な図版によって装幀という領域に潜む思考の深さがうかがえる。
分離派建築会100年 建築は芸術か?
日本で最初の建築運動として知られる分離派建築会の歩みを総覧する展覧会図録。大正9(1920)年、東京帝国大学建築学科の学生を中心に結成された彼らは、「我々は起つ」で始まる宣言文に象徴されるように、既存の近代建築の枠組みからの離脱を掲げ、建築を芸術として再定義しようと試みた。石本喜久治、堀口捨己、山田守らを軸に、昭和3(1928)年まで作品展や出版活動を通じて新しい建築観を提示したその実践を、図面、模型、写真、資料など豊富な図版とともに紹介する。大正から昭和へと移り変わる時代のなかで、彼らが何を問い、どのように建築の未来を構想したのかを読み解く内容。