Storm Last Night | 津田直
写真家・津田直によるアイルランドでの旅を記録した作品集。ディングル半島やアラン諸島、クレア島、ドネゴール地方などを巡り、嵐のあとに残る風景や、古代の祈りが息づく土地の記憶をたどる。海や山、石碑や渦巻き模様の遺跡などをカラーで撮影し、自然と人との関係を静かに見つめるまなざしが貫かれている。古層の信仰や神話を内包する風景を通して、時間と記憶の循環を探るような構成。パノラマ写真を活かした造本設計は須山悠里が手がけている。
Joseph Beuys: Werke aus der Sammlung Ulbricht
ドイツの文学者ギュンター・ウルブリヒトが蒐集したヨーゼフ・ボイス作品群を紹介する展覧会図録。フィルツ(フェルト)や脂肪を素材にした挑発的な造形で知られるボイスと親交を重ね、1944〜1983年に制作されたドローイング、油彩、コラージュ、水彩など58点を収集した。代表作《Das Ende des 20. Jahrhunderts》《Konzertflügeljom》なども含まれ、ウルブリヒト・コレクションがノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館に収蔵された経緯とともに紹介している。ドイツ語表記。
Ark Journal Volume III Spring/Summer 2020
スカンジナビア発の年2回刊行インテリア誌『Ark Journal』第3号(2020年春夏号)。「私たちの世界をどのように理解し、アートを通してどのように生きるか」をテーマに、建築・デザイン・アートの交差点をスカンジナビアの感性から探る。ベルリンのアーティスト、アンセルム・ライルと建築家ターニャ・リンケの住まい、デンマークの建築家デイヴィッド・トゥルストルプによる住宅プロジェクト、ヘンリク・ビューロウによるバウハウスを再解釈したフォトエッセイなどを収録。光や素材の儚さに焦点をあて、空間を哲学と表現の場として捉える視点が貫かれている。ヴィルヘルム・ハンマースホイらへのオマージュも含む内容。
村上隆のスーパーフラット・コレクション
2016年に横浜美術館で開催された大規模展の公式カタログで、村上隆が長年にわたり収集してきた約1,300点のコレクションを体系的に紹介する一冊。古美術、陶芸、骨董、現代美術までを縦横に横断する作品群は、作家としてだけでなくキュレーター、ギャラリスト、プロデューサーとして活動してきた村上の眼差しを端的に示している。展覧会で展示された全作品と全作家の紹介に加え、モナ美術館館長デイヴィッド・ウォルシュとのコレクター対談、桃居・広瀬一郎との陶芸対談、さらに分野別の用語解説や詳細な年譜も収録。魯山人からキーファーまで、東西や時代を超えて作品を等価に並置する「スーパーフラット」の思想を背景に、価値観の境界を軽やかに越えながら、個人の審美眼がどのように結晶していくのかを読み解く内容となっている。その収集哲学の広がりと一貫性を視覚的に伝えている。
Matisse: Life & Spirit
20世紀美術を象徴するアンリ・マティスの創作の歩みを、多彩な作品図版とともに立体的にたどる一冊。シドニーのニュー・サウス・ウェールズ州立美術館での展覧会にあわせて刊行され、フォーヴィスム期の鮮烈な色彩表現から、彫刻や素描、さらには晩年の切り絵による革新的な造形まで、その生涯にわたる探究を包括的に紹介する。初期の《Luxe I》から、装飾性と構成感覚が絶妙に交差する1920年代の作品、南仏ヴァンスのロザリオ礼拝堂へと至る精神性の深まりまで、時期ごとの表現が緩やかな連続性の中で示される。長いキャリアの中で幾度もビジョンを更新し、色と形の関係を新たに見つめ直す姿勢は、晩年の大作《王の悲しみ》にまで一貫して息づいている。作品を支える創造のエネルギーと、世界への祝祭的な眼差しを多角的に読み解く構成となっており、マティス芸術の精神を深い層から照らし出している。
Takashi Homma: Tokyo and My Daughter
写真家・ホンマタカシによる写真集『Tokyo and My Daughter』の完全版。1999年から撮り続けてきたシリーズを再構成し、東京という都市の風景と、友人の娘を自らの娘のように見立てて撮影したポートレートを交互に収録している。車や住宅、木々など、日常の断片と少女の成長の瞬間が並置されることで、都市と個人の記憶が静かに響き合う。愛情と距離感のあいだに生まれる眼差しの詩情を、繊細な光のトーンとともに写しとった、ホンマタカシの代表的作品のひとつ。
Lee Ufan 李禹煥
2022年に国立新美術館で開催された、李禹煥(リ・ウファン)の大規模回顧展公式図録。1960年代の初期活動から、石や鉄板を組み合わせて彫刻の概念を刷新した〈関係項〉シリーズ、さらに余白と筆致の往還を探る近年の絵画までを体系的に収録する。国内外の批評家による論考に加え、制作の転換点を示す代表作を年代順に掲載し、「もの」と「行為」の関係を問い続けてきた思索の軌跡を立体的に示している。1968年の《風景》から、点と線の生成を探る絵画シリーズ、空間と呼応する近年の作品群まで、半世紀以上にわたり深化してきた表現の変遷を丁寧に整理。資料編には年譜、展覧会歴、文献一覧、作品リストも収め、作家像を多角的に検証する内容となっている。
余白の芸術 | 李禹煥
「もの派」を代表する美術家・李禹煥が、自身の思想と創作の核心をまとめたエッセイ集。点や線、石や鉄板など、最小限の素材を通して立ち上がる“もの”と“空間”の呼応を見つめ、「余白」がもつ力と広がりを言葉で探る。セザンヌやマチス、ゲルハルト・リヒター、白南準、若林奮らへの考察も交え、自己と他者、内と外、見る者と見られるものの関係を静かに問い直す内容。世界の見え方を揺さぶり、李禹煥の芸術観を深くたどる一冊となっている。
Gerhard Richter: Wako Works of Art 2002
2002年、ワコウ・ワークス・オブ・アート開廊10周年を記念して開催された展覧会カタログ。ドイツを代表する現代美術家ゲルハルト・リヒターの油彩画、ガラス作品、オイル・オン・フォトなど、多様なシリーズを横断的に収録する。抽象と具象、絵画と写真の境界を揺るがし続けてきたリヒターの探究を、少数精鋭の作品群から読み解くことができる構成。あわせて清水穣による論考「アブストラクト・ペインティングの変容」を収録し、リヒターの表現がたどった変化と思想をより深く考察できる内容になっている。
Ai WeiWei: Architecture | アイ・ウェイウェイ
中国の現代美術を象徴する作家のひとりとして知られるアイ・ウェイウェイの建築的実践を総覧するモノグラフ。テート・モダンでの展覧会にあわせて刊行された本書は、東洋思想や伝統工芸への眼差しを背景にしつつ、社会や歴史への批評性を帯びた空間表現を読み解く構成となっている。素材の選択から構造の扱いまで、挑発に満ちた姿勢と厳密な検証が交錯し、場所固有の記憶や時間の層を呼び覚ますような建築のあり方を示している。住宅、公共施設、インスタレーションを含む30のプロジェクトを図版とともに収録し、多様なアプローチを通して建築の枠を拡張する試みを鮮明に伝えている。
Friederike von Rauch & David Chipperfield: Neues Museum | デイヴィッド・チッパーフィールド
1997年から2009年にかけて英国の建築家デイヴィッド・チッパーフィールドが修復を手がけた、ベルリン・ミュージアム・アイランドの〈新博物館(Neues Museum)〉の写真資料集。19世紀半ばにフリードリヒ・アウグスト・シュテューラーが完成させた新古典主義建築は、第二次世界大戦で甚大な被害を受けた。チッパーフィールドは保存と融合を重視し、歴史的要素を残しつつ静謐な現代的意匠を挿入。ベルリン拠点の建築写真家フリーデリーケ・フォン・ラウフが自然光のみでその空間を端正に捉えている。ドイツ語、英語表記。
没後40年 熊谷守一 生きるよろこび
2017年から2018年にかけて開催された展覧会の公式図録。初期の重厚な画風から、猫など身近な題材を鮮やかな色彩と明快な輪郭で描いた代表作に至るまで、熊谷守一の画業を豊富なカラー図版で紹介している。闇から光へと移ろうように変化した作風は、その生涯の歩みとも深く結びつき、孤高の画家が追い求めた表現の核心を映し出す。人生と芸術の関わりを改めて浮き彫りにする内容となっている。
街区の眺め | 飯田鉄
写真家・飯田鉄が1972年から1998年にかけて東京で撮影したモノクロ写真68点をまとめた作品集。衣料品店の看板や古い駅舎、小さな工場や倉庫、低層ビルが並ぶ街角など、いまでは失われつつある昭和後期の都市風景が静かに写し取られている。建築の細部を強調する硬質な光、壁面の質感、陰影の揺らぎは、都市の時間が折り重なるように画面へと定着され、記憶の層をそっと掘り起こす。明治以降に形成されてきた街並みを丹念に歩きながら、かつての東京の輪郭を再び「いま」の眼差しで読み直す試みとも言える内容で、喪失と継承のあわいにある都市の表情を丁寧にとどめている。
雪の刻 | 中井菜央
写真家・中井菜央が2015年から撮影を続けてきた、津南町と周辺の豪雪地帯を写す作品集。毎冬100日を現地で過ごし、さらに2020年から約1年の滞在を経て、重く多湿な雪がつくり出す風景や、雪と共に生きる人々の姿を鮮明なカラーで収録している。天地の感覚を奪う雪の落下、湧き出す水の気配、緑のうねりに潜むかつての雪の記憶など、土地がもつ固有の表情が繊細に捉えられている点が特徴。8000年の歴史を抱く地層や森の色、集落の人々の瞳までもが、雪によって律される時間の層として立ち上がり、目の前の光景と太古の記憶が重ね合わされていく。静けさと重みを湛えた構成のなかに、雪の持つ時間の厚みを見つめる視点が提示される。
Le Bijou Dessine: Designing Jewels | Guillaume Glorieux
2021年から2022年にかけてエコール・デ・ザール・ジョワイエで開催された展覧会に際して刊行された作品集。本書は、ヴァンクリーフ&アーペル宝飾文化基金が所蔵するコレクションを中心に、18世紀後半から20世紀初頭にかけてのおよそ100点のジュエリーデザイン画を紹介。ティファニー、ラリック、ヴェヴェールといったジュエリーデザイン界の巨匠や、パイエ、ブレディヤール、メレリオなどの工房による作品だけでなく、無名の職人やアーティストによる作品も含まれており、ジュエリーデザイン画の技法や用途などを通して、多面的な視点からその奥深い世界を読み解く一冊。フランス語、英語表記。
Superquadra | Eric Van Der Weijde
アムステルダムとブラジルを拠点に活動する写真家エリック・ヴァン・デル・ヴァイデによる作品集。ブラジルの首都ブラジリアに整然と配置された大規模住宅団地「スーパークワドラ」を、モノクロームで記録している。6階建てまでに制限された建物の高さ、反復される住棟のリズム、広大な余白をともなう都市構造がもつ独特の抽象性を淡々と捉え、計画都市が孕むユートピアの理想と、その内側に漂う静けさや空虚さを浮かび上がらせる。人の姿がほとんど現れないフレーミングは、ブラジリアという都市の時間と空間のあり方を静かに問い直す視覚的記録となっている。
Grid Systems in Graphic Design | Josef Muller-Brockmann
スイスのタイポグラファー、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンが提唱したグリッドを用いたデザイン手法を体系的にまとめた一冊。レイアウトの構造を合理的に理解できるよう工夫され、豊富な具体例を通して視覚的に示している。タイポグラフィやグラフィックデザインの基礎理論として国際的に読み継がれ、教育や実務の場においても広く参照される重要な文献。
Covering the ’60s: George Lois, the Esquire Era
アートディレクションの歴史に残るジョージ・ロイスによる『エスクァイヤ』誌のカバーデザインを集成した作品集。公民権運動、ベトナム戦争、ポップカルチャーの拡大など、価値観が大きく揺れ動いた1960年代の社会を背景に、挑発的で象徴性の高い表紙を次々と生み出したロイスの創造力を多角的に辿る内容となっている。マリリン・モンロー、モハメド・アリ、アンディ・ウォーホルら同時代の人物を大胆に扱った構図や、視覚的インパクトと批評性を兼ね備えたイメージの組み立て方が詳らかにされ、雑誌という媒体の可能性を押し広げたデザイン思考の核が浮かび上がる。各カバーにはロイス自身の解説が添えられ、制作意図や当時の政治・文化的状況が具体的に語られ、メディア史における独自の到達点を示している。
未来に挑戦したデザイナー ハーブ・ルバーリン
大胆なタイポグラフィと鋭い造形感覚で知られるデザイナー、ハーブ・ルバーリンの多面的な仕事を総覧する作品集。『Eros』『Fact』『Avant Garde』といった誌面で展開された実験的なレタリングをはじめ、ポスター、ロゴタイプ、装丁、エディトリアルデザインまで、多岐にわたる制作を豊富な図版とともに紹介している。文字の形態そのものに表現を宿らせる独創的なアプローチや、誌面全体を構築的に捉える編集デザインの手法が丹念に示され、ルバーリンが切り拓いたモダンタイポグラフィの核心に迫る内容。巻末には貴重なインタビューも収録され、彼の思考と実践を立体的に読み解くことができる。
エル・リシツキー 構成者のヴィジョン | 寺山祐策
エル・リシツキーの思想と実践を多面的に読み解く批評集。ロシア・アヴァンギャルドを牽引したデザイナー/構成主義者として、絵画、建築、写真、タイポグラフィを横断しながら革新的な表現を切り拓いたリシツキーの仕事を、寺山祐策「構成者の空間(ヴィジョン)」、新島実「リシツキーとチヒョルト」、多木浩二「リシツキーと20世紀」ほか、複数の論者が独自の視点で考察する。 設計思想や空間観、モダン・タイポグラフィとの関係、同時代の前衛運動との接点などを掘り下げ、希少な図版資料とともにその造形理念と歴史的意義を検証。ロシア・アヴァンギャルドから構成主義に至る美術・デザイン史の流れを照らし出し、リシツキーの表現原理を構築的に解き明かしている。
Revival | 中島英樹
アートディレクター/グラフィックデザイナーの中島英樹による作品集。代表作のひとつである雑誌『Cut』のアートワーク57点を大型図版で収録し、その革新的なデザインアプローチを検証する。写真とタイポグラフィの緊張感ある構成、繊細なレイアウトバランスなど、90年代以降の日本のエディトリアルデザインに新たな表現を切り拓いた中島の感性と実験精神が刻まれている。
本日の絵 皆川明挿画集 2冊組
ミナ ペルホネン創業デザイナー・皆川明による初の画集。2冊組構成で、1冊目には川上弘美の連載小説「森へ行きましょう」(日本経済新聞)の挿画332点と、その単行本表紙の描き下ろしを収録。もう1冊には朝日新聞連載コラム「日曜に想う」の挿画297点を収め、さらにインタビューも掲載している。函には本書のために描き下ろした図版を使用し、アートディレクションは葛西薫が担当。日々の思索や物語に寄り添う皆川の線が凝縮された内容となっている。
Without Thought vol.10 BOX | 深澤直人
プロダクトデザイナー・深澤直人によるデザインワークショップ「WITHOUT THOUGHT」第10回の成果をまとめた作品集。今回のテーマは「箱」。ものを入れる、運ぶ、守るといった機能に加え、日常に寄り添う造形としての箱の在り方を多角的に探る。分野の異なる若手デザイナーたちが参加し、素材や形状、用途の異なるプロトタイプを通して「箱」に付着する記憶や感覚を可視化。中身との関係や使い手の行為にまで踏み込んだ思考の軌跡を収録している。
Without Thought vol.11 容器
プロダクトデザイナー深澤直人が主宰するデザインワークショップ「WITHOUT THOUGHT」第11回の成果をまとめた作品集。今回のテーマは、日常に溢れる“容器”という最も身近で根源的な対象。企業デザイナーを中心とした参加者たちが、入れ物という行為の起点に立ち返り、素材の質感、容量の概念、形態の必然性、重力や手触りといった身体的スケールまで、多角的な視点からデザインを再考している。直感を重視するワークショップの精神のもと、器や箱、袋、ケース、境界をつくる仕組みなど、用途や産業を越えて多様な提案が並び、機能から意味へと拡張する“容器”の捉え方が浮かび上がる。
オラファー・エリアソン ときに川は橋となる
デンマーク出身の現代アーティスト、オラファー・エリアソンの日本で10年ぶりとなる大規模個展にあわせて刊行された公式図録。光、水、霧といった自然現象を素材に、知覚と環境の関係を問い直す体験型インスタレーションで知られるエリアソン。本書では、新作《ときに川は橋となる》をはじめ、本展のために制作された数々の新作と、代表的な光学的作品を豊富な図版とともに紹介する。展覧会キュレーター長谷川祐子による論考、哲学者ティモシー・モートンとの対話、スタジオによるサステナビリティへの提言も収録し、エリアソンの創造的思考と実践を多角的に読み解く内容となっている。
驚異の三人!! 高松次郎・若林奮・李禹煥
2020年に世田谷美術館で開催された展覧会にあわせて刊行された公式カタログ。高松次郎、若林奮、李禹煥という、日本の戦後美術を語るうえで欠かせない3名の作家が手がけた“版”の表現に焦点を当て、その創造の背景と展開を紐解く。木版・リトグラフ・シルクスクリーンなど多様な技法による作品図版を豊富に収録し、立体や絵画と往還しながら探究を深めた彼らの思考の軌跡を可視化する構成となっている。素材への感受性、反復による形態の生成、媒介としての「版」がもたらす距離感など、三者それぞれの実践を比較しながら、現代美術における版表現の新たな位置づけを提示している。
板絵の控 | 芹沢銈介
型絵染の人間国宝・芹沢銈介による蛇腹製本の習作集。花や鳥、器物、人々の営みなど、日々の身近な景色を板絵に見立てて描いたペインティングを収めており、のびやかな線と自在な構図、手描きならではの温もりがページをめくるごとに立ち上がる。染色家として培った色彩感覚が随所に息づき、素朴さと装飾性が響き合う図像は、芹沢芸術の源泉ともいえる瑞々しい創造の瞬間を伝えている。
工芸批評 | 井出幸亮、鞍田崇、沢山遼、菅野康晴、高木崇雄、広瀬一郎、三谷龍二
2019年に松屋銀座デザインギャラリーで開催された「工芸批評」展にあわせて刊行された書籍。監修者、出展作家、美術批評家による現代工芸論を収録し、それぞれの思想や視点を通して「工芸とは何か」を多角的に探っている。あわせて、各人の工芸観を反映した25の作品を解説つきで紹介。後半には、工芸に関する25冊の書評と100冊のブックリストを掲載し、批評と実践、資料性を兼ね備えた内容となっている。
Things and Seen | 若木信吾
写真家・映画監督の若木信吾による作品集。理髪店の窓、ライフル、窓際に咲く花、収穫したトウモロコシ…2002年から2019年の間に世界各地で撮影された写真を収録した一冊。800部限定刊行。見開きに署名あり。
家族 2号 | HYOTA
家族と一年誌『家族』第2号では、千葉県大多喜町で薬草園兼ボタニカルブランド「mitosaya 薬草園蒸留所」を営む江口宏志・祐布子夫妻と娘の美糸(みと)ちゃん、紗也(さや)ちゃんの一家を3年間にわたって追う。ブックショップ「ユトレヒト」や「TOKYO ART BOOK FAIR」を手がけた江口宏志が、蒸留家として新たな道を歩み始めた日々を、奥山由之と吉楽洋平の写真で四季を通じて記録。植物とともに育つ家族の暮らしと、日々の発見、挑戦の過程を丁寧に描き出す。
Mの辞典 | 望月通陽
美術家・染織家として活動する望月通陽による詩画集。「MAGICIAN(魔法使い)」「MONOLOGUE(独白)」「MOVEMENT(発芽)」など、24の“M”で始まる言葉を主題に、版画と詩的なテキストによって構成されている。紙版画の手触りと静謐な言葉が響き合い、寓話のような世界観を織り上げる一冊。宗教的象徴や日常の断片、内的な思索が交錯し、望月の造形的想像力が詩として、また絵として展開される。装丁は望月克都葉によるもの。文字とかたちが共鳴する、詩と美術のあわいに立つ作品集。
カンディンスキー展
2002年に開催された「カンディンスキー展」の公式図録。ミュンヘンとモスクワを主な舞台とした1896年から1921年までの活動期に焦点を当て、具象から抽象へと向かうカンディンスキーの表現の転換をたどる内容となっている。初期の民俗的モチーフや神秘主義的傾向を持つ作品から、色彩と形態が解き放たれる《コンポジション》へ至る過程を豊富な図版で紹介し、当時の思想的背景や芸術運動との関係性も丁寧に整理。ロシア前衛芸術や青騎士との交流を視野に入れながら、内的必然性を追求したカンディンスキーの造形理念と、その変貌の核心を読み取ることができる構成になっている。
開校100年 きたれ、バウハウス展
2019年から2020年にかけて東京ステーションギャラリー等で開催された「開校100年 きたれ、バウハウス展」の公式図録。バウハウス創立100周年を記念し、その教育体系に焦点を当てながら、20世紀を代表する造形学校の全貌を多面的に紹介している。ワシリー・カンディンスキー、パウル・クレーら名だたる教師が担った基礎課程の授業内容を起点に、学生が進んだ家具・織物・金属・舞台など各工房での実習と成果物を豊富な図版で提示。バウハウスが現代の造形教育とデザインの基層をいかに形づくったかを読み解いている。また「総合の位相」や、日本人留学生4名の活動に光を当てた章も設けられ、国際的広がりの中で育まれた創造のダイナミズムを丁寧に示している。
D&D SCAN 葛西薫の仕事と周辺
日本を代表するアートディレクター、葛西薫の仕事を体系的にまとめた作品集。「サントリー烏龍茶」「西武百貨店」などの広告をはじめ、ブックデザインや展覧会ポスターなど、多岐にわたる仕事を7章構成で紹介する。絵コンテやスケッチ、制作過程の資料を通して、葛西の思考と造形感覚を探る内容。洗練されたタイポグラフィと静かなユーモアが共存する画面に、デザインの根源を問い続ける姿勢が映し出されている。
Magnificent Obsessions: The Artist as Collector | Lydia Yee
現代アーティストたちの個人的なコレクションを通して、創作の源泉と美学的・心理的側面を探る資料集。アンディ・ウォーホル、ダミアン・ハースト、杉本博司、マーティン・パー、ソル・ルウィットらの蒐集品を紹介し、量産された日用品から希少なアートピースまで、彼らが惹かれた「モノ」とその眼差しを可視化する。作品と併せて展示されるコレクションは、それぞれの作家の思想や衝動を映し出し、創造行為と蒐集行為の密接な関係を浮かび上がらせている。
Virgil Abloh. Nike. ICONS
2016年にナイキとファッションデザイナー、ヴァージル・アブローが協働し、スニーカーカルチャーに革新をもたらした伝説的コレクション〈The Ten〉の創作過程を記録した一冊。エア ジョーダン1、エア フォース1、エア マックス90など、10足の名作を再構築し、解体と再構成を通して新たな意味を与えたデザインの舞台裏を、プロトタイプの資料やナイキのデザイナーとのメッセージ、アーカイブ写真などとともに紹介する。構造をあらわにした装丁も含め、アブローの思考と制作の全貌を可視化する。序文は藤原ヒロシ。
The Sonneveld House: An Avant-Garde Home from 1933
オランダ・ロッテルダムに現存する機能主義建築の名作、ゾンネフェルト邸を紹介する建築資料集。1933年に建築事務所ブリンクマン&ファン・デル・フルフトが設計し、ギスペン社の家具や照明を採用することで、建築からインテリアまで統一されたモダンデザインを実現した住宅として知られる。本書では、設計思想や当時の生活様式、家具デザインの特徴に加え、保存修復の過程も豊富な図版で解説。20世紀初頭の「新建築」運動を象徴する邸宅として、モダニズム住宅の理念と美学を再検証する内容となっている。
Brazil’s Modern Architecture | Elisabetta Andreoli、Adrian Forty
ブラジルのモダン建築を体系的に紹介する写真資料集。オスカー・ニーマイヤーやルシオ・コスタをはじめ、アフォンソ・エドゥアルド・レイジ、ヴィラノヴァ・アルチガスら評価の高い建築家の仕事を幅広く収録。図面やスケッチ、カラー・モノクロ写真を通して、その造形や構造の多様性を伝える。ブラジリア建設以降に展開した建築の歩みを追うとともに、社会的課題に直面しながらも新しい可能性を模索する現代の動向までを視野に収めている。英語表記。
Horse | Jitka Hanzlova
チェコ出身の写真家、イトカ・ハンズロヴァによる作品集。人と環境の関係性を見つめてきたこれまでのシリーズに続き、本作では被写体を「馬」に定め、その身体性に迫る。毛並みやまつ毛、耳の産毛、尾に絡む草の一本に至るまで、細部を丁寧にとらえた親密なカラー写真からは、動物としての馬の存在感と気配が静かに立ち上がる。図版構成に加え、作家ジョン・バーガーによる序文を収録し、見る者の感覚を呼び覚ますような詩的な視覚体験を提示している。
An Incomplete Dictionary of Show Birds Vol.2 | Luke Stephenson
イギリスの写真家ルーク・スティーヴンソンが15年にわたり撮影を続ける「ショーバード」シリーズの第2巻。英国で行われる鳥の品評会に出品されるインコやフィンチ、カナリアなど、鮮やかな羽色をもつ小鳥たちを、単色の背景と緻密な構図で捉えている。セキセイインコから始まったこのプロジェクトは、愛玩と鑑賞、分類と審美の狭間にある人間と鳥の関係を静かに映し出すもの。華やかさとユーモアを併せもつポートレート群は、自然の造形と人工的な美意識の交錯を鮮やかに示している。
Art School | Paul Winstanley
英国のアーティスト、ポール・ウィンスタンリーが、全英50以上の美術大学の学部スタジオを撮影したシリーズを収録。学年の合間に訪れ、無人のまま記録されたスタジオは、白い仮設壁やペンキ跡、無機質な床が抽象的な空間性を生み出す。創造性を育む場でありながら、静かで中立的な室内が持つ二面性を浮かび上がらせる。200点以上のカラー写真に加え、美術批評家ジョン・トンプソンのテキストと、マリア・フスコによる作家インタビューを収録。英語表記。
AUGUST | Colllier Schorr
写真家コリー・ショアが1990年代初頭からドイツ南部で撮影を重ね、記録と虚構を織り交ぜた小さな町の肖像を描いた作品集。シュヴェービッシュ・グミュントで撮影されたポラロイドをもとに、記憶やナショナリズム、戦争、移住、家族といった主題を探る。ドキュメンタリーと演出のあいだを往復する構成で、歴史的権威への批評性や距離感を浮き彫りにする。「Forests and Fields」シリーズ第3作として刊行された。英語表記。
Tokyo Style ソフトカバー版 | 都築響一
写真家・編集者の都築響一による代表的写真集。東京で暮らす人々のリアルな生活空間を撮影し、整然とした理想の部屋ではなく、「好きなものに囲まれた」個性的な住まいのあり方を捉えている。六畳一間のワンルームからアトリエ兼自宅まで、ジャンルも世代も異なる住人たちが、自らの感性で作り上げた空間に息づく「生活の美学」を可視化。インテリアやデザインの文脈を超え、都市の片隅にある無数の“生の現場”を照射する。生活のリアリティと創造性を併せもつ、東京の暮らしの記録。
Scandinavian Style: Classic and Modern Scandinavian Design and Its Influence on the World
北欧デザインの精神とその世界的影響を多角的に紹介するビジュアルブック。アルヴァ・アアルト、エーロ・サーリネン、アルネ・ヤコブセンらの建築や家具デザインをはじめ、iittala、Volvo、Hackmanなどのプロダクトやブランドまで、機能性と美しさを両立させた造形理念を豊富な写真で解説している。木やガラス、金属など自然素材への敬意と、「形は機能に従う」というモダニズムの理想を背景に、北欧の暮らしに根づいたデザイン文化の系譜をたどる構成。シンプルで洗練された造形が、いかに日常生活と結びつき、世界のデザイン思想を変えてきたかを明らかにしている。