印刷史 タイポグラフィの視軸 | 府川充男
明治初年以前の近代日本活字史から、幕末〜大正期の新聞紙面と組版意匠の変遷までを体系的に解説した、印刷史・和文タイポグラフィの入門書。活字の成り立ちや表記の変化、新聞という大量印刷物の登場によるレイアウトの発展など、和文組版の基礎をかたちづくった歴史的背景を丹念にたどる内容となっている。とくに『長野新聞』の号外資料の検証や、『珊瑚集』の組版に関する考察など、資料批判を含んだ精密な分析が特徴で、文字文化の変遷を一次資料から読み解こうとする姿勢が際立つ。また、日本の基本書体として120年にわたり使用されてきた「築地体」をテーマに、覆刻・飜刻によるフォントを収録。
レタリング資料集2 ゴシック系3書体
見出しゴシック体・中太ゴシック体・見出し丸ゴシック体の3書体を比較しながら学べるレタリング資料。2400字に及ぶひらがな・カタカナ・漢字のサンプルを収録し、字形の特徴や線の太さ、丸みや角の処理など、書体ごとの性質を視覚的に把握できる構成となっている。実際のレタリング制作を想定したガイド点付きのレイアウトも用意され、書体設計の基礎研究と実務の橋渡しとして機能する内容に仕上がっている。さらに、文字の均衡を整えるための7つの法則や、線端処理・コントラストの付け方といったディテールに関する解説も併載。
レタリング資料集1 明朝系3書体
見出し明朝体・太明朝体・中細明朝体の3書体を、ひらがな・カタカナ・漢字の豊富な事例とともに比較できるレタリング資料。字形の特徴や線質の違いを視覚的に把握しやすい構成となっており、各書体2400字を収めたサンプルページにはガイド点が付与され、制作現場での参照性を高めている。さらに、文字の均衡を整える7つの法則や、明朝体に特有の細部処理の方法など、基礎的なレタリング技法も丁寧に紹介。線の強弱、角度、ディテールの整え方といった実践的な視点から、明朝系書体の造形理念と実践を明快に伝えている。
The Museum of Mistakes | Pierre Leguillon
ブリュッセルを拠点に活動するアーティスト、ピエール・ルギヨンが2013年に始動した移動式プロジェクト「ミステイクの美術館(Musée des Erreurs)」をまとめた作品集。ポストカードやレコードスリーブ、ポスター、布片、陶器、民芸品、子どもの絵など、量産品から個人的な拾得物までが雑多に並ぶこのコレクションは、美術館に“仮設”のように出現し、巡回し、また消えるという独自の形式をとる。日用品とアートが地続きのまま共存する展示は、権威づけられた価値観や美術史の区分を軽やかに裏切り、視覚文化の解釈をゆるやかに揺さぶるものとなっている。本書には、巡回展では扱えなかった小さな資料や、作者自身が撮影した日常風景の写真も収録され、コレクションの背景にある思考が立ち上がる。
Yves Klein & Claude Parent: The Memorial, an Architectural Project
アーティストのイヴ・クラインと建築家クロード・パランによる、未完の追悼建築計画をめぐる記録。1960年代後半、両者は〈空気の建築〉や〈ワルシャワの噴水〉などの構想で協働し、クラインのユートピア的ヴィジョンをパランが建築図面として具現化した。本書では、クラインの没後、妻ロトラウトと母マリー・レイモンの依頼により構想された「イヴ・クライン・メモリアル」の図面や資料をはじめ、二人の関係性をたどるドローイング、彫刻、アーカイブ資料などを収録。英語表記。
和田誠展
2021年から全国を巡回した「和田誠展」の公式図録であり、没後初となる本格的な作品集。4歳から83歳まで、約80年にわたり続いた創作の歩みを、500ページを超える圧倒的なボリュームでたどる一冊。幼少期のスケッチや日記、装丁・ポスター・絵本といった代表作に加え、映画監督やエッセイスト、作詞・作曲に至るまで、多彩な活動を豊富な図版とテキストで紹介している。ジャンルを自在に横断しながら独自の表現を築いた和田誠の全貌が浮かび上がる構成。作品年譜や30の主要トピック、本人の言葉を収めた章など、資料性の高い内容も特徴で、知られざる創作の背景や人物像を丁寧に読み解くことができる。
Gerhard Richter: Florence
ドイツを代表する現代アーティスト、ゲルハルト・リヒターによる「オーバーペインテッド・フォト」シリーズをまとめた作品集。1999年から2000年にかけてフィレンツェで撮影したスナップショットに、パレットナイフで油彩を重ねることで生まれた100点の小作品を収録する。写真に写る街角の断片は、力強いストロークや濃密な色彩によって部分的に覆われ、現実の風景と絵画的抽象が同一平面で交錯する。リヒターが1980年代末から継続する制作方法の中でも、本シリーズは具象と非具象のあいだに位置づけられる重要な試みであり、視覚の階層や再現の在り方を問い直すものとなっている。
Question the Wall Itself | Walker Art Center
アメリカ・ミネアポリスのウォーカーアートセンターで2017年に開催された展覧会をまとめた一冊。ジョナサス・デ・アンドラーデ、ユリ・アラン、ニーナ・バイヤーら23名の国際的アーティストが集い、インテリア空間や装飾が文化的アイデンティティの理解にどのような働きをもつのかを多角的に探る。室内建築や家具、装飾を「演出された場」として読み替え、歴史、社会、政治との接点を照らし出すアプローチは、マルセル・ブロタースが語った“esprit décor”の概念を指標としたもの。作品はアートと舞台装置のあいだを往還し、私たちが空間をどう経験し、そこにどのような価値や象徴を見出すのかを静かに問いかける。
パロディ、二重の声 日本の1970年代前後左右
1970年前後の日本で広く浸透した「パロディ」という表現形式を再検証するために開催された展覧会の図録。横尾忠則、赤瀬川原平、タイガー立石、木村恒久、つげ義春ら、多様な領域を越えて活動した作家たちの作品を通して、当時の視覚文化における引用と転覆の力学をたどる一冊。個性やオリジナリティを権威として扱う価値観そのものへ干渉し、既存のイメージを意図的にずらしながら社会に介入していった表現のあり方を、豊富な図版とテキストで読み解く構成となっている。テレビや雑誌が急速に普及し、情報が氾濫した時代に浮上したパロディの機能や意味を捉え直す内容であり、モダンからポストモダンへ移行する文化史的背景の中で、日本のアートがいかに複層的な声を発し続けたのかを示している。
菊地信義 装幀の本
日本を代表する装幀家・菊地信義が15年間にわたり手がけてきた装丁仕事を体系的にまとめた作品集。詩人・吉増剛造の詩集、中上健次や谷川俊太郎の著作、さらに埴谷雄高『高速者』で用いられた著者自身の脳のCTスキャン画像など、既存の枠組みを超えた造本の試みが多数収められる。1973年から1987年まで、年ごとに制作物を整理し、各作家との協働から生まれた思想や造形の関係性をたどる構成となっており、膨大な図版によって装幀という領域に潜む思考の深さがうかがえる。
分離派建築会100年 建築は芸術か?
日本で最初の建築運動として知られる分離派建築会の歩みを総覧する展覧会図録。大正9(1920)年、東京帝国大学建築学科の学生を中心に結成された彼らは、「我々は起つ」で始まる宣言文に象徴されるように、既存の近代建築の枠組みからの離脱を掲げ、建築を芸術として再定義しようと試みた。石本喜久治、堀口捨己、山田守らを軸に、昭和3(1928)年まで作品展や出版活動を通じて新しい建築観を提示したその実践を、図面、模型、写真、資料など豊富な図版とともに紹介する。大正から昭和へと移り変わる時代のなかで、彼らが何を問い、どのように建築の未来を構想したのかを読み解く内容。
ウィーンの夢と憧れ 世紀末のグラフィック・アート
2003年に開催された「ウィーンの夢と憧れ 世紀末のグラフィック・アート」展の公式図録。19世紀末、ウィーンではグスタフ・クリムトを中心とした分離派が誕生し、保守的な美術界から離れ、芸術と生活を刷新する新しい表現が追求された。本書では、彼らが手がけたポスター、書籍装丁、デザイン画、素描など約350点を収録し、絵画や工芸、建築と連動して展開した総合芸術としてのグラフィック表現をたどる。印刷技術の発展と雑誌文化の隆盛を背景に、ウィーンで生まれた華やかな図像の数々は、都市に生きる人々の美意識や当時の文化的理想を映し出し、世紀末芸術の魅力を豊かに物語る。
世紀末ウィーンのグラフィック デザインそして生活の刷新にむけて(表紙白)
2019年に京都国立近代美術館と目黒美術館で開催された「世紀末ウィーンのグラフィック デザインそして生活の刷新にむけて」展の公式図録。1897年のウィーン分離派の結成から第一次世界大戦前夜までの約20年にわたり、クリムト、ホフマンらを中心に花開いたウィーン美術・デザインの革新を、グラフィック表現を軸にたどる。雑誌や挿絵本、版画、ポスターなど、当時の印刷文化の発展とともに広まった多彩なグラフィック作品を豊富な図版で収録し、社会に新しい美意識をもたらしたその意義を検証している。
Starck | Philippe Starck
フランスを代表するデザイナー、フィリップ・スタルクの多彩な仕事をまとめた作品集。三本脚のレモンプレスに象徴されるユーモアと実験精神あふれるプロダクトから、建築・インテリア・家具まで、幅広い分野にわたるプロジェクトを年代順に紹介する。モノクロとカラーの図版を交え、素材の扱い方やフォルムの構築、空間演出に至るまで、スタルクの独創的なデザイン哲学がどのように展開してきたかを丁寧にたどる構成となっている。引用やアフォリズムを自ら編んだテキストも収録され、彼の思考の源泉に触れられる点も魅力である。日常用品から大規模建築まで一貫する、人間の生活を軽やかに更新しようとする姿勢を読み解く手がかりに満ちた一冊。
エットレ ソットサスの目がとらえた カルティエ宝飾デザイン
2004年に醍醐寺霊宝館で開催された展覧会の図録で、イタリアの建築家・デザイナー、エットレ・ソットサスが選び抜いたカルティエのアンティークジュエリーを紹介する一冊。ティアラやチョーカー、髪飾り、コサージュ、時計、万年筆、デザイン画まで、約200点の図版を収録し、宝飾史に刻まれた造形の豊かさを多角的に示している。ベルリン、ヒューストン、ミラノ、京都を巡回した展覧会では、ソットサス自身がアーティスティックディレクションを担当し、旧発電所を改装したデザインミュージアムから仏像が並ぶ寺院まで、各地の空間に呼応する独自の展示を構成した。
極 茶の湯釜 茶席の主
2016年にMIHO MUSEUMで開催された「極 大茶の湯釜展―茶席の主―」の公式図録。茶を点てる湯を沸かすための道具であり、茶席の中心的存在でもある「茶の湯釜」に焦点を当て、奈良時代から江戸時代にいたる名品を体系的に紹介する。芦屋釜・天明釜をはじめ、初期の京釜や江戸期に制作された優品など、重要文化財・重要美術品を含む約100点を掲載し、形姿、肌合い、文様から読み取れる造形的特徴や制作背景を丁寧に解説している。千利休、古田織部、小堀遠州ら歴代の茶人によって受け継がれてきた美意識がどのように釜の造形へ結実したのか、時代ごとの差異を比較しながら追える構成となっている。
福田繁雄大回顧展 ユーモアのすすめ
2011〜2012年に開催された「ユーモアのすすめ 福田繁雄大回顧展」の図録。ポスター、トリックアートの立体作品、初期スケッチなどを幅広く収録し、視覚トリックや錯覚を巧みに用いた独創的な表現で日本のグラフィックデザインを牽引した福田繁雄の全貌をたどる内容となっている。1950年代半ばから60年代、東京オリンピックや大阪万博を目前に控えた日本のデザイン界が大きく変動する時代にキャリアをスタートさせ、1972年のワルシャワ国際ポスタービエンナーレ金賞を機に世界的評価を確立した軌跡を丁寧に紹介する。
Louis Vuitton: Volez Voguez Voyagez 空へ、海へ、彼方へ 旅するルイ・ヴィトン
2015年から16年にかけて開催された巡回展の公式図録。「旅」を主題に、ルイ・ヴィトンの象徴であるトランクの発展を、その創業期から現代に至るまで多角的にたどる。創業一族が所蔵するクラシックアーカイブの貴重な品々に加え、村上隆や草間彌生らとのコラボレーションによって生まれたプロダクトも紹介され、ブランドが歩んできた歴史の層と創造の広がりが鮮明に示される構成。旅の概念が変化し続けるなかで、トランクという器がいかに時代の精神を映し、グローバルな移動文化をつくり上げてきたのかを読み取れる一冊であり、ブランドの造形理念と実践を的確に伝えている。
カッサンドル展
1991年に東京都庭園美術館で開催された展覧会の公式図録。フランスのグラフィックデザイナー、アドルフ・ムーロン・カッサンドル(A. M. Cassandre)のポスター作品を中心に収録している。“街角の演出家”と呼ばれた彼のデザインは、力強い構図と大胆なタイポグラフィで都市の風景を一変させ、20世紀初頭の商業美術を革新した。豊富なカラー図版を通じて、その造形感覚と時代を彩ったヴィジュアル表現を堪能できる内容となっている。
宇野亞喜良 AQUIRAX WORKS
グラフィックデザイナー、イラストレーターとして知られる宇野亞喜良の活動を総覧する作品集。60年にわたり手がけてきた多岐にわたる仕事を網羅し、ポスター、パッケージ、CDジャケット、書籍装丁、挿絵などをカテゴリー別に紹介している。独自の幻想的な世界観を体現する図版に加え、本人インタビューや解説テキストを収録し、宇野の創作の源泉とデザイン史における位置づけを多角的に示している。
坂口寛敏 パスカル 庭・海・光
2017年に東京藝術大学大学美術館で開催された「坂口寛敏退任記念展 パスカル 庭・海・光」の公式図録。油画専攻で25年にわたり教鞭をとり、学生とともにアートと地域を結ぶ活動にも力を注いできた坂口寛敏の軌跡を総覧する。ミュンヘン滞在期を経て帰国後に展開したドローイング、絵画、インスタレーション、フィールドワークは、環境との関わりの中で生成と循環を探る実践として位置づけられ、その多彩な展開が約60点の作品と新作を交えて紹介。
新たなる地平に向けて 安藤忠雄建築展
東京・大阪で開催された「安藤忠雄建築展 新たなる地平に向けて」の公式図録。六甲の集合住宅、光の教会、水の教会、風の教会、ライカ本社ビルなど、初期から近年に至る代表作を、多角的な視点からたどる内容となっている。展示では、模型30点、スケッチ120点、ドローイング30点、CG5点を含む約250点を公開し、安藤建築に通底する構想力と空間への感受性を立体的に示した。JR京都駅改築案、大阪府立近つ飛鳥博物館、中之島プロジェクト、セビリア万博日本館案など、国際的な活動を象徴するプロジェクトも網羅され、都市との関係性や自然の導入、光の扱いといった建築哲学が浮かび上がる。
アイデア No.285 North
グラフィックデザイン誌『アイデア』No.285(2001年3月号)は、ロンドンを拠点とするデザインスタジオ North を特集する一冊。企業ブランディングからエディトリアル、サイン計画まで、多岐にわたる近作をフルカラーで紹介し、スタジオの姿勢と造形感覚を立体的に示している。メンバー全員への個別インタビューやコメントも収録され、彼らの思考のプロセスや日々の実践に触れられる構成となっている。さらに本文の用紙を記事ごとに切り替えるなど、雑誌自体の造本にも North 作品と呼応する工夫が凝らされ、特集全体の視覚的リズムを生み出している。
アイデア No.247 ラテン・アメリカのグラフィックデザイナーたち
グラフィックデザイン誌『アイデア』No.247(1993年11月号)。巻頭特集はラテン・アメリカのグラフィックデザイナーたち。ルーベン・フォンタナ、アントニオ・ペレス・ニィコらを紹介し、その独創的で多彩な表現を豊富なビジュアルで掘り下げる。そのほか、「女性デザイナーが創る洗練されたシンボル ブラジルのデザインオフィス A3」福田繁雄、「変幻自在のセルフ・ポートレイト 森村泰昌」日比野克彦などを収録。
George Balanchine’s the Nutcracker | ジョエル・マイヤーウィッツ 写真集
ジョージ・バランシン振付によるニューヨーク・シティ・バレエ団版「くるみ割り人形」を、写真家ジョエル・マイヤーウィッツが撮影した作品集。壮麗な舞台装置や衣装、幻想的な光の演出、ダンサーたちの躍動を臨場感ある写真でとらえ、名作バレエがもつ華やかさと物語性を鮮やかに映し出す。劇場空間に満ちる高揚感や祝祭の気配がページを重ねるごとに広がり、舞台芸術としての「くるみ割り人形」が築いてきた美意識を多角的に伝えている。
STARS 現代美術のスターたち 日本から世界へ
2020年から2021年にかけて森美術館で開催された展覧会の公式図録。村上隆、李禹煥、草間彌生、宮島達男、奈良美智、杉本博司の6名を取り上げ、日本発の現代美術がどのように世界へ位置づけられてきたのかを多角的に描き出す。各章では初期から最新作までの主要作品を軸に、活動歴、作家自身の言葉、展覧会評や関連資料を織り交ぜながら、その歩みを丁寧に辿る構成となっている。また、1950年代以降に海外で開催された日本現代美術展のアーカイブも収録し、当時の評価軸や展示風景、批評を通して国際的な受容の歴史を読み解く。国内外の論考も加わり、日本の現代美術が築いてきた地平を包括的に示した一冊。
Dries Van Noten 1-100: One Hundred Collections, a Style Evolves
ベルギーのデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテンの約30年にわたるクリエイションを網羅した2冊組コレクション集。1992〜2005年の1–50と、2005〜2017年の51–100を収録し、アントワープ・シックスのオリジナルメンバーとして独自の美学を築いてきたデザイナーの歩みを体系的にまとめている。2,000点を超えるランウェイ写真やディテールショットを通して、異なる文化や素材を大胆に融合するヴァン・ノッテンのスタイルの進化を可視化。カラー、プリント、シルエットへの鋭い感性がどのように熟成していったのかを一望できる構成となっている。ドリス本人のテキストに加え、Tim BlanksやSusannah Frankelら著名ファッションジャーナリストによる寄稿も収録。記念碑的100回目のショー開催に合わせて刊行された、ブランドの世界観を多面的に読み解く決定版アーカイブ。
The Flowers | Lisa Cooper
オーストラリアのフローリストでありアーティスト、さらに哲学者としても活動するリサ・クーパーが、花とともに過ごす日々を記録した一冊。スタジオの制作風景や、ブーツ、バラのトゲ取り器、ブリーフケースといった愛用の仕事道具、さらに農園で花を育てる人々のポートレートまで、写真とエッセイによって丁寧に描き出されている。クーパーにとって花は、感情や記憶を最も豊かに伝える媒介であり、17のアレンジメントを紹介する章では、家族や友人、アーティストや園芸家など、自身に影響を与えてきた人々への思いが静かに織り込まれている。
Eero Saarinen | Antonio Roman
20世紀アメリカ建築を象徴する建築家・デザイナー、エーロ・サーリネンの活動を包括的に紹介する作品集。JFK空港TWAターミナルやダレス空港、セントルイスのゲートウェイ・アーチといった象徴的な建築から、チューリップチェアやウームチェアに代表される家具デザインまで、サーリネンの表現の幅を豊富な図版とともに辿ることができる。図面やモデル、設計過程の資料も収録し、素材や空間構成への探求がどのように形となったのかを丁寧に可視化。大胆さと優雅さを併せもつサーリネンの造形理念を、広範な仕事の中に読み解くことができる。
Poul Kjaerholm: Furniture Architect | Michael Sheridan
デンマークの家具デザイナー、ポール・ケアホルムの創作を総合的にたどる図録。2006年にルイジアナ近代美術館で開催された回顧展に際して編集されたもので、スチールを中心に異素材を組み合わせた構造美、無駄を削ぎ落とした造形、そして建築的思考に裏打ちされた機能性を多面的に検証している。椅子、リクライニングチェア、テーブルなど代表作を豊富な写真で紹介し、スケッチや図面といった資料も多数掲載。作品がどのような発想から形へと結実していったのかを丹念に読み解ける構成となっている。
Artificial Arcadia | Bas Princen
オランダの写真家バス・プリンセンが、大判カメラによる精緻な視線で現代の風景を捉えた写真集。草原でカメラを構える人々、森で仮面をつけた人物、マウンテンバイクのコースなど、用途が変わり続ける土地の周縁に現れる“余白”のような光景を、40点以上の写真によって提示している。オランダ特有の人工的に管理された土地利用の歴史を背景に、風向きや水流、アクセス、通信ネットワークといった目に見えない条件が風景のかたちを左右する仕組みを、写真が静かに浮かび上がらせる構成。凧やGPS、マウンテンバイクなど、道具の介入によって変わる景観の読み取りにも着目し、現代のランドスケープが抱える複雑さと未視界の魅力を探る内容となっている。
Vivian Maier: Out of the Shadows
生前ほとんど作品を発表することなく、死後にその膨大な写真群が発見されたストリート写真家ヴィヴィアン・マイヤーの姿を辿る一冊。シカゴで乳母として働きながら撮影された12万点以上のネガから選び抜かれた写真を収録し、日常の陰影や人々の表情を鋭くとらえたストリートスナップが立ち上がる。二色刷りによる300点以上の作品に加え、彼女を知る人々へのインタビューを交えたフォト・メモワール形式で構成され、謎めいた人物像と創作の背景に静かに迫る構成となっている。
Matthew Craven: Primer
カリフォルニアを拠点に活動するアーティスト、マシュー・クレイヴンのコラージュ作品を収めた作品集。教科書からの図版や写真と、自身が描く幾何学模様を組み合わせ、異なる文化や時代のイメージを一つの平面に並置することで、歴史や神話の構造を新たに読み替える視覚世界を構築している。考古学的遺跡や自然の断片が、ヴィンテージ映画ポスターの裏面に描かれたカラフルなタイル状の背景に重ねられ、象徴や文様が自律的に響き合う独自のリズムを生み出す点も特徴である。イメージ同士の親和性や差異を手作業で編み直すことで、過去の物語を再構成し、文化の境界を超えた共通性を探るクレイヴンの姿勢が鮮明に示されている。
Aires Mateus: Casa Em Melides
ポルトガルの建築家ユニット、アイレス・マテウスが手がけた〈Casa em Melides〉を収めた作品集。建築写真家ホアン・ロドリゲスが、外装の量塊構成から階段、キッチン、アーチ状の壁面まで、特徴的なフォルムをモノクロで静かにとらえている。丘陵地グランドラに建つ住まいは、海へと開くパティオハウスとして設計され、下層では起伏の大きい地形と緊密に関係づけながら、上層では天井高をたっぷりとった伸びやかな空間が展開する。機能ごとに異なる光の振る舞い、明暗の対比、壁面の曲線がつくる陰影が一体となり、マテウス兄弟が追求する「かたち」と「空間性」の思考が濃密に示されている。セクション図や平面図も掲載され、住宅建築の本質を抽出する彼らのアプローチを読み解く手がかりとなっている。
Jiro Kamata: Voices
ジュエリー作家・鎌田治朗が追求する「光」と「価値の知覚」をめぐる探究をまとめた作品集。2019年、台湾・金馬賓館現代美術館での展覧会にあわせて刊行されたもので、レンズや鏡、粘着テープといった現代的素材に伝統的な制作技法を重ね、指輪やブローチ、ペンダントへと結晶させた造形を多数収録している。拾得物や使用済み素材を取り入れながら、身につけることで初めて作品が成立する「経験された記憶」を重視する姿勢は、鎌田の制作の核心を示すものでもある。光が屈折し、像が揺らぎ、視点が移り変わるジュエリーは、身体と周囲の空間をつなぐ装置として機能し、私たちが世界を見るまなざしと、世界が私たちを映し返す関係性を静かに問いかける。
Alexander McQueen: Savage Beauty
アレキサンダー・マックイーンの革新性と、想像力豊かで挑発的なヴィジョンに迫るビジュアルブック。メトロポリタン美術館での展覧会にあわせて刊行されたもの。ファッションの常識を覆し続け、人種、階級、性、宗教、環境といったテーマを鮮烈に表現したマックイーンの軌跡を紹介する。キャリアの初期から、ロンドンに設立した自身のブランドでの輝かしい業績まで、その全貌を紐解く。マックイーンが築いた、ファッションを超えた美と表現の世界を体感できる一冊。
ADIEU A X(アデュウ ア エックス) 新装版 | 中平卓馬
戦後日本を代表する写真家・中平卓馬による1989年に刊行した「最後の写真集」との予感のもと制作された写真集の新装復刊版。急性アルコール中毒によって記憶や言語能力の一部を失った後、既成のスタイルであった“アレ・ブレ・ボケ”を自ら封印し、より冷静で醒めた視線へと向かった時期の作品で構成されている。全編モノクロのネガによるイメージは、都市の断片や日常の光景を淡々とすくい取りながら、写真の原点に立ち戻ろうとする中平の姿勢を強く反映している。
来たるべき言葉のために | 中平卓馬
戦後日本を代表する写真家・中平卓馬の写真集。1970年に刊行された『来たるべき言葉のために』は、1960年代後半から70年代の日本の現代写真に大きな転換をもたらした初写真集として知られる。中平自身がエッセイの中で批判し、乗り越えるべき対象とした作品群だが、その意味を再考するため、現代にふさわしい作品として再発見される形で再刊された。中平によるエッセイを収録した英文小冊子が付属。
TOKINOHA | 清水大介、清水友恵
京都・清水焼団地を拠点に活動する「TOKINOHA」が歩んできた軌跡を、写真家・中川正子のまなざしと、清水大介・友恵による言葉で丁寧に綴ったブランド写真集。〈暮らしの中で使われて完成する清水焼〉という理念を起点に、2009年の創業から試行錯誤を重ねながら現在の形に至るまでの時間を、器づくりの現場や日常の風景とともに記録している。限定1000部。素材や工程への真摯な探求、未来へ陶芸をつなぐための実践など、ブランドの背後にある思考と姿勢が27,000字のテキストによって立体的に語られる点も本書の大きな特徴。日本語、英語表記。
Work in Progress | Karl Lagerfeld
ファッション界の巨匠であり写真家としても活動したカール・ラガーフェルドの創作を総覧する一冊。2010年にパリのヨーロッパ写真美術館で開催された展覧会に合わせて刊行された『Parcours de Travail』の英語版で、ポートレートから建築、風景まで、多様なジャンルを自在に横断する視覚表現を収録している。1987年の写真家デビュー以来、アルグラフィやセリグラフィ、レジノタイプといった希少な技法を積極的に取り入れ、素材や工程そのものを実験の場としてきたラガーフェルドの探究心がページの随所に息づく一冊。
Jan Dibbets: Interior Light: Works on Architecture, 1969-1990
オランダのコンセプチュアルアーティスト、ヤン・ディベッツの空間への思索をたどる作品集。床や天井、窓といった建築の断片をカメラで切り取り、それらを色面や幾何学的構成と組み合わせることで、写された“場所”を抽象的な視覚体験へと変換していく。写真という媒介を通じて知覚の揺らぎを可視化し、空間の再解釈を促すディベッツの手法は、本書全体の構成にも貫かれている。装丁からレイアウトまで作家自身が手がけ、反復やズレ、視点の転換といったコンセプチュアルな要素が作品と響きあいながら展開される点も特徴的である。写真と色面が交差するページを追うほどに、空間そのものが持つ構造や感性が新たなかたちで立ち現れ、ディベッツの表現の核心を捉える視覚的記録となっている。
James Drake: Red Drawings and White Cut-Outs
ドローイング、彫刻、映像、インスタレーションなど多様なメディアで活動するアーティスト、ジェームズ・ドレイクの代表的な二つのシリーズをまとめた作品集。アートナイフで紙そのものを切り抜く「白の切り抜き」は、削る・抜くという行為によって線と影を同時に立ち上げる独自の手法で、緻密さと軽やかさが共存する構成となっている。影が描線のように働く点も重要で、減算的プロセスから生まれる造形の緊張感が際立つ。一方、「赤のドローイング」は、鮮烈な赤いチョークの強い飽和と勢いのある線が特徴で、「白の切り抜き」と対を成すように生命力や情動のエネルギーを画面に呼び込んでいる。
Robert Morris: Object Sculpture, 1960-1965
20世紀アメリカの現代美術を牽引したロバート・モリスの初期制作「オブジェクト・スカルプチャー」に焦点をあてた作品集。1960〜1965年に制作された約100点の立体作品を体系的に収録し、木材、スカルプメタル、鉛といった素材を用いた壁掛け、容器、既製品の加工によるレディメイド的造形など、多様な形式を横断する実験的な活動を詳細にたどる内容となっている。ミニマルアートやポスト・ミニマルの成立へ向かう前段階として、モリスが「プロセス型オブジェクト」と呼んだ制作の根本的態度がどのように形成されたかが読み解ける点が重要な柱となっている。
Working in Architecture: Jamie Fobert Architects
ロンドンを拠点とする建築事務所ジェイミー・フォバート・アーキテクツの仕事を、完成作品だけでなく設計プロセスそのものに焦点を当てて紹介する作品集。住居、商業空間、美術館やアートフェアの会場構成など、多様なプロジェクトを対象に、初期スケッチから図面、模型、施工段階の記録写真、そして竣工後の姿までを一貫して追いかける構成が特徴となっている。ジェイミー・フォバートの思想を読み解く序文に加え、各プロジェクトの背景と意図を丁寧に解説。