さて今回は、1970年代から1980年代頃に展開された日本の企業広告集を5冊ご紹介します。コンセプト設定を含む制作プロセスやとんがったグラフィック表現、パンチ力のあるコピーライティングなどがふんだんに掲載され、そして広告を包括的に捉えたものを選んでみました。
それではどうぞ。
資生堂のクリエイティブワーク
3冊目は、創業以来100年の歴史を重ね、いまや普遍ともいえるコーポレート・アイデンティティをもつ企業「資生堂」の広告集。明治5年の創業から1980年代まで歩んできた企業の軌跡=ポスター、新聞広告、パッケージ、TVCM、店頭ディスプレイなどから代表的なものをピックアップし掲載しています。マンネリとは無縁の、挑戦の数々。それは中村誠、仲條正義、土屋耕一、水野卓史、石岡瑛子、松永真、鬼澤邦らをはじめとする日本中のすぐれた仕事人たちの競演ともいえます。
左は1938年、山本武夫による広告。右は1965年の広告。アートディレクションは石岡瑛子、写真は横須賀功光。時代とともに女性も強くたくましく変貌するのですね。ただし、エレガントさを失うことは決してありません。
1978年の広告。アートディレクションとデザインは中村誠、写真は横須賀功光。
そしてモデルは山口小夜子。
女性向けの化粧品では異端ともいえる、このユニセックスな広告表現は1981年。
アートディレクションとデザインは太田和彦、写真は富永民生。
左は1938年、山本武夫による広告。右は1965年の広告。アートディレクションは石岡瑛子、写真は横須賀功光。時代とともに女性も強くたくましく変貌するのですね。ただし、エレガントさを失うことは決してありません。
1978年の広告。アートディレクションとデザインは中村誠、写真は横須賀功光。
そしてモデルは山口小夜子。
女性向けの化粧品では異端ともいえる、このユニセックスな広告表現は1981年。
アートディレクションとデザインは太田和彦、写真は富永民生。
西武のクリエイティブワーク
デパートメントストアだけでなく、美術館や劇場まで擁した国内有数の大型小売店、西武のクリエイティブ・ワーク集。本書は、その西武百貨店がイメージ戦略を積極的に打ち出した1970年台後半から1981年までの広告を編纂しています。西武といえば、田中一光がデザインを手がけた包装紙がまず思い浮かぶかもしれませんね。加えて永井一正、杉浦康平、石岡瑛子、木下勝弘、横尾忠則、糸井重里など、豪華な製作陣により築き上げられた広告の数々が収録されています。
不思議、大好きシリーズ。アートディレクションは浅葉克己、デザインは上坂光信、コピーは糸井重里、撮影は坂田栄一郎。
(左)アートディレクション、イラストレーションはともに石岡瑛子。
(右)人間の街シリーズ。クリエイティブディレクターは山城隆一、アートディレクションは吉田臣、デザインは中林博彦、コピーライターは日暮真三、撮影は有田泰而。
不思議、大好きシリーズ。アートディレクションは浅葉克己、デザインは上坂光信、コピーは糸井重里、撮影は坂田栄一郎。
(左)アートディレクション、イラストレーションはともに石岡瑛子。
(右)人間の街シリーズ。クリエイティブディレクターは山城隆一、アートディレクションは吉田臣、デザインは中林博彦、コピーライターは日暮真三、撮影は有田泰而。
パルコのアド・ワーク 1969-1979
かつて西武百貨店を中核としたセゾングループから派生した、パルコ。本書は1969年から1979年の10年間にパルコが様々なメディアへ向けて展開したポスター、CM、新聞広告、雑誌広告などをまとめたもの。若者向けの文化発信基地として位置づけられていたこともあり、前述の西武のアド・ワークより先鋭的でアクの強い個性を放っています。
1977年、アートディレクションとデザインは長谷川好男、イラストレーションは山口はるみ。
1977年、ファッションの源流を尋ねる「原点」キャンペーン広告。アートディレクションは石岡瑛子、撮影は藤原新也、コピーライターは長沢岳夫。
(左)アートディレクションとデザインは長谷川好男、撮影は菅昌也。
(右)アートディレクションは石岡瑛子、デザインは成瀬始子と乾京子、撮影は繰上和美、衣裳は三宅一生。
ディレクターやデザイナーはもちろん、写真家、映像作家、ヘアメイクなど、広告作りに関わったあらゆる職種の人びとのコメントもたくさん寄せられており、スタッフ全員の奮闘ぶりとはてしない熱量が伝わってきます。
1977年、アートディレクションとデザインは長谷川好男、イラストレーションは山口はるみ。
1977年、ファッションの源流を尋ねる「原点」キャンペーン広告。アートディレクションは石岡瑛子、撮影は藤原新也、コピーライターは長沢岳夫。
(左)アートディレクションとデザインは長谷川好男、撮影は菅昌也。
(右)アートディレクションは石岡瑛子、デザインは成瀬始子と乾京子、撮影は繰上和美、衣裳は三宅一生。
ディレクターやデザイナーはもちろん、写真家、映像作家、ヘアメイクなど、広告作りに関わったあらゆる職種の人びとのコメントもたくさん寄せられており、スタッフ全員の奮闘ぶりとはてしない熱量が伝わってきます。
細谷巖 | イメージの翼2
本書はアートディレクターで、グラフィックデザイナーでもある細谷巖の作品集です。Canon、パイオニア、大塚製薬など、氏の手がけた代表的な仕事がいくつも掲載されていますが、中でも細谷氏とコピーライター・秋山晶氏との名コンビが放った代表的な広告といえば、キューピーマヨネーズ。
マヨネーズ発祥の地を訪ねたシリーズ。マヨネーズの起源を語ることで、ブランドがオーセンティックなものであり、本物の味であることを印象づけるための広告。ロケ地はスペイン、メノルカ島。シリーズを通して使用された書体は石井中明朝。氏いわく「このシリーズ広告では、特に明朝体がぴったりだと思った。ゴシック体では、やはり気分がでない」とのこと。
ダイナー(簡易食堂)シリーズ。アメリカの東海岸を中心に撮影された旧き良き雰囲気を醸し出すダイナーの写真と、短編小説風の小粋なテキストが添えられています。ちなみにこの人気シリーズは「アメリカン マヨネーズ ストーリーズ」として出版もされています。欲しい。
都市とマヨネーズシリーズ。ストレスの象徴としてのビル群、自然の象徴としての野菜。この2つを対比させることで、ちょっとシュールで意外性のあるビジョンを打ち出した広告。ロケハンはマンハッタン。中心に置かれた野菜は、静かながらも力強い印象。
マヨネーズ発祥の地を訪ねたシリーズ。マヨネーズの起源を語ることで、ブランドがオーセンティックなものであり、本物の味であることを印象づけるための広告。ロケ地はスペイン、メノルカ島。シリーズを通して使用された書体は石井中明朝。氏いわく「このシリーズ広告では、特に明朝体がぴったりだと思った。ゴシック体では、やはり気分がでない」とのこと。
ダイナー(簡易食堂)シリーズ。アメリカの東海岸を中心に撮影された旧き良き雰囲気を醸し出すダイナーの写真と、短編小説風の小粋なテキストが添えられています。ちなみにこの人気シリーズは「アメリカン マヨネーズ ストーリーズ」として出版もされています。欲しい。
都市とマヨネーズシリーズ。ストレスの象徴としてのビル群、自然の象徴としての野菜。この2つを対比させることで、ちょっとシュールで意外性のあるビジョンを打ち出した広告。ロケハンはマンハッタン。中心に置かれた野菜は、静かながらも力強い印象。
イメージの翼2
- 著者
- 細谷巖
- 出版社
- 旺文社
- 発行年
- 1988年
アートディレクター、グラフィックデザイナー、ADC会長、ライトパブリシテイ社長として最前線の活躍を続ける細谷巖の作品集第2弾。
向秀男のアートディレクション
1958年から1973年まで楽器メーカー、ヤマハの広告アートディレクションを一手に引き受けていた向氏。上の画像は、エレクトーン販売店向けのセールス・プロモーション・キット。ふつうは製品が発売されると、挨拶状と製品解説書、おまけにカタログが同封されるくらいのもの。ところが、「販売するための努力」を分析し惜しまず結晶化した結果、挨拶状、製品解説マニュアル、広告活動の予定と広告デザインの作例、販売店の広告制作に必要なロゴタイプ、マークの清刷りや製品写真、カウンターディスプレイ、プライスカードなどをまとめてキット化することに。前例のない段ボール1箱分のボリュームは当時の販売店を大いに驚かせ、その後は見事、必要品になったという逸話も。そして、よく見ると和田誠のイラストレーションが。
リコール問題が社会問題としてクローズアップされ、車のつくり手に厳しい風が吹く時期。その手づまり感を払拭するべく、若いユーザ向けの広告として打ち出されたのがこの日産スカイラインの「ケンとメリー」シリーズでした。ただし、高性能で完成度の高いメカニズムを暗示させるため、レイアウトは厳しく引き締めて。ファンの多い車種のため、このシリーズ広告をめぐり賛否両論が吹き荒れたそうですが、結果としては5年で400%近い販売実勢をあげることになります。驚異的。
最後はTOTO(東陶機器)。水栓金具は高度な精度と質を訴求し、トイレは既成概念の「不浄」を一掃し「清潔」なイメージへ。インダストリアルデザインの機能美が広告デザインに移植された、代表的な広告なのではないでしょうか。ブランド・イメージを形作るすぐれた商品広告とはなにか、どのように広告コンセプトを捉えるか。作例を多く交えながら語られる、ストイックで丁寧な解説文は、若手のデザイナーへ向けた愛のあるメッセージですね。
リコール問題が社会問題としてクローズアップされ、車のつくり手に厳しい風が吹く時期。その手づまり感を払拭するべく、若いユーザ向けの広告として打ち出されたのがこの日産スカイラインの「ケンとメリー」シリーズでした。ただし、高性能で完成度の高いメカニズムを暗示させるため、レイアウトは厳しく引き締めて。ファンの多い車種のため、このシリーズ広告をめぐり賛否両論が吹き荒れたそうですが、結果としては5年で400%近い販売実勢をあげることになります。驚異的。
最後はTOTO(東陶機器)。水栓金具は高度な精度と質を訴求し、トイレは既成概念の「不浄」を一掃し「清潔」なイメージへ。インダストリアルデザインの機能美が広告デザインに移植された、代表的な広告なのではないでしょうか。ブランド・イメージを形作るすぐれた商品広告とはなにか、どのように広告コンセプトを捉えるか。作例を多く交えながら語られる、ストイックで丁寧な解説文は、若手のデザイナーへ向けた愛のあるメッセージですね。