二度と再び、このようなわがまま放題な物語を、書かせてくれる雑誌も記者も、いないであろう。その意味でも、上梓されたこの豪華な本は、稀覯の書として、のちのちまで、ねうちがある、と確信する。
— 柴田錬三郎
「絵草紙うろつき夜太 」は、1973から1974年にかけて「週間プレイボーイ」にて連載された柴田錬三郎の時代小説。当時新進気鋭のイラストレーターだった横尾忠則とタッグを組んだ本書は、既成概念を壊しまくったまさに稀覯の書と言える一冊です。
目を奪われる全編に渡る横尾忠則ワールドはもちろんのこと、随所に実験的なデザインが施され、至るところにニヤリとする仕掛けが満載です。
布張りの表紙から見返しに続く柄の大きさをぐっと大きくして視覚効果を演出。この柄は横尾忠則自ら浅草橋まで買い付けにいった反物が使われています。
構図をひっくり返して線画からカラーへつなげた連続ページ。
「イラストレーションもつづく」というコメントととも完成途中のまま掲載。
柴田錬三郎の生原稿をそのまま使い、本文と繋げたページ。
挿絵を描くための素材を撮影するだけのために、当時眠狂四郎を演じていた田村正和の弟・田村亮を呼び寄せ、衣装を着せて撮影したシーンそのままを挿絵として掲載。
小説自体の内容はというと、江戸時代を舞台に暴れまわる風来坊の物語だったはずが、物語の進行に合わせてなぜだか次第に作者を巻き込む奇想天外な展開。 柴田錬三郎も負けじと時代小説のルールをことごとく破っていきます。
ひたすら・・・のみで展開する決闘シーン。文章だけでは表現できない場面も2人のタッグにより印象的なシーンに生まれ変わります。
週刊連載だったこともあり、追い詰められた柴田錬三郎がとった手段はなんと言い訳。
丸投げされたその原稿に柴田錬三郎の肖像画で答える横尾忠則。
柴田錬三郎と横尾忠則が1年にわたり、高輪プリンスホテルに缶詰にされたという2人の部屋の位置。
毎日ホテルで話す2人。次第に小説世界と現実世界の狭間さえもなくなっていきます。
読めば読むほど、見れば見るほどに2人のライブさながらのアドリブの応酬を楽しめます。ここまで見事な文と絵の相乗効果はないのではないでしょうか?
さて、本書は2013年に待望の復刻版が国書刊行会より出版されました。
左がオリジナル。右が2013年に復刻されたバージョン。
並べてみると再現精度の高さがわかります。しかし、データの残っていない本書の復刊には相当の苦労があったようで、プリンティングディレクター富岡隆の解説がこちらに詳しく掲載されています。現在生産していない本文紙や反物の代わりになる紙を選ぶ苦労など、ご興味のある方はぜひこちらも読んでみてください。
http://biz.toppan.co.jp/gainfo/pr/23_ezousi/p1.html
復刻版には、ポスターと小冊子が付いてきます。 関係者が当時を振り返ったエッセイが掲載されており、個人的にかなり楽しめました。
オリジナル版から40年の時を超えて、なお輝きを保ち続けているこの一冊。
というわけで、この本のブックレビューで言いたかったこと。
とてつもなく面白い!
そう言い切っておわりたいと思います。
現在ノストスブックスではオリジナル版 ・復刻版 ともに入荷しております。横尾忠則関連書籍は特集「「未完」へ向かって走り続ける横尾忠則ワールド 」に随時追加していますので合わせてご覧ください。