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赤瀬川原平記。ハイレッド・センターからトマソンまで、現代アート界の風雲児を追う

石井
書いた人:
2017.6.30 アート
こんにちは、石井です。
本日は大好きな芸術家に着目してみます。

「心はいつもアヴァンギャルド」という自らの言葉のとおり、人生を駆け抜けた現代美術家・赤瀬川原平。現代芸術家、漫画家、イラストレーター、小説家、エッセイスト、写真家といくつもの顔をもつため、素性をひと言で言い表すのは非常に難しい、けれども多方面に影響を及ぼした現代アート界の鎹のような人物です。では、具体的にどのような活動を行っていたのでしょうか。今回は1960年代まで遡り、関連書を紹介しながら赤瀬川原平の足跡を追ってみたいと思います。



60年代前半、前衛芸術の世界へ

あいまいな海11(座骨内の眼球)| 赤瀬川原平 1961
あいまいな海4 | 赤瀬川原平 1963
反芸術の気運高まる1960年、赤瀬川氏は篠原有司男、吉村益信、荒川修作らとともに前衛グループ「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」の結成に参加。過激で先鋭的なパフォーマンスを繰り広げる同グループにおいて、赤瀬川氏は廃棄物を使用し、高度経済成長時代の大量消費に対する批判的姿勢をテーマとした立体作品を多く発表します。

第1回ネオ・ダダ展案内状 | 1960
やがてネオ・ダダの活動が収束に向かうなか、赤瀬川氏の作品発表の場は当時の若手アーティストにとっての登竜門であった読売アンデパンダン展にうつりました。しかし読売アンデパンダン展は、前衛芸術家たちと表現をめぐるトラブルが絶えず、1963年をもって終了してしまいます。いったいどんな作品が展示されていたのでしょうか。興味を引かれたので調べてみたところ、展示会場である東京都美術館が設けた「出品の望ましくない作品の基準」が端的に状況を表していたので引用します。

  • 不快音または高音を発する仕掛のある作品
  • 悪臭を発し、または腐敗のおそれのある素材を使用した作品
  • 刃物等を素材に使用し、危害をおよぼすおそれのある作品
  • 砂利、砂などを直接床面に置いたり、または床面を毀損汚染するような素材を使用した作品
  • その他鑑賞者にいちじるしく不快感を与えるなど、公安・衛生法規にふれるおそれがある作品

とのこと。地獄絵図っぷりを垣間見たような気がします。

第13回読売アンデパンダン展「ヴァギナのシーツ」と「潜行中のラストシーン」 | 赤瀬川原平 1961
ちなみに赤瀬川氏の出展作品は、タイヤチューブや硫酸を用いた「ヴァギナのシーツ(2番目のプレゼント)」、廃材と使用済下着を積み上げた「患者の予言(ガラス卵)」、そしてのちに氏の芸術家人生に大きく影響することになる千円札をモチーフにした「復讐の形態学(殺す前に相手をよく見る)」など。ああ、要項違反をコンプリートできそう。

このようにして、氏の芸術家としての歩みはまさに混沌の中からはじまりました。読売アンデパンダン展をめぐる攻防については、当時を振り返った回顧録「反芸術アンパン」に詳しく記されています。

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反芸術アンパン
年に1回開催されていた読売アンデパンダン展。それは、誰でも出品できる無審査の展覧会で、60年代には若き前衛芸術家たちがひしめく混乱の坩堝と化していた。赤瀬川原平が当事を振り返り、不確定性の芸術について描いたエッセイ集。
同1963年、日本の現代アート史に名を刻む「ハイレッド・センター(以降HRC)」が誕生します。HRCは高松次郎、中西夏之とともに結成され、印象的なグループ名は各自の名字から高・赤・中を取り命名したとされています。

ハイレッド・センター公式ポートレート | 1963
「第5次ミキサー計画」ポスター | ハイレッド・センター 1963
HRCの特徴として挙げられるのはその匿名性、3名を発起人としつつも流動的なメンバー数、そして型破りで奇異な活動内容でした。「直接行動」と称される展示や路上パフォーマンスを行う際はスーツやユニフォームを着用し、公的な文書の体をなした案内状を各所に配るなど、HRCの活動は綿密に計画され、演出されたのです。

ドロッピング・ショー | 高松次郎、和泉達、赤瀬川原平、風倉匠 1964
「首都圏清掃整理促進運動」に取り組むメンバー | 1964
HRCの活動をくまなく知りたい方には「ハイレッド・センター 直接行動の軌跡」展図録がおすすめ。

「ハイレッド・センター 直接行動の軌跡」の展示図録。高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之を中心に結成された前衛芸術グループ「ハイレッド・センター」主宰の路上インスタレーション、そして合法部員各々の作品を“発生”順に掲載。

60年代後半、千円札裁判勃発

「復讐の形態学(殺す前に相手をよく見る)」と「事実か方法か1・2」 | 赤瀬川原平 1963
そしてついにHRCと赤瀬川原平の名が美術界の壁を超え、社会に知られることとなる「千円札裁判」が勃発します。発端は、HRC以前に発表された千円札の拡大模写作品「復讐の形態学(殺す前に相手をよく見る)」や印刷作品「模型千円札」シリーズなど一連の作品と、当時世間を騒がせていた実際のニセ札事件との関連を疑われたことでした。事件とは無関係だったものの、千円札同寸原版が印刷所から発見されたことから、赤瀬川氏は通貨及証券模造取締法違反で起訴。こうして日本でもっとも有名な芸術裁判が幕を開けます。

法廷における大博覧会1〜4 | 千円札事件懇談会 1966
裁判の争点は「作品が本当に紙幣とみまごうものであるかどうか」になるはずが、被告陣営は模型千円札の芸術性を強く訴え続け、微妙に論点がズレたまま多くの人を巻き込み、騒動はさらに拡大します。公判では瀧口修造、中原祐介らが特別弁護人として、HRCのメンバーや澁澤龍彦、粟津潔ら多くの芸術家や評論家が証人として出廷し、それぞれが独自の芸術論を展開。さらには証拠品として多数の前衛美術作品が法廷に持ち込まれ、その様はまるで法廷をギャラリーにみたてた展覧会のようだったと言われています。司法の場でこんなにも芸術論が飛び交うことになるなど誰も予想していなかったのではないでしょうか。最終的に下された裁決は有罪でしたが、大規模インスタレーションと化した裁判は結果的に赤瀬川原平とHRCの存在を広く世間に知らしめることとなりました。

(左)千円札裁判押収品目録 | 千円札事件懇談会 1967
(右)東京地方裁判所刑事701号法廷 | 千円札事件懇談会 1966
反芸術を掲げたグループの一員が、自身の作品の芸術性を証明しようとする矛盾。なんとも皮肉でありながら、よくできた舞台のようでもあります。もしもタイムリープができるなら、この公判を傍聴してみたい...。現代美術とはなんぞやと、気鋭の文化人たちがものすごく丁寧に講義してくれるのですから。

裁判の経緯、赤瀬川氏本人の心境、陳述内容、当事者たちの発言などは「オブジェを持った無産者」にまとめられています。ご興味あるかたはぜひ。

芸術家であり、文筆家としても知られる赤瀬川原平の自伝的作品。発表した作品が通貨及証券模造取締法違反に問われ、瀧口修造をはじめ多くの文化人・メディア・法廷を巻き込んだ「千円札裁判」。その裁判の経緯の詳細を記述した問題作。復刻版。

70年代、イラストレーションと漫画

「櫻画報」特別号 | 赤瀬川原平 1970
さて、赤瀬川氏の活動は千円札裁判を契機に転機を迎えます。アート作品制作の傍ら、レタリングや装丁、グラフィックデザインの仕事をこなしていた赤瀬川氏。裁判と前後して、徐々にイラストレーションや漫画の世界へと活動の場を移します。

「朝日ジャーナル回収事件」を引き起こした「櫻画報」第31号 | 赤瀬川原平 1961
しかし、さすがアート界の風雲児。ここでも事件は起こります。朝日ジャーナルで当時連載していた「櫻画報」は持ち前のパロディ精神と風刺を効かせすぎた結果、回収・休刊事件に発展。「櫻画報こそ新聞であり、この周りにある『雑誌状の物』は櫻画報の包み紙である」とは氏の弁ですが、あまりにはっきり言うものだからもはや清々しく感じます。「櫻画報」はのちに「月刊漫画ガロ」で復活を果たし、「日本読書新聞」「小説新潮」「黒の手帖」など各紙を渡り歩きながら、水を得た魚のように活き活きと社会をぶった斬り続けます。過去の前衛芸術運動、裁判などで鍛え上げられたであろう氏の放つブラック・ユーモアは、際どくも不思議なチャーミングさがあるのです。

1970年代に「朝日ジャーナル」や「ガロ」に掲載された赤瀬川原平の漫画「櫻画報」のアーカイヴ集。「アルバム櫻画報史」、「野次馬画報」、「略式櫻画報」などを掲載。

70〜80年代以降、トマソンと路上観察学会

反骨の1960年代を経て1970年代にはいり、赤瀬川氏の活動は一気に拡がりをみせます。前述の漫画界への進出に加え、美学校に講師として迎えられたことがきっかけでした。ユニークで多才な文化人たちとの交流、そして好奇心旺盛な生徒たちとのコミュニケーションから、多くの新たな表現活動が生まれたのです。

その代表格が「超芸術探査本部トマソン観測センター」。トマソンとは、不動産に属しながらも用途が不明、またはまるで役に立たない、なのに抜群の存在感を放つモノたちのこと。トマソン観測センターの面々は、それら街角に佇む無用の長物たちを芸術を超えた芸術、すなわち超芸術とみなして探索・審査・収集しました。まるで芸術と科学的データ収集行為の融合!

記念すべきトマソン第一号となった用途不明の階段状物件「四谷祥平館純粋階段」 | 赤瀬川原平 1972
トマソン黙示録「歩行者用のダム」 | 赤瀬川原平 1961
収集したトマソンをまとめたのが「正体不明」シリーズです。

赤瀬川原平によるフォトエッセイ。“物件リスト”には、「稲妻を食べた戸袋」、「植物ワイパー」シリーズ、「ライカM3に緊張するスニーカー」などユニークな写真タイトルが並ぶ。
このトマソンの概念から派生したのが「路上観察学会」でした。トマソン観測よりゆるく、しかしよりディープに街を観察することを目的に、かねてより親交のあった藤森照信、松田哲夫、南伸坊らと結成。カメラを手に街を歩き、見逃しがちな奇妙な物件や光景を記録し、写真と解説を添えて誌面で発表しました。トマソン観測センター関係者、荒俣宏、四方田犬彦、杉浦日向子らが参加し、活動は活発化します。路上観察は一般市民の間でもブームとなり、町おこしの一端を担ったこともあったとか。元祖インスタグラマーですね。

紀伊国屋画廊「路上派勝利宣言」ポスター | 路上観察学会 1987
路上観察関連本はたくさん出版されていますが、ここでは赤瀬川氏個人のエッセイ集「東京路上探険記」と荒俣宏、藤森照信による「東京路上博物誌」をご紹介します。2冊とも東京を舞台にしていますが、まるで未知の都市のよう。目のつけどころが違うのです。読了後は、いつも見ている風景がどこか違って目に映るはず。

赤瀬川原平によるエッセイ集。超芸術・トマソン探しが高じて、東京の街をより深く探った探険記。「渋谷駅から徒歩七分/犬屋敷」「誰だ!ぼくの家を囓るのは」「世にも不思議な住宅情報」などを収録。
荒俣宏、藤森照信による路上観察の博物誌。東京都内の植物や風景、店舗などを博物学的視点から観察する。
上記「東京路上探険記」の著者・尾辻克彦は赤瀬川氏の文筆業用ペンネーム。1981年には小説家として芥川賞(!)を受賞しているのですから、まったく多才にもほどがあります。

そのほかにも脳内リゾート開発事業団、ライカ同盟、自宅兼アトリエ「ニラハウス」施工から発生した縄文建築団などなど、氏のユニークな活動は数えるときりがありません。が、長く書きすぎているので、日本美術応援団についてご紹介しそろそろ締めくくりたいと思います。

日本美術応援団とは、1996年に「日経アート」誌上で結成された、メディアを通し日本美術の応援を展開する団体。団長である美術史家・山下裕二と団員・赤瀬川原平が、あらゆる日本美術と向き合い観察し、作家の人物像や作品のもつ意味、時代背景、主観を交えた感想などを語りつくすシリーズ。ふたりの軽快なトークにほのぼのしつつも、この本のおかげで日本美術への興味がぐっと拡がりました。赤瀬川氏亡き今も応援団は継続中。わたしは日本美術応援団を応援します。

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日本美術応援団
芸術家・赤瀬川原平と美術史家・山下裕二が雪舟、等伯から、縄文土器や根来塗の器まで日本美術を幅広く取り上げ、教養主義や美術史にとらわれない、大胆不敵な美術鑑賞法を提示する。
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京都、オトナの修学旅行
芸術家・赤瀬川原平と美術史家・山下裕二が結成した「日本美術応援団」がおくる、大人のための京都修学旅行ガイド。
最後に、赤瀬川原平の歩んだ道のりを包括的に知りたい方には、「赤瀬川原平の芸術言論展 1960年代から現在まで」展の図録を。 絵画、インスタレーション、彫刻、漫画、写真などを年代順に紹介し、巻末には荒俣宏、南伸坊、藤森照信、山口晃ら17名の関係作家が寄稿している大ボリュームの1冊となります。

赤瀬川原平の芸術原論展

編集
千葉市美術館 他
出版社
読売新聞社、千葉市美術館 他
発行年
2014年
「赤瀬川原平の芸術言論展 1960年代から現在まで」展の図録。多彩な活動で知られる前衛芸術家、赤瀬川原平の活動をを包括的に収録。
さて、赤瀬川原平氏の足跡をたどりつつ関連書籍を紹介してまいりましたが、知れば知るほど、周囲の人びととの交流から派生する活動の多様さ、発想の柔軟さ、年齢を重ねてますます強まる好奇心に驚かされます。氏の著作は数多く、未読の本もたくさん。しかも芥川賞作家でもあるわけですから、ことばの使い方がリズミカルでとても面白い!そしてなにより、行為の動機を言語化できる人に憧れます。次は「老人力」を読んでみようかしら。きたる未来に向けて。

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石井
ノストスブックス店長。古本の仕入れ、デザイン、コーディング、コラージュ、看板犬のお世話など、裏側でいろいろやるひと。体力がない。最近はキュー◯ーコーワゴールドによって生かされている。ヒップホップ、電子音楽、SF映画、杉浦康平のデザイン、モダニズム建築、歌川国芳の絵など、古さと新しさが混ざりあったものが好き。
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