ゴッホが模写したエピソードでも知られる、歌川広重の「名所江戸百景」シリーズ。安政3年(1856年)2月から、わずか2年8ヶ月の間に次から次へと刊行され、シリーズ総数は120枚にもおよびました。
このシリーズは当時の江戸の人々にも大人気で、どの絵も1万から1万5千部の後摺りをしたとの記録が残っています。その理由のひとつとして、描いた土地の新鮮さが挙げられるそう。これまで画題として選ばれることのなかった土地を取り上げたことで、情報といえば絵か文字しかなかった時代に、新たな「名所」を生み出したのです。
人気を博したのは江戸の人々だけではなく、先述したようにゴッホやホイッスラーなど印象派の画家に多大な影響を与え、西洋世界に「ジャポニズム」と呼ばれる芸術運動を生み出しました。
「東海道五十三次」「東都名所」「六十余州名所図会」など数多くの名所シリーズを残した歌川広重晩年の集大成「名所江戸百景」シリーズ。太田記念美術館所蔵の原版から忠実に印刷し、美しい和綴じでまとめた本書が、ドイツの出版社TASCHEN社から出版されているということもうれしい。保存版として手元に置いておきたい一冊です。