余白のある構図、繊細な線…「雪岱調」と呼ばれる画風で、江戸情緒を含んだ作品を残した挿絵画家、小村雪岱。その作品は、粋という言葉がぴったりな上に、今見てもモダン。
絵の才能が認められていながらも、小説の挿絵や資生堂のデザイン、舞台美術の方面で活躍した雪岱の作品は、画家のみならず多くのデザイナーにも影響を与えています。
その名が世に知れ渡ることになったのは、1914年に出版された泉鏡花著の『日本橋』の装丁。
さらに、『おせん』をはじめとする、邦枝完二の小説の挿絵には度々雪岱の挿絵が使われ、当時名コンビとして語られたそうです。
ー私は個性のない表情のなかに かすかな情感を現したいのです。
それも人間が笑ったり泣いたりするのではなく、仏様や人形が泣いたり、笑ったりする かすかな趣を浮かび出せたいのです。ー小村雪岱
自身の言葉の通り、美しく描かれた女性たちの表情は、華やかながらどこか哀愁を感じさせます。
本書はいくつか出版されている小村雪岱の作品集の中でも、限定480部発行という貴重なもの。外函、布貼りの内函に入った、これまた布貼りの表紙という豪華な装幀です。
作品の数々を眺めながら、在りし日の日本の日々の暮らしの美をご堪能ください。