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タルホ、多留保、TAROUPHO。ブックデザイナーたちも愛した稲垣足穂の世界
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タルホ、多留保、TAROUPHO。ブックデザイナーたちも愛した稲垣足穂の世界

こんにちは、石井です。

新感覚派、モダニズム文学の旗手などと称される小説家・稲垣足穂。個性的で破天荒な小説家は数いれど、稲垣足穂は特に異彩を放っています。不遇の時代を耐え抜いた文学的先駆者?嗜好の偏った宇宙的スケールの夢想家?それとも酒豪の毒舌おじさん?評価は様々ですが、とにもかくにも孤高の存在であったことは間違いありません。

晩年になりついに花開き、1970年代に一大ブームを巻き起こしたタルホ・ワールド。飛行機好き、天体嗜好症、少年や映画への偏愛、そして抽象的な空想にみちた稲垣足穂の作品群は、読者のみならず多くの作家や編集者、そしてデザイナーをも魅了しました。本日は、稲垣足穂の文学作品を拵えた装幀家たちの仕事をご紹介します。



一千一秒物語

稲垣足穂の代表作といえば、「一千一秒物語」。自分の著作はすべて「一千一秒物語」の註であると自ら語ったように、足穂の持つ宇宙的感性が凝縮された作品といえます。足穂の初期作品を一篇につき一冊ずつまとめるシリーズの第一弾として透土社から出版された本書は、羽良多平吉が編集からデザインまで担当しました。

taruho_10 taruho_11 カバーのタイトルはホログラム箔とカッパー箔、帯の王冠にはエンボス加工を施した艶消し金。

taruho_13 本文用紙は本来パッケージ用に使われるキャストコート紙「クロームかんすけ」、19世紀フランスの花形活字を約物に使用するなど、紙・印刷・書体すべてに目の行きとどいたデザインは羽良多平吉装丁の金字塔といえます。

taruho_12 稲垣足穂が愛した星のまたたきのような本書は、第22回講談社出版文化賞・ブックデザイン賞を受賞しました。手に取るたびに新たな発見を得られる、非常に美しい本です。愛書家の皆様はぜひ。

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一千一秒物語

著者
稲垣足穂
装丁
羽良多平吉
出版社
透土社
発行年
1990年
稲垣足穂の代表作。自分の全作品は代表作「一千一秒物語」の註であると自ら語ったほど、足穂の持つ宇宙的感性が凝縮された1冊。
代表作なだけに、「一千一秒物語」は単行本、文庫本問わず様々なフォーマットで出版されております。こちらは絵本作家・たむらしげるのイラストレーションに彩られた絵本仕立て。同じ物語なのに、透土社版とはまったく異なる印象!

一千一秒物語
稲垣足穂の「一千一秒物語」に、絵本作家や映像作家としても活躍するたむらしげるのイラストが融合した一冊。足穂の持つ宇宙的感性が凝縮されているとともに、たむらしげるによる幻想的で透明感のあるイラストも魅力。
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タルホ入門 カレードスコープ

タルホ入門 カレードスコープ」は文学論、美術論、自著への註釈、そして南方熊楠や澁澤龍彦に寄せたテキストなどを収録したエッセイ集。かっちりとした文字組みが印象に残るブックデザインは、戸田ツトムによるもの。挿画は画家のまりの・るうにいが描いています。

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タルホ入門 カレードスコープ

著者
稲垣足穂
装丁
戸田ツトム
挿画
まりの・るうにい
出版社
潮出版社
発行年
1987年
稲垣足穂のエッセイ集。「ラリイシモン小論」「われらの神仙主義」「物質の将来―仮面の人々へ」「文学者の本分」「サド侯爵の功績」「加藤郁乎カプリチオ」などを収録。
硬質なレイアウトと、やわらかいタッチの絵。戸田ツトムとまりの・るうにいのコンビネーションは、相反するようでいて、稲垣足穂の世界観と高い親和性を持っているように思えます。二人は上記「タルホ入門」のほかにも「彗星問答」「美少女論」「少年読本」を手がけました。

稲垣足穂のエッセイ集。少年の心で女性論を語る。「RちゃんとSの話」、「洋服についてー主として『パンツ及びスラックスの坐る個所』ををめぐりて」、「男色考余談」などを収録。
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タルホ・クラシックス 全3巻揃

稲垣足穂に心酔した松岡正剛が総力をもって編纂した「タルホ・クラシックス」のブックデザインを担当したのは杉浦康平。多彩な作風をもつ足穂文学から、1巻「エアクラフト」は飛行機、2巻「アストロノミー」はコスモロジー、3巻「ウラニスム」は少年愛、といったように1冊ごとに異なる主題の作品群で構成されています。

taruho_14 ずっしりと重い二重函入り。外函や内函をぐるりと覆うように飾るのは、まりの・るうにいの画。

taruho_15 本体の表紙は絢爛豪華。金箔を散らした襖紙が使用されています。

taruho_16 もはや工芸品。

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タルホ・クラシックス 全3巻揃

著者
稲垣足穂
編集
松岡正剛
装丁
杉浦康平
挿画
まりの・るうにい
出版社
読売新聞社
発行年
1975年
多彩な作風を持つタルホ文学から、飛行機、コスモロジー、少年愛などを主題にした作品を松岡正剛が3冊構成で編集。
人間人形時代」の造本も杉浦康平によるもの。こちらはなんと、本の中央に7ミリの穴があいた世にも珍しいブックデザイン。この穴は稲垣足穂が唱えた「人間=腔腸動物」説を本になぞらえており、さらには表紙の宇宙空間にぽっかりと空いたブラックホールにも見立てられています。

稲垣足穂のエッセイ集。本の中央に7ミリの穴があいた稀有なブックデザインは杉浦康平らによるもの。「カフェの開く途端に月が昇った」「人間人形時代」、そして幻の「宇宙論入門」を収録。
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ここに紹介したほかにも、亀山巌中島かほる山本美智代、 野中ユリをはじめとする、多くの装幀家が稲垣足穂の作品を仕立てています。ぜひご覧になってみてください。



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ブックディレクター。古本の仕入れ、選書、デザイン、コーディング、コラージュ、裏側でいろいろやるひと。体力がない。最近はキュー◯ーコーワゴールドによって生かされている。ヒップホップ、電子音楽、SF映画、杉浦康平のデザイン、モダニズム建築、歌川国芳の絵など、古さと新しさが混ざりあったものが好き。