用意された 肉褥のなかに
やさしい産卵管をさし入れ
ることを彼は知ってゐる
彼は方程式を解決する
ドブ貝はやはらかい地球である
即ち
水は個体となり
鱮は生れる
「蟲・魚・介」より抜粋
この、タナゴという川魚の産卵を官能的に描写しているのは、恩地孝四郎。
恩地孝四郎は、文芸、児童書、百科事典など幅広い分野の装幀を手掛けながら、抽象表現をいちはやく取り入れた版画や詩作を多く遺したことでも知られています。
実験的な試みこそ、モダニストの美学。と、いわんばかりに、身近な生きものや物への愛情、自身や世間への皮肉などを織り交ぜつつ綴られたことばは版画と見事に融合し、ひとつの作品となっています。このセンス、うらやましすぎる。
さて、本書「恩地孝四郎詩集」は、代表作である詩画集「海と童話」「蟲・魚・介」「海の表情」、詩文集「季節標」を中心に、初期の詩篇・未発表詩稿などを編纂した詩集。希少な原版の詩集はなかなか入手できないため、恩地作品をまとめて堪能できる本書はファンにとって大変うれしい一冊です。