日々の生活ではなかなか接点のない現代詩。たしかに難解なイメージもあります。でも難しく考えず、たとえば音楽を聴くように、ことばの響きをたのしみたい。そんな動機から、本日は現代詩セレクションにチャレンジしてみたいと思います。
早熟の天才、アルチュール・ランボー
人間の仕事!これが、おれのいる奈落の底を時おり照らし出す爆発だ。「なにひとつ、空しくはない。科学へ進め!前進!」と近代の伝道者が叫ぶ、つまり世間みんなだ。(中略)ああ!いそげ、も少しいそげ、夜を超えた向こうには、未来の、永遠の報いがある。おれたちはあれを取り逃がしてしまうのか?
ー「地獄の季節/閃光」 より
早熟な少年のように反抗的で情熱的な詩人といえばアルチュール・ランボー。日本の詩人にも広く影響を及ぼし、愛されたことでも知られています。本書「ランボオ全作品集」の翻訳はフランス文学者であり詩人でもある粟津則雄によるもの。早熟の天才、アルチュール・ランボーの象徴的な詩とビジョンが、粟津則雄の平明かつ現代的な言葉で蘇ります。
イーハトーヴォのきらめく心象世界
永遠の詩6 宮沢賢治
- 著者
- 宮沢賢治
- 装丁
- 有山達也、中島美佳
- 出版社
- 小学館
- 発行年
- 2010年
- 製本
- ハードカバー
- 頁数
- 125ページ
- サイズ
- 単行本
わたくしはずいぶんすばやく汽車からおりた
そのために雲がぎらっとひかったくらいだ
けれどももっとはやいひとはある
化学の並川さんにとくに肖たひとだ
ー「小岩井農場 パート1」 より
自然や動植物を愛し、農学校経論として働きながら、膨大な数の童話や詩を創作した宮沢賢治。本書「永遠の詩6 宮沢賢治」は、「春と修羅」「永訣の朝」「雨ニモマケズ」など、生きとし生けるものすべてを慈しみ、人の魂の深みを描いた詩篇の数々を収録しています。と、かせきさいだぁの名曲「じゃっ夏なんで」の冒頭部分は賢治の詩のオマージュだったのですね。石井はひとつかしこくなりました。
天体・飛行機・少年愛の美学
星のまれな夜、異様な服装をしてとほくに海の見える山の背をあるき、
目を光らして「ツアラトストラはかく云へり」と叫びたい。
ー「僕はこんなことが好き 赤い服とムービィを愛するあなたに」 より
ものやはらかな春の月が墓石や十字架や土饅頭をほの白くてらし、
何物かが粉のようにふるところに髑髏とむかひ合つてバークレイの認識論を語りたい。
ー「僕はこんなことが好き 赤い服とムービィを愛するあなたに」 より
新感覚派を代表する作家、稲垣足穂の詩作品45篇をまとめたのはこちらの「稲垣足穂全詩集 1900-1977」。「シャボン玉物語」「香炉の煙」「宇宙に就て」「へんてこな三つの晩」「犬の館」などを収録。文学作品と変わらず詩作でも稲垣足穂の世界はぶれません。飛行機好き、天体嗜好症、少年や映画への偏愛、そして抽象的な空想にみちています。意味を追わずとも、ことばの連なりに気分よく身を任せられるのも詩の魅力なのでしょうか。そう感じたら、引力にひっぱられるまま、知らない場所まで運んでもらうのがきっと正解。
詩としての写真、写真としての詩
カバンのなかの月夜:北園克衛の造型詩
- 編集
- 金沢一志
- 装丁
- 山田英春
- 出版社
- 国書刊行会
- 発行年
- 2002年
- 製本
- ハードカバー
- 頁数
- 141ページ
- サイズ
- 263×226×16mm
夜のガラスをひらき
いちまいの緑のハンカチィフのなかに
消えてしまう
お前
のタンブラァ
青いキャバレェでは
リキュゥルの星
が睡い眼をして誘いにくる
ー「カバンの中の月夜」 より抜粋
詩人にして写真家、そしてデザイナーとしても活躍した北園克衛の作品集。北園克衛は文字として読む詩だけでなく、視覚的な詩の表現に挑戦し、日本のモダニズム運動を牽引しました。新聞の切り抜きや針金、石、粘土といった身近にある素材を組み合わせて表現された作品群は「プラスティック・ポエム」と名付けられ、独特のストイックな空気を放ちます。本書「カバンのなかの月夜:北園克衛の造型詩」はその色褪せないグラフィックワーク、造型詩を編纂して収録した大判書籍です。詳しくはこちらの記事をどうぞ。
耳にのこる独特のリズム=中也節
汚れっちまった悲しみに 今日も小雪の降りかかる
汚れっちまった悲しみに 今日も風さえ吹きすぎる
ー「汚れっちまった悲しみに…」 より抜粋
幼少時より神童とうたわれ、中也節とよばれる独特のリズムが耳にのこる詩を生み出した中原中也の作品集。本書「永遠の詩4 中原中也」は「汚れちまった悲しみに…」など代表的な詩作41篇を収録。現代仮名遣いで書かれ、各篇には鑑賞解説が添えられています。
コンクリート・ポエトリーの旗手
niikuni seiichi works 1952‐1977
- 構成
- 金澤一志
- 装丁
- 山口信博ほか
- 出版社
- 思潮社
- 発行年
- 2008年
- 製本
- ハードカバー
- 頁数
- 235ページ
- サイズ
- 単行本
1960年代の前衛詩運動「コンクリート・ポエトリー」の旗手として活躍し、象形詩・視覚詩・音声詩など様々な実験的作品を残した新国誠一の作品集「niikuni seiichi works 1952‐1977」。コンクリート・ポエトリーとは、文字が持つ物質性に注目し、視覚的に展開された実験的な詩のこと。幻の詩集「0音」の全篇、そして「ASA」にいたるまで、新国誠一の作品世界をあますことなく知ることができる1冊。付属CDには音声詩14篇を収録。
詩の世界におけるアンチ・ヒーロー
集団でガスで殺され射殺される
自由 マリファナポットは許されない
自由 幻覚症状まで飲み続け
LSDはやらない主義
煙を吸い過ぎ肺癌になる
自由 下半身裸の踊り子を揺する
自由はペヨーテ禁止の
自由で『吠える』を放映禁止
ー「工業化の波 キャピトル調で」より抜粋
ビート・ジェネレーションを代表する詩人の一人、アレン・ギンズバーグの詩集。「白いかたびら」におさめられた詩は、ギンズバーグが54歳から59歳の間に書かれたもの。初期作品「吠える」に比べると老成し落ち着いた感はあるものの、毒舌とニヒリズムは健在。流離いの詩人、そして1960年代カウンター・カルチャーの担い手のひとりにふさわしい、ダーティーで尖ったことばの数々がグッサグサと突き刺さります。
ヒップでクールなモダニズム詩
それは食卓のうえの季節のフルーツです
パイプと祖父の愛した昔の蓄音機
貝殻にとじこめられた人魚たちは
みんな化石になりました
(中略)
メロンの香りする若い従妹たちよ
あなたたちは愛するか
彼女たちの優雅な挨拶のような死を
ー「昔の蓄音機」 より抜粋
医師でありながら、北園克衛主宰の機関誌「VOU」で活動していた異色のモダニズム詩人・黒田維理によるヒップな作品集「詩集 サムシング・クール」。「ナポリのナプキン」「コクテル・ドライ」「SOMETHING COOL」「甘い気体」「EXTRAORDINARY LITTLE DOG」のシリーズを収録。半世紀以上前にオニオン書房から出版されたものの復刻版となります。
世代を超えて愛される詩
あの青い空の波の音が聞こえるあたりに
何かとんでもないおとし物を
僕はしてきてしまったらしい
透明な過去の駅で
遺失物係の前に立ったら
僕は余計に悲しくなってしまった
ー「かなしみ」 より
詩のみならず絵本や童話も手がけ、老若男女問わず愛唱される日本の詩人といえば、谷川俊太郎。「谷川俊太郎詩集」には、「二十億光年の孤独」、「六十二のソネット」、「愛について」など、初期の作品が収録されています。
生まれながらのトリック・スター、寺山修司
まだ一度も作られてことのない国家をめざす
まだ一度も想像されたことのない武器を持つ
まだ一度も話されたことのない言語で会話する
まだ一度も記述されたことのない歴史と出会う
たとえ
約束の場所で出会うための最後の橋が焼け落ちたとしても
ー「事物のフォークロア」 より抜粋
随筆家、劇作家など幅広い分野で活動し、「言葉の錬金術師」と評された寺山修司の詩集。「田園に死す」、「私のイソップ」、「毒薬物語」のほか、末尾には未刊詩集「ロング・グッドバイ」を収録。アングラ演劇ブームを巻き起こした時代の寵児のことばは、つよい響きをもって心に残ります。
動詞であそぶ、実験的連作詩集
仏恥義理で愛羅武勇
天から貰ったこの命 咲いて散るのが我人生
たとえこの華散ろうとも 一生一度の青春を 地獄で咲かせて天で散る
自分で選んだ道だから 命尽きても悔いは無し
我ら華麗な暴走天使
現代のオルタナ編集者、都築響一が現代社会からこぼれおちた言葉を蒐集した「夜露死苦現代詩 」。寝たきり老人が語る壮大な妄想、暴走族の特攻服、エミネムが繰り出すライム、死刑囚の俳句、スパムメール。リアリティがあふれすぎて豪速球と化したことばの数々を、現代詩のアウトサイドから紹介した良書!
生々しく、やさしいことば
音たてちゃ いけない 今夜は
もの音たてちゃ いけない
背をあわせ うつろの胴は長くして
横たわる 濡れた眼玉に
すがた映し合い寝たりは しない
ー「食うものは食われる夜」より
あおむけに倒れる
心根 岩根 色の底
臨時の充血は獣の目にさらし
なんともまばらなはやしです
あおむけに倒れる
さえずり食い込む 炎暑の四肢に
焚かれる準備は 背で進む いま
ー「まばらな林」より
女流作家、エッセイスト、詩人でもある蜂飼耳の詩集「食うものは食われる夜」。ことばは不思議です。スピード感や攻撃力があったり、しっとり柔らかい感触だったり、いろいろな表情をみせてくれます。「食うものは食われる夜」に収録された作品には動物や虫が多く登場し、彼らは食物連鎖や死を匂わせつつ、それを許容しているかのようなやさしさを漂わせています。つぎつぎに移り変わる情景や場面を追うごとに、場所や時間感覚が現実とはなれていくような、でもそれが心地よいような、そんな気持ちになれる不思議な作品集。
現代日本の不良詩人!
誰もいない闘技場にベルが鳴る
- 著者
- 後藤大祐
- 装丁
- 中野貴志、石井利佳
- 出版社
- 土曜美術社出版販売
- 発行年
- 2015年
- 製本
- ソフトカバー
- 頁数
- 89ページ
- サイズ
- 単行本
死体をタクシーに乗せて
祭りのようにすすむ
はずむ街を
ネオン輝く黒いセダンが通る
キミがいい気分だから
ボクもまじ最高
肩に手をまわせば、ほら
頭蓋骨から、ピューと笛がこぼれる
ー「死体をタクシーに乗せて、」より
最後は後藤大祐詩集「誰もいない闘技場にベルが鳴る」。「死体をタクシーに乗せて」、「都心震度五弱、『AKIRA』が再び目を覚ますまで」、「あたし店長になってしまった、ブルース」など、2000年以降のキーワードを随所に散りばめられた詩はテンポよく進行します。これが独特のリズムでかっこいい!ちなみに表紙画はノストスブックスが担当させていただきました。制作ノートはこちら。