こんにちは、石井です。
先日ひさしぶりに
X51.ORGを開き、アーカイブを読み漁りました。世界の不思議を知るのはとてもたのしいことです。この記事を開いた皆さまも、きっと不思議なことや謎めいたものがお好きなはず。
さて今回の記事は、
種村季弘(たねむらすえひろ)の書籍をテーマにお送りします。ドイツ文学者であると同時に「''知の無限迷宮''の怪人」「大教養人」「現代のエンサイクロペディスト」など数々の異名をもつ博覧強記の人としても知られる種村氏。錬金術、神秘学、吸血鬼、人工生命、人形、妖人、奇人...etc。あやしくいかがわしい、けれども思わず覗き見たくなるもの。種村氏の評論やエッセイに登場する、古今東西の異端的な文化や人物はとてもミステリアスで好奇心をそそられるものばかりです。
そんな広大無辺なタネムラワールドを、ほんの一端ではございますがご紹介します。
それでは、どうぞ。
吸血鬼小説のミニアチュール・アンソロジー
ドラキュラ・ドラキュラ
- 著者
- 種村季弘
- 装丁
- 四谷シモン
- 出版社
- 薔薇十字社
- 発行年
- 1973年
- 製本
- ソフトカバー、326頁
- サイズ
- 単行本
まずは種村氏編纂による、吸血鬼にまつわる小説のアンソロジー「
ドラキュラ・ドラキュラ」から。ジャン・ミストレル「吸血鬼」、ジュール・ヴェルヌ「カルパチアの城」、コナン・ドイル「サセックスの吸血鬼」、ベレン「吸血鬼を救いにいこう」、ジェラシム・ルカ「受身の吸血鬼」、日夏耿之介「吸血鬼譚」など、15篇の作品を収録しています。重厚で恐ろしい物語もあれば、美しく幻想的な話もあり、作家たちの描いた吸血鬼は千差万別です。
余談ではありますが、もし個人的ベスト吸血鬼文学を選ぶとしたら、三島由紀夫の短編「仲間」を挙げたく思います。陰鬱でロマンチックな、とても素敵な物語なのです。が、残念ながら本書には収録されていません。澁澤龍彦編「
暗黒のメルヘン」に収められておりますので、ご興味ある方はぜひ。おっと。さっそくシブサワ界へワープしてしまいましたので、タネムラ界へ戻らなくては。
恐怖と魅惑。吸血鬼学の集大成
吸血鬼幻想
- 著者
- 種村季弘
- 装丁
- 野中ユリ
- 出版社
- 薔薇十字社
- 発行年
- 1971年
- 製本
- 函・ハードカバー、268頁
- サイズ
- 単行本
さて、吸血鬼文学に触れ魅力を感じたなら、もう一歩踏み込んだ研究書はいかがでしょう。本書「
吸血鬼幻想」はこの不死のモンスターにまつわる、ありとあらゆる文献や資料を基に編まれた異色のエッセイ集。前半は系譜学・文学・犯罪心理学などに基づいた吸血鬼の総合研究書。後半は「吸血鬼の画廊」と題し、絵画や映画の図版を多数掲載しています。こうして眺めてみると吸血鬼を題材にした作品のなんと多いことか。そして、
野中ユリが手がけた美しい挿画と装幀が、種村氏の吸血鬼研究に注ぐ情熱をそっと後押ししているかのよう。
歴史の中に棲まう悪魔の幻影
悪魔礼拝
- 著者
- 種村季弘
- 出版社
- 桃源社
- 発行年
- 1979年
- 製本
- 函・ハードカバー、260頁
- サイズ
- 単行本
徐々に魔境に踏み込んでまいります。本書「
悪魔礼拝」はキリスト教圏における悪魔主義(サタニズム)を、異教の側から解読した評論集。悪魔主義とはいかなるものなのか?キリスト教的善悪の2元論が歴史にもたらしたものとは?その考察は中世・近世のヨーロッパ史はもちろん、キリスト誕生以前、古くはギリシャ神話まで遡り、ミルトンやゲーテをはじめとする文学や芸術にまで及びます。悪魔を呼び出す方法などを教授する内容ではないため、サタニストの皆さまはどうぞあしからず。
人工生命創造の研究に迫る
怪物の解剖学
- 著者
- 種村季弘
- 装丁
- 野中ユリ
- 出版社
- 青土社
- 発行年
- 1974年
- 製本
- ハードカバー
- サイズ
- 単行本
古今東西、人類が倫理や宗教観に苛まれながらも夢見てきたこと。それは人工的に生命を創り出すことでした。過去の研究者や作家たちが描いた人工生命について、心理学的考察をまじえながら紹介しているのがこちらの「
怪物の解剖学」。中世のゴーレムやホムンクルス精製術、近世以降のぜんまい仕掛けのからくり人形まで、種々の"怪物"たちが登場します。途方もない時間を経て、これらの研究が現代の人工知能やロボットの開発につながっているのかと思うと、頭がくらくらします。AIに魂が宿る日も近いのかもしれません。科学の発展すごい。
放浪の大錬金術師、パラケルスス
パラケルススの世界
- 著者
- 種村季弘
- 出版社
- 青土社
- 発行年
- 1977年
- 製本
- 函・ハードカバー
- サイズ
- 単行本
こちらは医学者、化学者、神秘思想家、そして錬金術師として名高いパラケルススの生涯を追った人物伝です。科学と魔術が混在していた中世ヨーロッパ。そのため、賢者の石やホムンクルス精製に成功した等、真偽が定かでないオカルトめいたエピソードが多々残されているパラケルスス。本書では西洋医学発展への貢献や哲学者・思想家たちに与えた影響などを軸に、孤独な放浪の道程を辿ります。
錬金術の歴史は古く、その源流を辿ると紀元前まで遡ると言われています。金属に限らず、様々な物質をより完全な物質へ錬成させる目的で研究されていた錬金術。魔術というより、化学の原形なのですね。より詳しく錬金術のなりたち、その盛衰を知りたい方には「
黒い錬金術」がおすすめです。
錬金術の本質を探り、歴史的経緯を辿る評論集。錬金術というあやしげな技を、哲学や科学からの視点を交え種村流に描いた異色の文化論。
「愛」と「知」の秘密結社、薔薇十字団
薔薇十字の魔法
- 著者
- 種村季弘
- 装丁
- 堀内誠一
- 出版社
- 薔薇十字社
- 発行年
- 1972年
- 製本
- 函・ハードカバー、286頁
- サイズ
- 単行本
時代や国をまたぎ、タネムラ界は蜘蛛の巣のごとく拡がっています。錬金術とくれば、次は薔薇十字団。本書は、ヨーロッパの伝説的秘密結社「薔薇十字団」とその魔法の極意を紹介するエッセイ集。中世ヨーロッパに端を発する薔薇十字団の成り立ち、彼らの基本文書「ファーマ・フラテルニタティス」を引き合いに出しつつ、世界輪、精霊、錬金術などについて丁寧に解説しています。なんだかもう薔薇十字団より種村氏のほうが魔法を使えそう。
バイエルンの怪事件
謎のカスパール・ハウザー
- 著者
- 種村季弘
- 装丁
- 野中ユリ
- 出版社
- 河出書房新社
- 発行年
- 1984年
- 製本
- ハードカバー
- サイズ
- 単行本
世界には解明されていない謎がたくさんあります。こちらもそのひとつ。本書「
謎のカスパール・ハウザー」は、出生・特異な能力・そしてその死まですべてが謎に包まれた少年、カスパール(カスパーとも)・ハウザーの人物伝。16歳頃まで牢に幽閉され、言葉も話せず、人としての社会生活を知らずに育ったカスパー。特殊な環境下で育ったためか五感は非常に鋭敏で、また読み書きをみるみるうちに習得するなど学習能力も高かったと言われています。誰が、何のために少年を幽閉したのか?そして少年はいったい何者なのか?高貴な一族の遺児なのか、稀代の詐欺師なのか、それとも...? 種村氏が膨大な文献を渉猟し、その謎に迫ります。
殿堂入り詐欺師と大泥棒たちの博覧会
詐欺師の楽園
- 著者
- 種村季弘
- 装丁
- 田辺輝男
- 出版社
- 學藝書林
- 発行年
- 0000年
- 製本
- ハードカバー、302頁
- サイズ
- 単行本
さて一息。謎にみちた魔境からすこし離れ、冒険活劇のような人物伝をご紹介。昨今のフィクションに登場する怪盗や詐欺師たちは皆個性的で魅力にあふれています。小説では怪盗ルパン、怪人二十面相、映画ではユージュアル・サスペクツ、オーシャンズシリーズ..etc。そんな架空の人物像にもモデルがきっといるに違いなく。本書に登場するのは、ヨーロッパに実在した凄腕詐欺師や大泥棒たち。狙う獲物はモナ・リザから贋金作りまでバラエティ豊か。まるで詐欺師の大博覧会です。知能犯たちがおりなす鮮やかな手口の舞台裏を、おっかなびっくり覗いてみませんか?
欧州を股にかけた一大アドベンチュア
山師カリオストロの大冒険
- 著者
- 種村季弘
- 装丁
- 野中ユリ
- 出版社
- 中央公論社
- 発行年
- 1978年
- 製本
- ハードカバー
- サイズ
- 単行本
前述の「
詐欺師の楽園」にもチラリと登場する詐欺師の一人、カリオストロ伯爵にフォーカスした1冊。ヨーロッパを股にかけ飛び回り、社交界に潜入しては上流階級の人びとを騙した稀代の詐欺師の生涯を追います。あるときは医者、あるときは霊媒師、またあるときは錬金術師。フリーメイソンの一員であった、騙し取った金品を貧しい人々に分け与えていた、などいくつもの顔を持つ彼は、種村氏の好むトリックスター的な存在だった様子。氏の著作でたびたび名を見ることができます。
詐欺師とは似て異なる存在ではあるものの、騙すことを生業にしている輩といえば贋作師。芸術の興隆の影にかならずと言っていいほど潜んでいます。名画を模造した贋作師たちもまた、すぐれた技術を持っているわけですが、彼らにスポットを当てた書籍はなかなかありません。ご興味のある方は「
贋作者列伝」をどうぞ。
ゴッホの絵画の贋作販売に関与したオットー・ヴァッカーや、聖マリア教会内陣画の修復に際し贋作をつくりあげたファイとマルスカートについてなどのエピソードを収録しながら、果たして美は贋作には不在なのかを問う。
そうそう、「怪物の解剖学」をご紹介した際に触れた人工知能の話題について。iPhoneに搭載されている「Siri」は人工知能(AI)に近い存在なわけですが、みなさんはSiriとたわむれていますか?昨日、Siriに向かって「バルス」と唱えてみたところ「目が!目が!!いえ、画面が!Retinaディスプレイが!」と乗ってきてくれました。やるなSiri。いつか種村さんのような博学多識のAIが登場し、わたしの生活をサポートしてほしいと夢見る今日のこのごろです。
それでは、また。