本日は国内のグラフィックデザイナーによるエッセイ集をまとめてご紹介します。
あるときは思わず背筋が伸びてしまうようなストイックな姿勢をみせ、あるときは悩み苦しみ、またある時は生き生きと楽しげに、個性豊かに綴られたエッセイの数々。それぞれの美学や信念は異なれど、共通して感じられるのはデザインに対する愛情。そして、デザイナーにとってかかせない知識、心構えが詰まっています。それでは、生年順にどうぞ!
ちなみにメインビジュアルは若かりし日の原弘のポートレート。良き表情ですね。
原弘 | デザインの世紀
原弘 デザインの世紀
- 著者
- 原弘
- 出版社
- 平凡社
- 発行年
- 2005年
原弘(はらひろむ 1903年−1986年): 昭和期の日本を代表するグラフィックデザイナーの一人。日本デザインセンターの創設に参画し、デザインビジネスの最前線で活躍するかたわら、美術大学で教鞭を執るなど教育者としても知られている。
いずれにしても、われわれの視覚的コミュニケーションが、
現行の国字によって行われる以上、日本のレタリング・デザイナーは、
この画の不均一な、複雑な性格をもった文字を、
機能と美学にこづき回されながらデザインするという宿命から、
逃れ出ることはできないだろう。(抜粋)
戦前・戦後における日本の近代デザインを築き上げたデザイナーの1人、原弘が自ら綴るデザイン史。自身の手がけた仕事はもちろん、カラー図版も混じえながら展開する欧米諸国のグラフィックデザインやタイポグラフィについての解説など、資料性の高い貴重な内容。教え子である田中一光や田名網敬一らの寄稿文も掲載されています。
田村義也 | のの字ものがたり
のの字ものがたり
- 著者
- 田村義也
- 出版社
- 朝日新聞社
- 発行年
- 1996年
田村義也(たむら よしや 1923年ー2003年): 大学卒業後、初の公募社員として岩波書店に入社。86年の定年退社まで、書籍の編集・製作のほか、雑誌「世界」「文学」編集長などを歴任。そのかたわら書籍装丁を多く手がけた。
書名を描くのは、私の装丁のなかでいちばん重要な仕事である。
それには、特に集中力が必要なので、
家人が寝静まった真夜中にやるのだが
いつも気になるのは「の」の字のことである。(抜粋)
熟達の編集者にして、現代屈指の装丁家でもある田村義也が語る、装丁にまつわるエピソード集。著者がかかわった装丁の思い出に、活字のこと、インクのこと、文字の作り方や組み合わせ方などの制作秘話をまじえながら綴っています。
粟津潔 | デザイン巡遊
デザイン巡遊
- 著者
- 粟津潔
- 出版社
- 現代企画室
- 発行年
- 1982年
粟津潔(あわづ きよし 1929年ー2009年):日本のグラフィックデザイナー。独学でデザイン・絵画の技法を習得。ポスターや造本装丁をはじめ、国内外問わず国際的なプロジェクトに参加。油彩作品も多数制作。
デザインや絵画。或いは芸術の周辺をさまよい歩いてきたのである。
それが私の居場所であり、デザイン論なのであろうか。
したがってまた、寄り道が多かったせいか、それなりの友人というか、
同時代をさまよい歩く者たちにも、出会った。(抜粋)
グラフィックデザイナー・粟津潔のエッセイと、高橋悠治、富岡多恵子、寺山修司、黒川紀章らとの対談集。粟津氏が影響を受けたピカソやゴッホ、ガウディ、山下洋輔、ジョン・ケージをはじめとするさまざまな人物や作品のことにも言及した1冊。
田中一光 | われらデザインの時代
われらデザインの時代
- 著者
- 田中一光
- 出版社
- 白水社
- 発行年
- 2001年
田中一光(たなかいっこう 1930年−2002年): 昭和期を代表するグラフィックデザイナー。すぐれたグラフィックデザインを数多く世に送り出し、デザイナーとして日本のデザイン界、デザイナーたちに大きな影響を与えた。
デザインというのはあまり考え込んでもいいものができない。
ヒマでもできない。ある程度忙しくて、
まぎれた勢いで作ったほうが出来のいい場合が多い。(抜粋)
戦後のグラフィックデザイン界を牽引したデザイナー、田中一光の自伝エッセイ集。幼少期の思い出、建築デザインとの出会い、20数年にわたり手がけ続けた西武劇場と西武美術館の仕事のこと、クリエイティブ・ディレクターの役割、広告デザインとは一線を画した版画の個展についてなど、自らの生涯を振り返り綴った次世代への記憶の遺産。
福田繁雄 | デザイン快想録
デザイン快想録
- 著者
- 福田繁雄
- 出版社
- 誠文堂新光社
- 発行年
- 1996年
福田繁雄(ふくだ しげお 1932年ー2009年):グラフィックデザイナー。単純化された形態とトリックアートを融合させたシニカルなデザインが特徴。「日本のエッシャー」とも称される。
イラストレーションが単なる説明の手段ではなく、
エンターテインメントの要素を
そのまま視覚の罠として仕掛けることに、
すべての日常を賭けたいと思う。(抜粋)
「日本のエッシャー」とも称されるグラフィックデザイナー・福田繁雄のエッセイ集。「ルビンの壷」やエッシャーの作品に象徴されるだまし絵・錯視に関するエッセイのほか、ポール・ランド、ブルーノ・ムナーリ、木村勝、中村誠など様々なデザイナーに言及したエッセイも収録されています。
堀内誠一 | 父の時代・私の時代
父の時代・私の時代
- 著者
- 堀内誠一
- 出版社
- マガジンハウス
- 発行年
- 2007年
堀内誠一(ほりうち せいいち 1932年ー1987年):グラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナー、絵本作家。戦後まもなく14歳で伊勢丹宣伝部入社、のちにアド・センター株式会社設立。1974年パリに移住。「アンアン」「ポパイ」のロゴなどの仕事で知られる。
レイアウトが総てだとも、またレイアウトは批評だともいいますが
エディトリアル・デザインの仕事は、技巧の前に、
表現しようとする人達の心からの友人であることが必要なのです。(抜粋)
「アンアン」、「ブルータス」、「ポパイ」など、人気雑誌の黄金時代を築いたアートディレクターでありエディトリアルデザイナー、堀内誠一の自伝。戦前から1980年代にかけて、雑誌から絵本まで幅広く手がけてきた著者が語る、エディトリアルデザイン史。
細谷巖のデザインロード69
細谷巖のデザインロード69
- 著者
- 細谷巖
- 出版社
- 白水社
- 発行年
- 2004年
細谷巖(ほそや がん、ほそや いわお 1935年生): アートディレクター、グラフィックデザイナー。長く広告制作に携わり、ライトパブリシティ社代表取締役会長、東京アートディレクターズクラブ会長、日本グラフィックデザイナー協会会員、毎日広告デザイン賞審査員などを歴任。
企業が社会に向かって発するものとしての広告は、
品格を問われるわけじゃないですか。
品格というのはいい製品、いい考え方、良質なものじゃないといけないでしょ。
そのうえいいデザインでなければ。(抜粋)
アートディレクター、グラフィックデザイナー、ADC会長、ライトパブリシテイ社長として最前線の活躍を続ける細谷巖の自伝風半生記。サッポロビール、キューピーマヨネーズ、日産スカイラインなどの広告制作の創造的裏話、デザインとコミュニケーションへの限りない愛がユーモラスに綴られています。
和田誠 | 銀座界隈ドキドキの日々
銀座界隈ドキドキの日々
- 著者
- 和田誠
- 出版社
- 文藝春秋
- 発行年
- 1993年
和田誠(わだ まこと 1936年生): イラストレーター、デザイナー。「週刊文春」の表紙、星新一著作の挿絵などの仕事で知られる。映画評論・エッセイ集も多数出版。
ぼくのドキドキの日々は、豊かで幸せな日々でもあった。
個人的にもそうだが、若いクリエイターたちが
ジャンルを超えて刺激し合っていたという意味で、
確かに面白い時代だったと思う。(抜粋)
イラストレーターの和田誠が、大学卒業からライト・パブリシティへの就職、そして独立するまでを綴った自伝的エッセイ集。横尾忠則や細谷巌とのエピソードや、広告にマーケティングが入ってきたと嘆く後半のやるせない思いなど、読みどころ満載。
石岡瑛子 | 私 デザイン
私 デザイン
- 著者
- 石岡瑛子
- 出版社
- 講談社
- 発行年
- 2005年
石岡瑛子(いしおか えいこ 1938年ー2012年):アートディレクター、デザイナー。資生堂、パルコ、角川書店の広告を成功に導く。のちにNYへ移住、映画、演劇、展覧会、そしてオリンピックまで幅広いプロジェクトの創り手として国際的に活躍。
瞬発力と集中力と持続力を身につけて、知性と品性と感性を磨く。
磨いて、磨いて、磨き続ける。
世界をリードする優れた表現者は、異口同音に私に向かって語りかける。
表現者にとって最も大切なことはDiscipline(訓練・鍛錬)だと。
私も200パーセント、同感である。(抜粋)
グラフィックデザインの枠におさまらず、世界を舞台に活躍したデザイナー、石岡瑛子の回想録。マイルス・デイビスのアルバム「TUTU」のアートワークデザイン、レニ・リーフェンシュタール展のプロデュース、映画「ドラキュラ」「ザ・セル」のコスチュームデザインなど、世界の巨匠たちとの緊張感溢れる制作背景が垣間見えます。
松永真
松永真
- 著者
- 松永真
- 出版社
- 財団法人DNP文化振興財団
- 発行年
- 2013年
松永真(まつなが しん 1940年生):資生堂宣伝部を経たのち独立。広告ポスター、パッケージデザイン、CI計画など幅広く多くの仕事を手がける。
デザインというのは、生活環境の中での、
自分のリアクションではないかと思っています。
最も身近な自分を取り巻く環境がどういうものかを知り、
その特性をはっきり把握した上で、
仲間の生活者に投げかけていかなければならないものだと思うのです。(抜粋)
グラフィックデザイナー、松永真のエッセイ集。スコッティのティッシュペーパーボックス、タカラのカンチューハイ、資生堂UNOをはじめとする代表的なデザイン、それぞれの仕事に対するコメント、臼田捷治、亀倉雄策、田中一光らが寄せたデザイン論などが収録されています。シンプルで鋭く日常に切り込んでくる、松永真のもつ美学の集大成。
戸田ツトム | 陰影論 デザインの背後について
陰影論:デザインの背後について
- 著者
- 戸田ツトム
- 出版社
- 青土社
- 発行年
- 2012年
戸田ツトム(とだつとむ 1951年生): グラフィックデザイナー。エディトリアルデザインを中心に活動し、現代思想書をはじめとする造本装丁を多数手がける。DTPの可能性をいち早く国内外に示した。
デザインが生まれ、ともに生きるべき背景や環境への意識が、希薄になっています。
希薄になる消費、希薄になる生命、希薄になる家族社会。
かつて経済の増殖をエネルギーとしたデザインの理由が、
次第に消えてゆくようです。(抜粋)
グラフィックデザイナー、戸田ツトムによるエッセイ集。都市空間や自然から得た着想、ヨーゼフ・ボイスのパフォーマンスに思うこと、近代デザインの源流を日本画の意匠に見出す論考などを収録。戸田ツトムのデザイン哲学の背景に潜む思想を探ることができる1冊。
原研哉 | ポスターを盗んでください
ポスターを盗んでください
- 著者
- 原研哉
- 出版社
- 新潮社
- 発行年
- 1997年
原研哉(はら けんや 1958年生):グラフィックデザイナー。1983年日本デザインセンター入社、のちに原デザイン研究室を設立。広告、パッケージデザイン、装丁、展覧会プロデュースなど活動範囲を拡大中。
デザインというのはその語源を辿ると
ラテン語で「整理する」という意味である。
物の本質を考えながらあらゆる物の関係を整理することがデザインであるから
世に存在する「整理すべきもの」の多さを考えると、
デザインの仕事も無限にあるというわけだ。(抜粋)
グラフィックデザイナーの原研哉が綴ったエッセイ集。ニッカウヰスキーのボトルデザイン、マキシムのパッケージデザイン、旧友・原田宗典の本の装丁、オリジナル紙「ローマストーン」開発時の覚書など、駆け出しのころから1990年代までに手がけた仕事を振り返りつつ、デザインへの美意識が語られています。