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再入荷が待ち遠しい。出会えそうで出会えない珠玉の本たち
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再入荷が待ち遠しい。出会えそうで出会えない珠玉の本たち

こんにちは、石井です。

ものすごく入手難易度が高いわけでもないのになぜだかタイミングが合わず、なかなか再会できない本たちがいます。出会えそうで出会えない、きっとどこかですれ違っているにちがいない。そんな、ノストス的にも個人的にも邂逅を待ち望む本を、ジャンルレスにピックアップしてみたいと思います。

在庫はありませんが情熱をこめて紹介しますので、どうかご了承ください。再入荷をご希望されるかたは「再入荷お知らせボタン 」をポチっとし、気長にお待ちいただければ幸いです。



遊 1971年創刊号

遊 1971年創刊号

遊 1971年創刊号

編集
松岡正剛
出版社
工作舎
発行年
1971年
松岡正剛が編集長を務め、工作舎より刊行された雑誌「遊」1971年創刊号。
1971年9月、松岡正剛工作舎の立ち上げとともに創刊した雑誌「」。創刊して以来、季刊・不定期刊・隔月刊・月刊と発刊スタイルを変え、1982年にその幕を降ろしました。

遊 1971年創刊号 遊 1971年創刊号 「オブジェ・マガジン」という副題のついたこの雑誌は、宗教から科学、現代思想、音楽、宇宙、文学、歴史など実に幅広いトピックを扱った何とも形容しがたい雑誌で、「なんでもあり」な方針はそのタイトル「遊」によく表れています。 教養を謳った雑誌や書籍は多々あれど、森羅万象やアカデミックな知識を壮大なエンターテイメントとして再構築してしまう手腕は実に見事で、宇宙という巨大な「なぞなぞ」に軽妙に遊び挑むような姿がそこにはあります。

遊 1971年創刊号 遊 1971年創刊号 表紙デザインは、松岡正剛が「極上の師」と仰ぐ杉浦康平によるもの。「工作舎をおこしたのは杉浦康平と仕事がしたかったから」と松岡正剛自身が語るほど、「遊」にとっては要となった存在です。創刊号では表紙デザインのほか、巻頭特集「眼の形態」と、「時間軸変形地球儀」「本州時間軸変形地図」の折込作図を担当しています。

遊 1971年創刊号 様々な連載陣を迎えつつ、多少の休刊も挟みながら10年以上に渡り続いた「遊」。工作舎の起源であり、闊達な足場から常に一味違う切り口で物事を編集した稀有な雑誌です。

松岡正剛が創設した、自然科学・人文科学・文学・芸術などを扱う伝説の出版社・工作舎。その初期の編集概念と、常套を逸したデザイナーたちの証言を知ることができる。
工作舎物語 | 臼田捷治
杉浦康平編集でおくる、神戸芸術工科大学レクチャーシリーズ。北沢方邦、今福龍太、海野和男など豪華な講師陣を迎え、芸文の垣根を超えて「まだら」を解釈する講義録。
「まだら」の芸術工学

脈動する本 | 杉浦康平

脈動する本 | 杉浦康平

脈動する本

著者
杉浦康平
出版社
武蔵野美術大学 美術館・図書館
発行年
2011年
武蔵野美術大学美術館で開催された企画展「杉浦康平・脈動する本:デザインの手法と哲学」の展覧作品を編纂した図録。
こちらは上記「遊 創刊号」でも名前の登場したグラフィックデザイナー/杉浦康平が、2011年に武蔵野美術大学美術館で開催した展示の図録です。多岐にわたる氏の仕事の中でもブックデザインに焦点を当てており、精微を極めた傑作「全宇宙誌」をはじめとする1000点にもおよぶ作品が掲載されています。

脈動する本 | 杉浦康平 脈動する本 | 杉浦康平 単行本、新書・文庫、全集、豪華本、辞書、アジアの図像を探求した自署など、初期の仕事から近年のものまでずらり。この展示は実際に足を運びましたが、とても素晴らしい内容でした。また開催してほしい。

脈動する本 | 杉浦康平 氏の精巧で多元的なブックデザインの起点は、独特な本文組版設計つまりフォーマットデザインにあります。有機的に生み出され日本語に適した多様な段組、名づけて杉浦グリッド・システム。その秘密をデザイナーの鈴木一誌氏が数ページにわたり解説しています。文字の大きさ、行間、行送り、余白…杉浦グリッドを形成する要素を具体的に数値入りで解説している記事はなかなか珍しいのでは。

脈動する本 | 杉浦康平 脈動する本 | 杉浦康平 展示に際して発行される図録は一般の流通に乗らないケースが多いため、新刊書店やネットストアでは入手できないものがほとんど。心に響く展示であったなら頑張って現場で購入しましょう。

と、過去の自分に小一時間言い聞かせたいのであります。

グラフィック・デザイナー、そしてアジア図像学の研究者でもある杉浦康平が「かたち」発生の源流をさかのぼり、成長と変化のありさまを様々な事象から考察する評論集。
かたち誕生 | 杉浦康平
美術評論家・多木浩二と4人のデザイナー(篠原一男、杉浦康平、磯崎新、倉俣史朗)との対談を収録。
四人のデザイナーとの対話 | 多木浩二

Foxy Lady | Cheyco Leidmann

Foxy Lady | Cheyco Leidmann

Foxy Lady

著者
Cheyco Leidmann
出版社
Love Me Tender
発行年
1980年
チェイコ・レイドマンが自身のスタイルを確立したファッション・フォト作品集。
いかにも80sな様相のネオンサインやスイミングプール、都会の喧騒から離れたビーチ、砂漠のモーテルなどを舞台に、新たなビジュアルスタイルを生み出したチェイコ・レイドマンの作品集です。

Foxy Lady | Cheyco Leidmann Foxy Lady | Cheyco Leidmann Foxy Lady | Cheyco Leidmann ポップなファンタジーと現実の境目を横断する作品群は、セクシーかつパワフル、時に何かの暗示や啓示のようでもあり、凝り固まった通念を激しく揺るがす力を持っています。 「目は武器なんだ」と語るチェイコ・レイドマン。その言葉のとおり、日常に潜む僅かな隙間を捕え、私たちの目の前にその瞬間を暴露してみせる高い技術は一流といっても差し支えないものです。

Foxy Lady | Cheyco Leidmann Foxy Lady | Cheyco Leidmann のちの作品集「Bananasplit」、「Sex is Blue」へと続く本作「Foxy Lady」。 過度にセクシャルでフェティッシュなイメージ、そして生々しい配色と構図がひしめく鋭い一冊です。

ペーパーバック版も出版されていますが、手元に置くならやっぱりハードカバー版が欲しいのです。

ファッションカルチャー誌「i-D」のディレクターとして知られるテリー・ジョーンズが編集した写真集。パトリック・デマルシェリエ、チェイコ・レイドマン、デュアン・マイケルズらなど現代に活躍する写真家たちの作品を編纂。
Privat Photos

The Stanley Kubrick Archives

The Stanley Kubrick Archives

The Stanley Kubrick Archives

編集
Alison Castle
出版社
Taschen
発行年
2008年
映画界の巨匠、スタンリー・キューブリックの初期作品「非情の罠」から、遺作となった「アイズ・ワイド・シャット」までをタイトル通り一挙にアーカイブした一冊。
1999年に他界した映画界の巨匠、スタンリー・キューブリックの初期作品「非情の罠」から、遺作となった「アイズ・ワイド・シャット」までをタイトル通り一挙にアーカイブした一冊。大きく分けて前後半2部構成となっており、前半はスチール写真が200ページ以上にわたり掲載されています。フィルムから出力された高精細画像は非常に美しく、完璧主義で知られるキューブリック監督の遺志が反映されているかのよう。

The Stanley Kubrick Archives 1968年公開「2001年宇宙の旅」より。SF映画の金字塔。特にスターゲイト突入シーンは技術力・表現力ともに60年代に制作された映像とは思えません。

The Stanley Kubrick Archives 1971年公開「時計じかけのオレンジ」より。ディストピア映画の傑作。クラシック音楽と暴力的な近未来の融合感が素晴らしいです。

The Stanley Kubrick Archives 1980年公開のホラー映画「シャイニング」より。各シーンで響く不快な効果音、本物のホテルと見まごう重厚なスタジオセットに恐怖心を煽られます。ジャック・ニコルソンの怪演っぷりが際立つ作品。

The Stanley Kubrick Archives 後半は主にフィルム・メイキングについての解説となっており、小道具、ポスター、アートワーク、セットデザイン、ラフスケッチ等、これまで公開されていなかった貴重な情報がぎっしり詰まっています。

The Stanley Kubrick Archives 茶目っ気のあるショット。

とにかく分厚く、鈍器もしくは漬物石のような重さの本なので情報量も膨大。欲を言えば日本語でじっくり読みたくも。が、残念ながら日本語版は出版されていません。

スタンリー・キューブリックに関する作家論、作品論を編纂した評論集。執筆陣は石上三登志、河原畑寧、金坂健二、井口健二、日向あき子、小林久三ほか。巻末には詳細なフィルモグラフィーも併せて掲載。
ザ・スタンリー・キューブリック
自分も欲しい本だったりもするので、ばったり出会えたら迷わずお持ち帰りしたいです。

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ブックディレクター。古本の仕入れ、選書、デザイン、コーディング、コラージュ、裏側でいろいろやるひと。体力がない。最近はキュー◯ーコーワゴールドによって生かされている。ヒップホップ、電子音楽、SF映画、杉浦康平のデザイン、モダニズム建築、歌川国芳の絵など、古さと新しさが混ざりあったものが好き。