ブック・コスモスあるいは星書 — そんな本そのものが宇宙それ自体であるような一書をつくってみたいと思っていた。
— 松岡正剛 序文より
「全宇宙誌」は、編著者の松岡正剛が工作舎設立当時から構想し、アートディレクターの杉浦康平らと共に7年の歳月をかけて作り上げた大著です。
本書は8つのブロックで構成されています。時間としての宇宙、空間としての宇宙、構造としての宇宙、電波源としての宇宙、現象としての宇宙、対象としての宇宙、観念としての宇宙、物質としての宇宙というテーマが相互に関連しあうように構成され、まさに書物そのものが漆黒の宇宙であるかのような、見事な編集。中核をなすのは天文学者、数学者、物理学者らによる専門的な評論ですが、小説家や編集者によるコラムも挟まれており、眼と脳を楽しませてくれます。
そしてこの壮大なスペース・オデッセイに読者を惹きこむ最も大きな要因、それは叡智の源を象徴するブラック・モノリスさながらの重厚な造本なのではないでしょうか。書籍設計のマスター・プランを練り上げたのは杉浦康平。漆黒で統一された全頁、「冊子の時空構造化」と名付けられた見開き単位のグリッド・システム、全ページにわたりランダムに配置されているように見えるも、実は規則正しくマトリックス状に配置されている小カットなど。極微まで計算されたエディトリアル・デザインが施されています。巻末のクレジットには若かりし日の戸田ツトム、羽良多平吉などの名も。
さらにこんなギミックも。右下隅には「151人の天文学者小辞典」、見開きノド上には天文観察機器の「オブジェコレクション」、全ページの裾部分には時間、距離、速度などの「ミクロからマクロに至るスケール表」、右上隅には天体スケッチ等の「わき見する図像」群。小口も表紙側から覗くとアンドロメダ、裏表紙から覗くと星座図というように、精微の極みともいうべきデザインは崇高さすら感じるほどです。
出版当時の宇宙観と現代のより研究の進んだ宇宙観にはある程度の剥離はありますが、それとは裏腹に、野望とも呼べる試みと極微まで貫徹されたエディトリアル・デザインは、受け継がれるべき偉業といっても過言ではないでしょう。
果たして、次の「全宇宙誌」は現れるのでしょうか?