ブックレビューBOOK REVIEW

何度でも眺めたくなる、ストーリー性のあるファッション写真集 5選
書いた人

何度でも眺めたくなる、ストーリー性のあるファッション写真集 5選

石井です、こんにちは。前回は「資生堂、西武、パルコなどが展開したグラフィックデザイン。昭和の企業広告を振り返る。」として、日本の企業・ブランド広告集をご紹介しましたが、今日は写真集について書いてみたいと思います。

写真集とひと言でいっても、その内容は多岐にわたります。芸術としての写真、広告としての写真、報道としての写真。被写体も人物、風景、静物などさまざま。今回は数ある写真集の中から、ファッション写真に絞り、とりわけ映画のワンシーンや外国文学の一節を連想させるような、ストーリー性のあるポートレート集をあつめてみました。華やかな雰囲気もさることながら、特徴的な構図にも着目してみてください。

それでは、どうぞ。



ギイ・ブルダン:孤高のファッション・フォトグラファー

ギイ・ブルダン

ギイ・ブルダン

著者
アリソン・M. ジンジャラス
出版社
ファイドン
発行年
2006年
フォトグラファー/ギイ・ブルダンの写真作品集。
まずは、フランス出身のファッション・フォトグラファー、ギイ・ブルダンの写真集から。ブルダンは素晴らしい仕事を数多く手がけたにも関わらず、同じ時代に活躍したリチャード・アヴェドンやウィリアム・クラインほど名前が知られていません。それは自身が生涯にわたり、作品の展示や出版を拒み、一部の例外を除きインタビューや雑誌のクレジット欄への掲載ですら断りつづけたため。しかし、死後改めてその芸術性が評価され、エロティックかつ創造性豊かなその表現の数々はいまも多くの人びとを魅了しています。

ギイ・ブルダン 左は1972年のシャルル・ジョルダンの広告。繊細で美しいデザインの靴と、巨大なジェット機。男女のメタファを広告に使用することは、現代より勇気が必要な行為でした。 右は1964年のフランス版ヴォーグでの仕事。覗き見をしているようなアングルが印象的。

ギイ・ブルダン
1972年、フランス版ヴォーグ、ディオールの化粧品広告。こちらも含みのある表現。

ギイ・ブルダン 1977年、フランス版ヴォーグ。鏡越しの視線、生々しい構図、ビビッドな色使いなど、スキャンダラスなアプローチが随所に散りばめられています。

ヘルムート・ニュートン:物語の一幕を切り取ったかのような、完璧な一瞬

ヘルムート・ニュートン RSF写真集

ヘルムート・ニュートン RSF写真集

著者
ヘルムート・ニュートン
出版社
アシェット婦人画報社
発行年
2005年
ファッション・フォトグラファー、ヘルムート・ニュートンの写真集。
続いては、ドイツ出身のファッション・フォトグラファー、ヘルムート・ニュートン。タイトルの「RSF」とは、「国境なき記者団」の略称。本書は、様々な国で報道の自由を奪われ、不当に拘束されているジャーナリストたちを支援する目的で出版されたものではありますが、内容はヘルムート・ニュートンの代表的な作品を編纂した写真集です。ニューヨーク、パリ、ローマ、ベルリンなどを舞台に撮影されたファッション・ポートレート、現地で出会った人びとや風景などが収録されています。

ヘルムート・ニュートン 1992年、デヴィッド・リンチとイザベラ・ロッセリーニのポートレート。

ヘルムート・ニュートン 1975年、フランス版ヴォーグ。古い街並みに佇む、イヴ・サンローランをまとった男装の女性とヌードの女性モデル。とても挑発的でありながら、引き込まれるような美しさがあります。

ヘルムート・ニュートン 1979年、ドイツ版ヴォーグより。物語の一幕を切り取ったかのような構図。

ヘルムート・ニュートン 1988年、プラハの路上にて。道路工事の現場監督。佇まいが素敵です。

ジャン=ポール・グード:イマジネーションをかたちにする力

So Far So Goude

So Far So Goude

著者
Jean-Paul Goude
出版社
Assouline
発行年
2005年
フランスのデザイナー/ジャン=ポール・グードの作品集。
フォトグラファー、イラストレーター、映像作家、etc…と多岐にわたる分野で才能を発揮したジャン=ポール・グードの作品集。元妻であり、アーティストとしてのミューズでもあったグレース・ジョーンズのポートレートをはじめ、シャネル、ルイ・ヴィトン>、ジャン・ポール・ゴルチエの広告、さらには手描きのスケッチやフィルムコラージュなどが掲載された見応えある1冊です。

ジャン=ポール・グード(Jean-Paul Goude) 1978年、グレース・ジョーンズのアルバム「Island Life」のアートワーク。野性動物のような眼光と肉体美ときたら。完璧すぎて惚れ惚れします。

ジャン=ポール・グード(Jean-Paul Goude) こちらもグレース・ジョーンズ。1979年に制作された日本ツアー用の広告。ファッショナブルで毒っ気のある作品は、1度見たら忘れられないほど強烈。

ジャン=ポール・グード(Jean-Paul Goude) 1996年、「ファッション・アンド・スポーツ」シリーズより。夢で見たような光景。

ジャン=ポール・グード(Jean-Paul Goude) 1990年代初頭に世界中で話題になった、籠の鳥に扮したヴァネッサ・パラディが印象深いシャネルの香水「Coco」のCMも彼の仕事です。記憶に残っている方も多いのでは。

エレーン・ヴォン・アンワース:セクシーでユーモラスな幕間劇

Snaps

Snaps

著者
Ellen Von Unwerth
出版社
Twin Palms Pub
発行年
1995年
女性ファッション・フォトグラファー/エレーン・ヴォン・アンワースの写真集。
ドイツ生まれの女性ファッション・フォトグラファー、エレーン・ヴォン・アンワースのファッション・スナップ集。マドンナ、ナオミ・キャンベル、ヴァネッサ・パラディ、レニー・クラヴィッツ、クラウディア・シファーなど様々なモデルが登場し、ユーモアとリラックスした空気に包まれています。大判の美しい印刷も魅力的。

エレーン・ヴォン・アンワース(Ellen Von Unwerth) エレーン・ヴォン・アンワース(Ellen Von Unwerth) エレーン・ヴォン・アンワース(Ellen Von Unwerth) エレーン・ヴォン・アンワース(Ellen Von Unwerth) 漂ってくるほのかなフェティシズムが、想像力をかきたててくれます。

ファッショニスタ達の挑戦

On the Edge

On the Edge

出版社
Random House
発行年
1992年
ファッション誌「ヴォーグ」100周年記念のために発行された写真集。
最後は、世界で最も影響力のあるハイファッション誌「ヴォーグ」100周年記念に発行された写真集。20世紀のカルチャーを牽引したファッショニスタ達によるアートワークの集大成ともいえます。今なお前衛的な印象を与えてくれる衝撃的なビジュアルの数々は、アーヴィング・ペン、ピーター・リンドバーグ、ヘルムート・ニュートン、リチャード・アヴェドンら、トップフォトグラファーの手によるもの。

On the Edge 1975年、デボラ・ターバヴィル撮影。キューブリック映画のワンシーンのようなシャワールーム。

On the Edge 1991年、ピーター・リンドバーグ撮影。シャネルのレザージャケットとスカートを、マニッシュな演出で。こちらも舞台や映画を連想させる構図ですね。

On the Edge 1974年、ヘルムート・ニュートン撮影。女優シャーロット・ランプリングの退廃美。

On the Edge 1970年、アーヴィング・ペン撮影。ネイティブ・アメリカンの伝統衣装もハイ・ファッションに。
物語性をもったファッション写真は何度でも眺めたくなる魅力があります。一分の隙もなく計算されつくした構図やライティング、演出によって作りこまれた完璧な写真こそが、想像の余地を生み出してくれるというのはなんとも不思議な感覚。写真家や編集者の意図が言葉で明確に書かれていなくとも、想像を膨らませながらページをめくる。それもまた写真集の楽しみ方のひとつですね。



この記事をシェアする

ブックディレクター。古本の仕入れ、選書、デザイン、コーディング、コラージュ、裏側でいろいろやるひと。体力がない。最近はキュー◯ーコーワゴールドによって生かされている。ヒップホップ、電子音楽、SF映画、杉浦康平のデザイン、モダニズム建築、歌川国芳の絵など、古さと新しさが混ざりあったものが好き。