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ジャケットアート・アーカイブス 5選
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ジャケットアート・アーカイブス 5選

こんにちは、店長の石井です。
みなさまは何か集めているものがありますか?

近ごろ周囲を見渡してみて、コレクション癖を持つ人びとが多いことにふと気がつきました。
レコード、カセットテープ、フライヤー、音楽機材、靴、眼鏡、鉱物、切手、古着など、バリエーションは豊かなものの、音楽関連のものが比較的多い模様です。
どんなものであれ、掘り出し物に出会えるとみんな目をきらきらさせて楽しそう。

本もまた音楽と同じく、コレクターズ・アイテムの定番と言えます。
ということで、何かと相性の良い「本と音楽」。シリーズ第4弾は、ジャケットアート・アーカイブスと題して、名盤の顔であるジャケットデザインを集めた本たちをご紹介します。

配信サービスが充実する昨今、音源を手に入れることはそう難しくないかもしれませんが
実物に出会える機会がなかなかないもの。

「収集癖はあるけれど、レア盤入手はむずかしい」
そんな紳士淑女はジャケットアートワークを愛でるために。

「ぶッ飛んだグラフィックを捻り出したいけれど、脳がショートしてしまった」
そんなデザイナーは刺激という名のカンフル剤でドーピングをするために。

たとえばこんな5冊はいかがでしょうか。



パーティーピープルが作り出した聖地の遺跡

Factory Records: The Complete Graphic Album

Factory Records: The Complete Graphic Album

著者
Matthew Robertson
出版社
Chronicle Books
発行年
2007年
マンチェスターの独創的なレーベル「ファクトリー・レコード」発のジャケットデザイン、フライヤー、パッケージなどを網羅した作品集。
ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダー、ハッピー・マンデーズなどのアーティストを世に送り出したマンチェスターのインディーズ・レコード・レーベル「ファクトリー・レコード」。本書は、同レーベルのジャケットデザイン、フライヤー、パッケージなどを網羅した作品集です。ピーター・サヴィル、マーク・ファロー、8VO、バーバラ・クルーガーなど革新的なデザイナーたちが手掛けたデザインの数々が一挙に掲載されています。

Factory Records: The Complete Graphic Album Factory Records: The Complete Graphic Album 初期から専属デザイナーとして活躍した、ピーター・サヴィルのデザイン。美しい。



レーベル運営と平行して彼らがオープンしたクラブ「ハシエンダ」は、パーティーピープルによるパーティーピープルのための聖地。その盛衰は今も伝説として語り継がれています。狂乱のマンチェスター・ムーヴメントにご興味のある方には、映画「24 Hour Party People」がおすすめです。

互いを高め合う音楽とグラフィックの幸福な関係

アイデア No.313 Warp

アイデア No.313 Warp

出版社
誠文堂新光社
発行年
2005年
イギリスのインディペンデント音楽シーンにおける代表的なレーベル「Warp Records」のグラフィック特集。

店舗のみで販売しています。
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90年代からクラブ・ミュージックを食べてすくすく育った世代にはお馴染み、ワープ・レコーズ。聴いたことのない音、見たことのないアートワークや映像を次々と世に放ち、聴くたび見るたび激震が走って脳がそれはもう大変なことに。音楽家とデザイナーの距離が近いゆえなのか、音と絵が共鳴し高め合っているかのような印象があります。理想的な関係。

アイデア No.313 Warp 顔ジャケ代表、エイフェックス・ツイン御大。

アイデア No.313 Warp 90年代のWarpはザ・デザイナーズ・リパブリックのイメージ。

アイデア No.313 Warp 00年代前半のPrefuse 73。アートワークに時代性がよく現れています。



おまけはクリス・カニンガムの短編ムービー「Rubber Johnny」。音楽はエイフェックス・ツイン。

沈黙の次に美しい音

アイデア No.311 音のコスモグラフィ

アイデア No.311 音のコスモグラフィ

出版社
誠文堂新光社
発行年
2005年
アイデアNo.311/2005年7月号。ドイツの音楽レーベル、ECMのカバーデザインを特集。
「The Most Beautiful Sound Next To Silence(沈黙の次に美しい音)」というレーベルコンセプトを見事に視覚化したアートワークは、ミニマルでストイックな美しさを持つものばかり。全てにおいてクオリティを高く保ち続ける、という強い意志を感じます。さらに、今号には杉浦康平によるレコードジャケット特集「天円地方-響きのカタチ」、池田亮司のアートプロジェクト、カールハインツ・シュトックハウゼンの素描集なども掲載されており、現代音楽が好きな方もデザイナーのみなさまも愉しめる内容なのではないでしょうか。

アイデア No.311 音のコスモグラフィ 90年代〜00年代はほとんどのアートワークをサーシャ・クライスが手がけています。

アイデア No.311 音のコスモグラフィ 静寂を切り取ったかのような写真。撮っているのはディター・レーム。



キース・ジャレットやジョン・ケージなど、著名なアーティストの音源もECMから多くリリースされていますが、今回はペルシャとインドの古典音楽をベースにしたインプロビゼーションをご紹介。シタールとタブラの響きに鼓膜がとろけます。

愛でるためのアルバム・カヴァー

The Ultimate Album Cover Album

The Ultimate Album Cover Album

著者
Roger Dean、David Howells
出版社
Prentice Hall Press
発行年
1987年
レコードジャケットデザイン集「Album Cover Album」シリーズ1〜4より、厳選した作品を収録。
こちらは王道。ビートルズローリング・ストーンズなど誰もが知っているバンドから隠れた名盤まで、殿堂入りと言える印象的なアートワークがぎっしりと掲載されています。まさにレコード図鑑。どのページを開いてもハズレはなし。

The Ultimate Album Cover Album The Ultimate Album Cover Album

ヒプノシスの超現実世界

The Works of Hipgnosis

The Works of Hipgnosis

著者
Hipgnosis
出版社
Paper Tiger
発行年
1978年
イギリスのデザイン・グループ、ヒプノシスが歩んできた道を様々な作品群とともにに記録。
ピンク・フロイド、レッド・ツェッペリン、ブラック・サバス、UFO。一度見たら忘れない、ヒプノシスのグラフィックから受けるインパクトは時代を超えても弱まることを知りません。ジャケットデザインをアートの領域に押し上げたのは彼らの功績なのではないでしょうか。掲載された作品の数々はもちろん、グループの中心メンバー/ストーム・トーガソンのテキストは必見。ラフスケッチ、背景や人物の撮影、アナログ手法での合成作業、そしてグラフィックが完成するまでを丁寧に解説しています。

The Works of Hipgnosis The Works of Hipgnosis The Works of Hipgnosis アルバムの音源よりジャケットデザインのほうが有名になってしまう現象を生んだのも、ヒプノシス。偉大です。
一気に様々なジャケットアートを見ていたら、なんだか耳がムズムズしてきました。週末は懐かしい音源を棚の奥から引っ張りだして、聴き直しましょうか。それとも新しい出会いを求めて、なにか堀りに出かけましょうか。

それではみなさま、良い週末を!



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ブックディレクター。古本の仕入れ、選書、デザイン、コーディング、コラージュ、裏側でいろいろやるひと。体力がない。最近はキュー◯ーコーワゴールドによって生かされている。ヒップホップ、電子音楽、SF映画、杉浦康平のデザイン、モダニズム建築、歌川国芳の絵など、古さと新しさが混ざりあったものが好き。