ノストススタッフになってからますます好きになったジャンルのひとつに、食エッセイがあります。
まず根が食いしん坊なので、本に書かれている食べ物の味や食体験をリアルに想像できるのが楽しい。 それと同時に、そんな自分にとって身近であるはずの「食」というテーマが、文豪やエッセイスト、料理家らの手によって、誰も思いつかないようなことばで描写されていることに、毎回驚きと感動を覚えます。
今日は、個性豊かで味わい深い食エッセイ10冊をご紹介します。 圧倒的な観察力と表現力で噛み砕かれて、読めば匂いと味がするようなことばたちをご堪能あれ。
おいしい暮らしのめっけもん
食や暮らしのエッセイと聞いて、まず平松洋子さんを思い浮かべるという方も多いのではないでしょうか。
鉄器がしゅんしゅんといいながら湧かしたお湯のまろやかさに驚いたり。焼きたてのパンをクロスでさっと包んで、温もりを閉じ込めたり。 平松さんが綴る文章からは、何気ない食卓のひとつひとつを、いつも新鮮な気持ちで楽しもうとしている様子が伝わってきます。 いいアイデアを思いついて、「私って天才?」と得意げに披露するところがまた可愛らしい。
"ときには食卓に冗談を。"と平松さんも綴っているように、豊かな食卓に必要なのは、きっとほんのちょっとの遊び心だけ。
鉄器がしゅんしゅんといいながら湧かしたお湯のまろやかさに驚いたり。焼きたてのパンをクロスでさっと包んで、温もりを閉じ込めたり。 平松さんが綴る文章からは、何気ない食卓のひとつひとつを、いつも新鮮な気持ちで楽しもうとしている様子が伝わってきます。 いいアイデアを思いついて、「私って天才?」と得意げに披露するところがまた可愛らしい。
"ときには食卓に冗談を。"と平松さんも綴っているように、豊かな食卓に必要なのは、きっとほんのちょっとの遊び心だけ。
おいしい暮らしのめっけもん
- 著者
- 平松洋子
- 出版社
- 文化出版局
- 発行年
- 2002年
フードジャーナリスト、そしてエッセイストとしても活躍する平松洋子のエッセイ。「お茶とジャムの意外な相性」などを収録。
巴里の空の下オムレツのにおいは流れる
著者はシャンソン歌手の石井好子。1951年の暮れ、シャンソンを学ぶために渡仏した彼女がパリ暮らしのなかで出会った料理について綴っています。
下宿先の女主人・マダム・カメンスキーが小さな台所でつくってくれた、ほかほかのオムレツもそのひとつ。 簡単ながらも材料や作り方が書かれているので、料理の見た目や出来上がっていく様子が目に浮かびます。じゅうじゅうという音とともに焼けていくたまご。湯気からふわりと立ち上がる、たっぷりと入れたバターの薫り。
パリの街を歩いたらこんな香りがするのかな。ちなみにこの本のタイトルは、「パリの空の下セーヌは流れる」というシャンソンをもじったそうですよ。
こちらは続編。オムレツの匂いが流れるのは「東京の空の下」。併せてどうぞ。
そして実はレシピ版もあるんです!マダムのオムレツももちろん載ってますよ。
下宿先の女主人・マダム・カメンスキーが小さな台所でつくってくれた、ほかほかのオムレツもそのひとつ。 簡単ながらも材料や作り方が書かれているので、料理の見た目や出来上がっていく様子が目に浮かびます。じゅうじゅうという音とともに焼けていくたまご。湯気からふわりと立ち上がる、たっぷりと入れたバターの薫り。
パリの街を歩いたらこんな香りがするのかな。ちなみにこの本のタイトルは、「パリの空の下セーヌは流れる」というシャンソンをもじったそうですよ。
シャンソン歌手・石井好子の食エッセイ。「暮しの手帖」での人気連載を編纂。「ロールキャベツは世界の愛唱歌」「父とアラン・ドロンとスープ」「いまは手抜き料理人」などを収録。
「暮しの手帖」で連載された、シャンソン歌手・石井好子の食エッセイ「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」のレシピ版。卵料理や魚介・肉料理など、著者がパリで習った料理の数々を収録。
ことばの食卓
食卓の記憶って、食べたものそのものより、一緒に食べた人とか、会話とか、その時目に映った景色の方が鮮明に覚えていることってありませんか?
武田百合子さんの『ことばの食卓』も、食とその周辺の記憶について綴られているのですが、これがなんとも言えないノスタルジーを連れてくる。 冒頭の章「枇杷」なんて、もう切なくて切なくて。。
著者にとっての枇杷の記憶は、既に亡くなった夫・武田泰淳が向かい合わせに座って枇杷を食べる姿と、その時交わした会話をひっくるめて出来上がっているんです。 だから自分がいまでもこうして枇杷を食べているのに、ここに夫がいないことがどうにも不思議で納得がいかず、ついあたりを見渡してしまう。
...鼻の奥がツンとしてきた。きっとこれから先も枇杷を食べるたび、切なく滲む記憶の味がするんでしょう。
武田百合子さんの『ことばの食卓』も、食とその周辺の記憶について綴られているのですが、これがなんとも言えないノスタルジーを連れてくる。 冒頭の章「枇杷」なんて、もう切なくて切なくて。。
著者にとっての枇杷の記憶は、既に亡くなった夫・武田泰淳が向かい合わせに座って枇杷を食べる姿と、その時交わした会話をひっくるめて出来上がっているんです。 だから自分がいまでもこうして枇杷を食べているのに、ここに夫がいないことがどうにも不思議で納得がいかず、ついあたりを見渡してしまう。
ひょっとしたらあのとき、枇杷を食べていたのだけれど、あの人の指と手も食べてしまったのかな。
...鼻の奥がツンとしてきた。きっとこれから先も枇杷を食べるたび、切なく滲む記憶の味がするんでしょう。
ことばの食卓
- 著者
- 武田百合子
- 出版社
- 作品社
- 発行年
- 1985年
作家/武田泰淳の妻であり、写真家/武田花の母でもあるエッセイスト、武田百合子によるエッセイ集。装丁は野中ユリ。
シネマ厨房の鍵貸します
友情の証に酌み交わす酒や、登場人物のライフスタイルがにじみ出る食卓の風景などなど、映画に出てくる料理はそのシーンを演出する重要な役割担っていますよね。
そんな洋邦名作の食事シーンをレシピとともに振り返りながら、映画の世界に入りこんだような気持ちになれるのが、この『シネマ厨房の鍵貸します』。
それにしても映画の中に登場する料理って、どうしてあんなに魅力的に映るんでしょうね? 私もクレイマー・クレイマーでお父さんがつくるフレンチトーストが食べたい。卵の殻が入っていてもいいから。
そしてこちらはパート2。魔女の宅急便「にしんとかぼちゃの包み焼き」がある!どなたか晴れている日に届けてください。
それにしても映画の中に登場する料理って、どうしてあんなに魅力的に映るんでしょうね? 私もクレイマー・クレイマーでお父さんがつくるフレンチトーストが食べたい。卵の殻が入っていてもいいから。
シネマ厨房の鍵貸します
- 著者
- 川勝里美、吉本直子
- 出版社
- 映像文化センター
- 発行年
- 1996年
洋邦の名作映画の食卓に登場する料理のレシピと、食事シーンをおいしく鑑賞するための映画ガイド。
洋邦の名作映画の食卓に登場する料理のレシピと、食事シーンをおいしく鑑賞するための映画ガイド第2弾。洋酒研究家によるワイン解説なども収録。
われらカレー党宣言
こちらは様々な著名人らがそれぞれカレーについて綴っている、一風変わったエッセイ集です。参加しているのは、伊集院静、安西水丸、池波正太郎、和田誠、寺山修司などなど、なんとも豪華な顔ぶれ!
カレーといば、子どもから大人まで幅広く愛されている料理の一つですよね。だからこそ、だれしも自分にとっての理想のカレー像を持っているというもの。
うむ、人に歴史あるがごとく、カレーライスに歴史あり。 (ちなみにリーダー山田は絶賛カレーブーム中らしい。)
カレーといば、子どもから大人まで幅広く愛されている料理の一つですよね。だからこそ、だれしも自分にとっての理想のカレー像を持っているというもの。
うむ、人に歴史あるがごとく、カレーライスに歴史あり。 (ちなみにリーダー山田は絶賛カレーブーム中らしい。)
むかしの味
刻々と移ろう時代に流され、安さと早さを追求した食ばかりが消費されてしまいがちな現代。そこに待ったの声をあげているのが、作家でありながら美食家としても著名な池波正太郎。
本書の中で、著者は洋食屋「たいめいけん」のことをこう綴っています。
いい店といい味を残していくためには、客側の心の豊かさも試されてるということですね。押忍。
本書の中で、著者は洋食屋「たいめいけん」のことをこう綴っています。
「たいめいけん」の洋食には、よき時代の東京の、ゆたかな生活が温存されている。
物質のゆたかさではない。
そのころ東京に住んでいた人びとの、心の豊かさのことである。
いい店といい味を残していくためには、客側の心の豊かさも試されてるということですね。押忍。
むかしの味
- 著者
- 池波正太郎
- 出版社
- 新潮社
- 発行年
- 1984年
小説家・池波正太郎によるエッセイ集。人生の折々に出会った懐かしい味が残る店を訪ね、初めて食べた時の思い出と店の人たちの細かな心づかいを語る。
詩人の食卓
表題の通り、著者は詩人の高橋睦郎。
長年暮らした世田谷から逗子へ移た後、戸建ての家で家庭菜園を楽しみながら50歳を迎え、そしてときどき旅に出る。氏の人生を辿りながら進む本書は、食エッセイというよりまるで短編小説のような読み心地です。 とはいえ、途中で顔を出す食材や食卓についての描写は、読み手の五感をフルに刺激するほど存在感を放つものばかり。
文章から土と風の匂いがする。
長年暮らした世田谷から逗子へ移た後、戸建ての家で家庭菜園を楽しみながら50歳を迎え、そしてときどき旅に出る。氏の人生を辿りながら進む本書は、食エッセイというよりまるで短編小説のような読み心地です。 とはいえ、途中で顔を出す食材や食卓についての描写は、読み手の五感をフルに刺激するほど存在感を放つものばかり。
藁に通して干した寒干ダイコンは油揚げや身欠鰊と煮ると、吸い込んだ北の四季の風の匂いがすべて泌み出すようでー...
文章から土と風の匂いがする。
詩人の食卓
- 著者
- 高橋睦郎
- 出版社
- 平凡社
- 発行年
- 1995年
詩人・高橋睦郎とイラストレーター・金子國義による食エッセイ集。「食べると食べさせると」、「歌と肉片」などを掲載。
おかず咄
基本は丁寧なデスマス調にも関わらず、時にキッパリと言い切るその文章からは、牧羊子の意思の強さやさっぱりとした性格さえ感じられるんですよね。
細かいものも含めると実に40以上の章で構成されている本書は、著者の食に対する考え方や知識がぎっしり。
食や詩だけでなく、野草や庭木、観劇、旅行、古寺巡礼、お茶、スキー、スケートなどなど、数多くの趣味をもっていたというから、好奇心旺盛な姿勢そのままに、食というものにもまっすぐ向き合っていたんだろうな。
食や詩だけでなく、野草や庭木、観劇、旅行、古寺巡礼、お茶、スキー、スケートなどなど、数多くの趣味をもっていたというから、好奇心旺盛な姿勢そのままに、食というものにもまっすぐ向き合っていたんだろうな。
おかず咄
- 著者
- 牧羊子
- 出版社
- 文化出版局
- 発行年
- 1972年
詩人・高橋睦郎とイラストレーター・金子國義による食エッセイ集。「食べると食べさせると」、「歌と肉片」などを掲載。
食物漫遊記
著者は稀代の博覧強記として知られる種村季弘。というかこれ、食エッセイなんてふんわりした呼び方は似合わないかもしれません。
いつまでたってもたどり着けない焼き鳥屋のエピソードにはじまり、スケベな悪友たちとの滑稽譚など、そのひとつひとつが「ねぇ、ほんとに?」とツッコミたくなるようなものばかりなんです。なんだか良く出来た落語を聞いているみたいというか。(笑)
序章を読めばみなさんも著者に言ってやりたくなりますよ。「嘘ばっかり。」
いつまでたってもたどり着けない焼き鳥屋のエピソードにはじまり、スケベな悪友たちとの滑稽譚など、そのひとつひとつが「ねぇ、ほんとに?」とツッコミたくなるようなものばかりなんです。なんだか良く出来た落語を聞いているみたいというか。(笑)
序章を読めばみなさんも著者に言ってやりたくなりますよ。「嘘ばっかり。」
S/S/A/W Zakka
最後は「SPRING/SUMMER/AUTUMN/WINTER」略して「S/S/A/W」を主宰する料理家・たかはしよしこの雑貨コレクション本。こちらは食エッセイではありませんが、食卓を通して毎日を丁寧におくりたい思っている方には、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
美しい年輪に一生ものとの出会いを感じたという木のまな板、遊び心が散りばめられたチャーミングな器、非日常感を演出してくれるとっておきのグラス。 旅行や骨董市、リサイクルショップ、フリーマーケットなど、色んな場所から集まった食器たちはどれも表情豊かで、光る個性はまるで生きもののようです。
そんなたかはしよしこさんの食卓から伝わってくるのは、食べものや、ものづくりをしている人への感謝のきもち。
使うごとに、食べるごとに、「ありがとう」がこぼれる食卓。なんて素敵なんでしょう。
美しい年輪に一生ものとの出会いを感じたという木のまな板、遊び心が散りばめられたチャーミングな器、非日常感を演出してくれるとっておきのグラス。 旅行や骨董市、リサイクルショップ、フリーマーケットなど、色んな場所から集まった食器たちはどれも表情豊かで、光る個性はまるで生きもののようです。
そんなたかはしよしこさんの食卓から伝わってくるのは、食べものや、ものづくりをしている人への感謝のきもち。
使うごとに、食べるごとに、「ありがとう」がこぼれる食卓。なんて素敵なんでしょう。
S/S/A/W Zakka
- 著者
- 高橋睦郎
- 出版社
- 平凡社
- 発行年
- 1995年
フード・アトリエ、「S/S/A/W」を主宰する料理家、たかはしよしこの雑貨コレクション本。生活にとけ込む雑貨が彩り豊かに紙面に並ぶ。新刊。
食いしん坊万歳!