何十枚も重ねられた布の表情、修繕のためにチクチクと手縫いされた糸。今はデザインのためにほどこされる刺子も、保温と補強のために生み出された知恵の結晶。
貧しさと寒さに耐え、生きていくために生まれた手仕事は「BORO」と呼ばれ、世界中で注目を浴びています。本書は、青森の農村や山村で着られていた「BORO」を、愛をもって収集した田中忠三郎のコレクションを、小出由紀子と都築響一がまとめた一冊。
麻を育て布を織り衣服に仕立て、破けたり擦れたらつぎはぎや刺子をし、親から子へ受け継いでいく。やがてどうしても着られなくなったら米のとぎ汁に浸して縫い糸を引き抜き、擦り切れた別の衣服や布団に重ねたり、裂いて「裂き布」と呼ばれる布によみがえらせる。
最後は縄にして農作業のときに頭に巻き、そのあと端に火をつけ蚊除けにすれば、燃えて灰となり、麻はまた大地に還る。究極のエコロジー。
さらに女性たちは、その過程の中ででた小さな布切れを集め、風呂敷包みひとつになるくらい溜まったらそれだけもってお嫁に行ったそうです。
当時は生きるためにただひたすら手を動かしていたのかもしれないけれど、布切れ一枚、糸一本粗末にせず時間をかけ生み出された「BORO」は、貧しさと寒さに耐え生き抜いた人々の勲章のよう。
その美しさに魅了されるとともに、ものに溢れ、買っては捨てを繰り返し、消費することに慣れている現代のわたしたちの生活を、立ち止まって見直すきっかけにしたいのです。