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どうすればコピーライターになれる?土屋耕一にならう、変幻自在のコピーライティング術
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どうすればコピーライターになれる?土屋耕一にならう、変幻自在のコピーライティング術

山田です。

コピーライターって神ってますよね。少ない言葉で想像力を掻き立てて、読み手にアクションを起こさせちゃうんだから。
自分でもなんとなくそれっぽいものを作ることはできるけれど、月とスッポン、似て非なるもの。。頑張れてもブログのタイトルくらい。

いいタイトルやキャッチコピーを書くためには、日頃からの言葉遊びも必要。人の心をつかむ言葉を変幻自在に編み出すため、資生堂や伊勢丹などの広告を手がけた名コピーライター・土屋耕一の鍛錬術に学ぶとしましょう。



土屋耕一のガラクタ箱:回文作りで言葉を新しい視点から見る

土屋耕一といえば、上から読んでも下から読んでも同じ文章になる回文 が有名です。回文だけを収録した「軽い機微な子猫何匹いるか」という著書まで出しているほど。もちろんタイトルも回文。

回文を作ることで鍛えられるのは、言葉を新しい視点から見る力 。文章を下から読むことで、言葉を逆さまに見ることになりますし、単語を文字に解体することになるから、単語から意味も分離することができます。

氏の第一弾エッセイ集「土屋耕一のガラクタ箱」に収録された回文作品を見てみましょう。

copywriting24 初級編。回文を作りたい単語を決めたら、それを文字に解体して、逆さまにします。これだけでできちゃうものもあるんです。普段ほとんど言葉を逆さまに見ることがないので、ちょうどいい頭の体操に。
「大麻蒔いた」って。いけません!特に今年は(汗)!

copywriting22 名詞+動詞で作った中級編。難易度は上がりますが、文字数が増えれば情景描写もより鮮明に。
「酢豚つくりモリモリ食ったブス」って。クセがすごい。

copywriting23 土屋耕一クラスともなると、文章でも回文が作れちゃう。どうやら香港への新婚旅行に行っているみたいですね。
「髪」とか「見交わす」とかのあたりに妙な艶やかさも感じるなと思ったら、ちょうどお互い対になっている箇所。音の響きが持つ雰囲気が、ひっくり返しても変わらないようになっていますね。あっぱれ10枚くらい付けたい。

言葉を新しい視点から見ることができるようになったら、文章の結び方やボキャブラリーの引き出しがどんどん増えてきます

土屋耕一のガラクタ箱

土屋耕一のガラクタ箱

著者
土屋耕一
出版社
誠文堂新光社
発行年
1975年
土屋耕一のエッセイ集。時代の空気を巧みに表現してきた著者が、無駄のなく力強い言葉の極意を軽妙に解説する。装丁は浅葉克己。

土屋耕一の一口駄菓子:擬声語・擬態語で空気を読み伝える

コピーライティングは、短い言葉で伝えるぶん、シチュエーションを読み手に想像させなければいけません。最近のもので言えば、「全部、雪のせいだ。」とか、ゲレンデマジックで恋に落ちた女性のちょっと悔しがりながらもドキドキしている気持ちが見事に伝わってきますよね。

シチュエーションを伝える手段として、まず身につけたいのが擬声語・擬態語 。どういうことか、「土屋耕一の一口駄菓子」から抜粋してみますね。

「テクテク」
と書けば、これは、ひとが歩いていくときのさま、なのでしょうが。では、その「テクテク」を、ひとつ道路で歩いてみせろ、と言われても困ってしまうね。

(中略)「スタスタ」となると、いくらかこれは足早で。姿勢なども悪くない。周囲に対して、やや知らん顔という、そんな歩き方だ。似ているけれど「スタコラ」は、もっと早くて、いまにも走り出しそうで。方向としては、向こうの方へ去っていく感じ、かしらん。
これを「スタコラ、サッサ」などと使うときは、もう一目散に行ってしまう人なのですね。

「ズカズカ」は、入ってくる音。かなり無遠慮に、ドアなんかバタンと音を立てて、で、入ってくる。「ドカドカ」の方は、これは大勢だね。数人で、かたまって。
で、たとえば二階で大きな足音がするときは、これは「ドカドカ」ですね。「ズカズカ」ではおかしい。

「パタパタ」ってのは、宿屋のスリッパなんかで、リノリュームの廊下を歩くときの音。「ピタピタ」というのは、これは、ハダシの感じだなあ。(中略)これが「ヒタヒタ」になると、平家の大軍が押しよせてくるようなときに使うのであって。人間が歩くというよりは、集団が移動するわけですね、音もなく。

「ヨチヨチ」は赤ちゃん。
「トボトボ」は失意の人。
「パシュッ、パシュッ」は鉄腕アトム。
とまあ、いろいろですが。


歩き方一つをとっても、こんなに擬態語があるんですね。歩く人の足取りから、地面の質感、書き手との距離感まで4文字やそこらで伝わるのだから、擬態語選びは慎重じゃないといけない。しかも、「どんな人がどんな場所を〜」なんてバカていねいに書き起こしても、何の色気もないというか、説明的でつまらない文章になってしまうわけで。この言葉の余韻 こそが、言葉を仕事にする人の魅せどころということですね。

その他にも本書では、「鍋で食材を煮込む様子に『コトコト』と書く必要があるのか」とか、「『中華丼』って中華料理にもないし、『丼』というくせに皿で出てくることが多いのが不思議だ」とか、日々言葉にまつわる思案を綴っています。これがまた、全部おもしろくて。本当に言葉が好きなんだなと伝わってきます。

特筆すべきは、目の前で話しているような言葉づかい。お会いしたことはないけれど、話しているリズムまで伝わってきて、読んでいると引き込まれてしまいます。広告にもこの話し言葉を最初に使ったのは土屋耕一なんだとか。伊勢丹広告のキャッチコピー「あ、風が変わったみたい。」のように、「あ、」とか「ま、」とか、一文字の感嘆の「間」を入れるだけでシチュエーションや心情をさらに描き出すのだから、ニクい。

土屋耕一の一口駄菓子

土屋耕一の一口駄菓子

著者
土屋耕一
出版社
誠文堂新光社
発行年
1981年
土屋耕一のエッセイ集。回文や替え句、様々な擬声語、美しいことばなど、軽妙かつ洒脱な文章を紡いで来た著者による言葉遊びを多数掲載。
盟友・糸井重里のほぼ日ブックスから出版された2冊組のエッセイ集もおすすめです。編集は糸井重里と和田誠、函のイラストは矢吹申彦と豪華な布陣。

土屋耕一のエッセイ集。編集に糸井重里、和田誠を迎えた2巻セット。
土屋耕一のことばの遊び場。

地にはピース:土屋耕一の名作コピーたち

最後は、実際に土屋耕一が手がけた広告コピーをご紹介します。

和田誠のウィットに富んだイラストレーションが楽しい、たばこ「ピース」の広告。1枚1枚の画に土屋耕一がすべて同じ音数で、付けられたキャッチコピーを充てています。世間的にネガティヴイメージが付きまとう商品をも魅力的に見せる、名作コピーの数々。

copywriting17
我が胸はピースのごとく燃ゆるなり

タバコの燃える煙と恋に熱くなる胸をかけた一句。
煙でドーナツ作るおじさんはいるけど、ハートって作れるのかな。

copywriting16 こちらは塩とたばこの博物館で展示された作品の図録のため、当時のモノクロの広告と一緒に、展示に併せて和田誠が新たに制作したカラーヴァージョンのイラストも収録されています。どちらも可愛い。

copywriting19
自由の火は消えずピースのある限り

ピースがあれば、火を使う。だから自由の火は消えない、と。
自由の女神が持つ松明(たいまつ)でタバコに火をつけるグライダー。中学生の頃はソフトクリームだと思ってた。

copywriting18 個人的にタバコは嫌いなんですが、こうも可愛く描かれて、上手く言われると、「美味い」んじゃないかって思えてきちゃう……。す、吸わないんだから!!

地にはピース | 和田誠

地にはピース

著者
和田誠
出版社
たばこと塩の博物館
発行年
2012年
日本専売公社から販売されていたたばこ「ピース」の雑誌広告を、イラストレーターでデザイナーの和田誠が描いた広告作品集。毎回同じ字数で充てられたコピーは土屋耕一によるもの。
ダジャレとかひたすら言い続けるおじさんのこと、ちょっとうっとおしいと思っていたんですが、彼らも言葉の鍛錬をしていたのですね……!これからはありがたく拝聴することにいたします。

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1990年4月22日午年、金沢出身。ギリ平成生まれのデジタルネイティブ、nostos booksを拠点にしながらカレーを作り続けるフリーランス編集者。実は理工学系。2019年2月退社。