写真集は1人の写真家の作品をとことん集める派なのですが、最近、1つの被写体に絞ってさまざまな写真家の作品を観るのも楽しいことを知りました。
その被写体とはニューヨーク 。多くの人が行き交う、激動の街を捉えた写真家が数多くいるのです。これだけ多くの写真家に撮られた街も少ないのでは?人によってフォーカスする場所が違うところがまたおもしろい!ということで、ニューヨークを舞台にした名作ストリートフォトをいくつかご紹介します。
ソール・ライター「Early Black and White」
路上で見つけたさりげないロマンチック
2017年4月29日(祝)から6月25日(日)まで、Bunkamura ザ・ミュージアムで展覧会を開催中のソール・ライター。ドイツの出版社、シュタイデルから出版された「Early Black and White」では、1950年代のニューヨーク・イーストヴィレッジ周辺で撮影したストリートフォトを収録しています。
何を隠そう、イーストヴィレッジはライターが長年住んでいた街。ニューヨークにやってきてから亡くなるまで、約50年もの間、毎日散歩をしてはこの場所を撮っていたのだそう。
時にはふと見つけたすき間から覗くように、時には見下ろして街を俯瞰するように。人、場所、良い構図などイーストヴィレッジの好きなところを一つ知るたびに、それを記録しています。
こちらは「靴磨きの靴」というシリーズから。職人が履く靴はクタクタのボロボロなのですが、もしかすると彼らが磨いた靴よりもピカピカなんじゃないかと思うくらい、輝いて見えるんですよね。ファッションフォトの経験も生かされ、女性の足との対比も美しい1枚。ライターの切り取る一瞬には、さりげないロマンチックが漂っている。
キスのストリートフォトといえばローベル・ドアノーが有名ですが、ライターの場合は少し控えめ。それがまた粋なんだよなあ。
ライターは、シュタイデルから2006年に自身初のカラー写真集「Early Color」を出版しています。こちらも「Early Black and White」と同時期に撮影されたものが収録されているのですが、こうして本として世に出るまでには半世紀を要しました。そのいきさつは改めて書きますが、商業的と認識されていたカラー写真がニュー・カラー派の一人、ウィリアム・エグルストンによって芸術として認められる約30年前に、ライターは日々こんなに美しいカラー写真を撮っていたんです。
そしてもう一冊、自身初となる日本語写真集が2017年5月に発売となりました。展示会場では品切れになるほどの好評!展示を観に行ったけれど、そのときは売り切れて手に入らなかったという方は、オンラインストアや店頭で再入荷分の予約受注を実施中ですので、ぜひご利用ください。
何を隠そう、イーストヴィレッジはライターが長年住んでいた街。ニューヨークにやってきてから亡くなるまで、約50年もの間、毎日散歩をしてはこの場所を撮っていたのだそう。
時にはふと見つけたすき間から覗くように、時には見下ろして街を俯瞰するように。人、場所、良い構図などイーストヴィレッジの好きなところを一つ知るたびに、それを記録しています。
こちらは「靴磨きの靴」というシリーズから。職人が履く靴はクタクタのボロボロなのですが、もしかすると彼らが磨いた靴よりもピカピカなんじゃないかと思うくらい、輝いて見えるんですよね。ファッションフォトの経験も生かされ、女性の足との対比も美しい1枚。ライターの切り取る一瞬には、さりげないロマンチックが漂っている。
キスのストリートフォトといえばローベル・ドアノーが有名ですが、ライターの場合は少し控えめ。それがまた粋なんだよなあ。
Early Black and White
- 著者
- Saul Leiter
- 出版社
- Steidl
- 発行年
- 2015年
ソール・ライターのモノクロ写真集。自宅での友人のポートレートを収めた「インテリア」と路上で撮影した「エクステリア」の2冊組。
ジョエル・マイヤーウィッツ「Wild Flower」
都会に咲く花
ニュー・カラー派を代表する写真家の一人、ジョエル・マイヤーウィッツ。そのカラーに注目されることが多いのですが、瞬間の切り取り方も秀逸です。「Wild Flower」では、まばたきをするように撮りためてきたストリートスナップから、街の中に咲いている花を収めた写真をまとめています。
作品の舞台の多くはニューヨークの大通り。こちらの写真はイースター(復活祭)パレードで、花がモチーフの帽子を身に付けた女性を捉えています。なんだかちょっとうきうきした表情。
ブロードウェイを通り過ぎる車も見逃しません。車窓を覆うカーテンがボタニカル柄。
セント・パトリックスデーの風景。この日は、世界各国がアイルランドのカラーであるグリーンに染まるのだそう。この男性は明らかにお祭りに参加していなさそうですが、人気のない場所でグリーンの花を独り占めするように見入る姿に、かわいらしさを感じずにはいられません。ひっそりとした雰囲気に合わせて、ニューカラーの名手も色味を抑えているところがまたグッとくる。
屋根の上に咲く花。でも、日差しを避けようと庇の下を歩くおじさんが、その美しさを知ることはなさそうです。奥のおじさんもガラスで自分のことばっかり見てるし。ちなみに、右の女性のワンピースがお花柄。
冒頭の写真は、マンハッタンの四十二番街で花を抱えた男性。花に一切見向きもせず、痛そうにしかめっ面をしている女性が向こうから歩いてきます。あ、「花」と「鼻」、日本語ではうまいことシャレになってるのはわざとなんでしょうか?
「カオスの中に輝きを見つけるのがストリートスナップのおもしろさだ」と語るジョエル・マイヤーウィッツ。忙しく過ぎ去ってゆく時間や都会の喧騒の中にも、美しいものがあるんだと教えてくれます。
マイヤーウィッツの代表作と言えば、「Cape Light」。鮮やかなカラー写真なのに、ケープコッドの穏やかな空気感が伝わってくるから不思議。
作品の舞台の多くはニューヨークの大通り。こちらの写真はイースター(復活祭)パレードで、花がモチーフの帽子を身に付けた女性を捉えています。なんだかちょっとうきうきした表情。
ブロードウェイを通り過ぎる車も見逃しません。車窓を覆うカーテンがボタニカル柄。
セント・パトリックスデーの風景。この日は、世界各国がアイルランドのカラーであるグリーンに染まるのだそう。この男性は明らかにお祭りに参加していなさそうですが、人気のない場所でグリーンの花を独り占めするように見入る姿に、かわいらしさを感じずにはいられません。ひっそりとした雰囲気に合わせて、ニューカラーの名手も色味を抑えているところがまたグッとくる。
屋根の上に咲く花。でも、日差しを避けようと庇の下を歩くおじさんが、その美しさを知ることはなさそうです。奥のおじさんもガラスで自分のことばっかり見てるし。ちなみに、右の女性のワンピースがお花柄。
冒頭の写真は、マンハッタンの四十二番街で花を抱えた男性。花に一切見向きもせず、痛そうにしかめっ面をしている女性が向こうから歩いてきます。あ、「花」と「鼻」、日本語ではうまいことシャレになってるのはわざとなんでしょうか?
「カオスの中に輝きを見つけるのがストリートスナップのおもしろさだ」と語るジョエル・マイヤーウィッツ。忙しく過ぎ去ってゆく時間や都会の喧騒の中にも、美しいものがあるんだと教えてくれます。
Wild Flower
- 著者
- Joel Meyerowitz
- 出版社
- New York Graphic Society Books
- 発行年
- 1983年
ニューカラーを代表する写真家/ジョエル・マイヤーウィッツの写真集。自然の中で咲く花だけでなく、インテリアやファッション、入れ墨、装飾、プリントにいたるまで、世界各国で見かけた花のあるシーンを収録。
ウィリアム・クライン「New York」
激動していく街のスピード感
写真家以外にも、デザイナーや画家、映画監督と多彩な才能を持つウィリアム・クライン。写真にタブーとされていたブレやボケを大胆に取り入れ、写真表現の可能性を広げたとして、20世紀を代表する写真家の1人に挙げられます。そんな彼がニューヨークを撮った写真集は、その名も「Yew Nork 1954-1955」。マイヤーウィッツの写真から比べると、正直言って対象がわかりづらく、取り留めのない印象を受けます。
ストリートスナップの多くは、「何かを見つけて撮る」が多いと思うのですが、ひたすら無意識の中でシャッターを切り続けている感じ。「ニューヨークを撮っている 」のではなく、「ニューヨークで撮っている 」というか。この撮り方、日本では森山大道が近いんじゃないかと思います。
そうしてひたすら撮り続けるうちに、街の体質が写真家に憑依していく。では、クラインに憑依したのは何か?というと、激動のニューヨークを流れる空気の速さなんだと思います。ボケやブレ、フレームアウトといった動きのある作風は、奇を衒ったわけではなく、それが写り込んだ結果なんじゃないでしょうか。
突如、静寂を纏ったニューヨークの街が現れることも。静と動、お互いが際立つ編集もニクい。
少し汲み取りづらい写真だからこそ、何度も何度も見返したくなる。最初はどこがいいのだろうと思っていたのですが、スルメのように噛めば噛むほど素晴らしさがわかってきて、本として持っておきたい作品だなと思います。
拠点としていたパリでもストリートフォトを撮っています。さすがデザイナー、ブックデザインもかっこいいんですよね。
ストリートスナップの多くは、「何かを見つけて撮る」が多いと思うのですが、ひたすら無意識の中でシャッターを切り続けている感じ。「ニューヨークを撮っている 」のではなく、「ニューヨークで撮っている 」というか。この撮り方、日本では森山大道が近いんじゃないかと思います。
そうしてひたすら撮り続けるうちに、街の体質が写真家に憑依していく。では、クラインに憑依したのは何か?というと、激動のニューヨークを流れる空気の速さなんだと思います。ボケやブレ、フレームアウトといった動きのある作風は、奇を衒ったわけではなく、それが写り込んだ結果なんじゃないでしょうか。
突如、静寂を纏ったニューヨークの街が現れることも。静と動、お互いが際立つ編集もニクい。
少し汲み取りづらい写真だからこそ、何度も何度も見返したくなる。最初はどこがいいのだろうと思っていたのですが、スルメのように噛めば噛むほど素晴らしさがわかってきて、本として持っておきたい作品だなと思います。
Yew Nork, 1954-1955
- 著者
- William Klein
- 出版社
- Marval
- 発行年
- 1996年
ウィリアム・クラインの写真集。ブレる被写体、フレーム全体に広がる画面構成など、荒々しく成長する都市ニューヨークを独特のスタイルで記録した代表作。
主にフランスを活動拠点とするウィリアム・クラインが、パリでの政治運動、デモ、地下鉄、サッカースタジアム等々、初めてカメラを手にした1960年代から撮影してきたストリートスナップを多数収録。
ブルース・デヴィッドソン「Subway」
地下鉄に見る都会の闇
今でこそニューヨークの地下鉄はきれいになり、治安も良くなりましたが、1980年代は落書きだらけで、迷惑行為や犯罪が横行していました。そんな最も危険な時代の地下鉄の風景を撮ったのが、マグナム・フォトに所属するブルース・デヴィッドソンです。
日本では考えられない、グラフィティで埋め尽くされた車内の光景。ちなみに、この扉の奥に一人立ってます(幽霊じゃない)。
突然起こる乱闘。密室の中では、「自分は当事者じゃないから」なんて他人事にはできません。私はニューヨークに行ったことがないので、タイムズ・スクエアのような華やかなイメージばかり抱いていたのですが、この写真を見て衝撃を受けました。
赤ちゃんもマッツァオ。
おもむろに写真を撮っていたことを差し引いても、乗客たちの警戒心は異様。そんな緊張感や不穏な空気を表現するかのように、一般的に広告ポスターに使われるダイトランスファー法で過剰なほど鮮やかな発色にプリントされています。
日本では考えられない、グラフィティで埋め尽くされた車内の光景。ちなみに、この扉の奥に一人立ってます(幽霊じゃない)。
突然起こる乱闘。密室の中では、「自分は当事者じゃないから」なんて他人事にはできません。私はニューヨークに行ったことがないので、タイムズ・スクエアのような華やかなイメージばかり抱いていたのですが、この写真を見て衝撃を受けました。
赤ちゃんもマッツァオ。
おもむろに写真を撮っていたことを差し引いても、乗客たちの警戒心は異様。そんな緊張感や不穏な空気を表現するかのように、一般的に広告ポスターに使われるダイトランスファー法で過剰なほど鮮やかな発色にプリントされています。
Subway
- 著者
- Bruce Davidson
- 出版社
- St Anns
- 発行年
- 2003年
マグナム・フォトの一員でアメリカ出身の写真家、ブルース・デビッドソンの写真集。地下鉄のホームや階段、車窓、さまざまな人種や階級が入り乱れる乗客たちなど、1980年代のニューヨークの地下鉄の現状をありのままに写し出す。
ブーギー「It's All Good」
ニューヨークの裏側
ブーギーが撮ったのはニューヨークのブルックリン地区に住むギャングたち。ブルックリンというと、ストランド・ブックスなんかがあったりして最近は観光地として紹介されることも多いのですが、もともとは治安の悪いところ。
彼らが住む住宅街に潜り込めたものの、銃口を向けられることもしばしば。危険と隣り合わせだからこそ引き込まれるし、気を抜けない状況でもこのとんでもなくかっこいい写真を撮ってのける。カメラを通して対峙したときのブーギーの覚悟というか、妙な冷静さがうかがえます。
男たちの身体は傷だらけ。刃物がいつ出てきてもおかしくないような場所なんです。
ドラッグも蔓延しています。目の前で吸い始めたかと思ったら、一緒に吸うよう強要されることもあったとか。一つ言い方を間違えば命取りなのに、「ドラッグ うまい断り方」でググる暇もない。。
ドラッグ、そしてセックス。その果てに次々と生まれる新たな生命。小さな子どもたちもここにたくさん暮らしていますが、正直環境は良いとは言えません。今、私たちが生きている場所とは違う世界を写真が教えてくれます。
他にもニューヨークを拠点にしている写真家を知りたい方は、映画「フォトグラファーズ・イン・ニューヨーク」がオススメですよ。
彼らが住む住宅街に潜り込めたものの、銃口を向けられることもしばしば。危険と隣り合わせだからこそ引き込まれるし、気を抜けない状況でもこのとんでもなくかっこいい写真を撮ってのける。カメラを通して対峙したときのブーギーの覚悟というか、妙な冷静さがうかがえます。
男たちの身体は傷だらけ。刃物がいつ出てきてもおかしくないような場所なんです。
ドラッグも蔓延しています。目の前で吸い始めたかと思ったら、一緒に吸うよう強要されることもあったとか。一つ言い方を間違えば命取りなのに、「ドラッグ うまい断り方」でググる暇もない。。
ドラッグ、そしてセックス。その果てに次々と生まれる新たな生命。小さな子どもたちもここにたくさん暮らしていますが、正直環境は良いとは言えません。今、私たちが生きている場所とは違う世界を写真が教えてくれます。
It's All Good
- 著者
- Boogie
- 出版社
- powerHouse Books
- 発行年
- 2006年
ストリートフォトグラファー、ブギーの初写真集。ブルックリンの住民や、ギャング・麻薬密売人・麻薬中毒者等にもカメラを向け、ストリートのリアルを捉えている。
ブギーの写真集。拳銃を手にする子どもや道を塞ぐ警官の群れ、荒れた街並など、1994年以降に撮影されたブルックリンのストリートスナップを収録。
他にも写真家たちの個性が光るストリートフォトがたくさんありますので、ぜひ特集「路上の観察者たち」をご覧ください。