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荒野の視覚表現者、粟津潔の思考する力。
書いた人

荒野の視覚表現者、粟津潔の思考する力。

こんにちは、中野です。
粟津潔 といえば、初期のベン・シャーン調のイラストレーションや、指紋や地図を使ったポスター、色相関図のような手書きの縞模様など、今もなお強烈なインパクトを与え続けている、日本を代表するグラフィック・デザイナーの一人です。

そして同時に、デザインとは? というテーマを文章としても多く残している思考の人でもあります。僕自身も粟津潔の言葉には、何度も勇気をもらった経験があります。

本日はそんな粟津潔の残した足跡を辿る作品集、エッセイなどをご紹介します。



粟津潔作品集 第2巻 ポスター

粟津潔作品集 第2巻 ポスター

作品集 第2巻 ポスター

著者
粟津潔
出版社
講談社
発行年
1978年
戦後日本のグラフィックデザインを牽引したデザイナー/粟津潔の作品集。展覧会、演劇、文学座、そして映画、出版、カレンダーなど様々な目的のために制作されたポスター作品の数々を多数収録。
50〜70年代に手がけたポスターにフォーカスした、粟津潔のポスター作品集の第2巻。圧巻です。

初期のポスターは完全にベンシャーンの模倣といえるものも多いですが、そこから徐々に思考に基づく実験的手法を取り入れていきます。指紋や印鑑、活字の図像化、そして手書きの地図(地層?)。鮮やかな色を乗せる独特の手法は、本来図像が持っていた意味を一旦剥ぎ取り、見るものに委ねるという問題提起。

粟津潔は常に物事の見方を提示してくれます。


1960年代から70年代にかけて、商業演劇とは一線を画す実験的な舞台表現で時代の潮流を生み出した「アングラ演劇」。天井桟敷、状況劇場などの劇団の公演のためにデザイナーが腕を奮ったポスターのうち、傑作を100点選りすぐって掲載。
ジャパン・アヴァンギャルド
大判サイズで作品を見るならこちらもおすすめ。当時のデザイナーたちが腕を競ったポスターに圧倒されます。

造型思考ノート

造型思考ノート

造型思考ノート

著者
粟津潔
出版社
河出書房新社
発行年
1975年
グラフィックデザイナー・粟津潔著。白い紙、指紋、活字、書、亀、安陪定、映像論、分割...これら書物への観相を通して、作品誕生の瞬間を書き綴った造形思考ノート。
造形思考ノートというタイトルの通り、どこから読んでもグッときます。 僕も初めて読んだ時、冒頭の一文でもう心を掴まれました。

どこにも所属せず、定まった仕事もなく、自由にやっていくことはいいが、たえず不安である。
不安を打ち消そうとして、また表現することに向かう。

ビジュアル表現の参考に、ビジュアルを見るというのも大切ではありますが、粟津潔のような、デザインすることと同等の力をかけて文章を書き続けた人の言葉に触発されてみるのも良いのでは?

デザイン図絵

デザイン図絵

デザイン図絵

著者
粟津潔
出版社
田畑書店
発行年
1974年
2009年に逝去するまで数多くのグラフィックデザイン、イラスト、ブックデザイン等を世に生み出した粟津潔の1950年代~1970年までの仕事を纏めた作品集。デザインの再構築を目指す粟津潔の若き日の曼荼羅の世界。
粟津潔の1950年代~1970年までの仕事を纏めた作品集ですが、こちらもやはり惹かれるのは言葉。図版(作品)に本人の短い文章が一緒に掲載されています。

断っておくが、私は哲学者や学者ではない。つきつめて考えればデザインという技能を有する一介の賎民である。
広告はコピーから始まるかもしれませんが、デザインは思想から始まります 。」

かっこいい。。。

粟津潔のブック・デザイン

粟津潔のブック・デザイン

粟津潔のブック・デザイン

著者
粟津潔
出版社
河出書房新社
発行年
1986年
本シリーズの装丁を手がけた粟津潔がブック・デザインの技法を公開。カバー、箱、表紙、見返し、扉、本文組など分りやすく解説し、豊富なカラー図版、作例、そして新人へのアドバイスも収録。
どれもおすすめのアート・テクニック・ナウ シリーズですが、こちらはブックデザインを担当した粟津潔の装丁解説書。実際に使用した割付用紙を縮尺3分の2サイズで掲載し、このシリーズものの装丁の始まりから、懇切丁寧に解説してくれています。当時はまだ、PCではなく手作業ですが、心がまえや大切なポイントなどは、今でも十分に活用できるのではないでしょうか?

後半は装丁を手がけた書籍、雑誌などの紹介。どんな意図で装丁しているのか?という解説を読むだけでも大いに参考になると思います。

デザインになにができるか

デザインになにができるか

デザインになにができるか

著者
粟津潔
出版社
田畑書店
発行年
1975年
60年代、日本におけるグラフィック・デザイン激動の時代、研ぎ澄まされた感性と確固たる信念で書かれたデザイン論が多くの可能性を提示した歴史的一冊。
じっくり読みこんで欲しい一冊。後半の対談を読むと、学生と話しても谷川俊太郎と話しても一切ブレない。学生には質問者として、谷川俊太郎とは答える側として、軸がある人というのはこういうことなのか、と感心してしまいます。

この記事で今回僕がお伝えしたいのは、粟津潔の言葉の力。思考する力と言い換えても良いかもしれません。生み出されたグラフィック表現は特徴的で力強いインパクトを与えるものが多いですが、そこに至る経緯を是非感じ取って頂きたいと思います。デザイン以外にも必ずや有用なものであることを信じています。

粟津潔になりたい。

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ノストスブックス店主。歴史と古いモノ大好き。パンク大好き。羽良多平吉と上村一夫と赤瀬川原平と小村雪岱に憧れている。バンドやりたい。