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大人が楽しめる図鑑。想像力をかきたてる美しい博物誌
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大人が楽しめる図鑑。想像力をかきたてる美しい博物誌

こんにちは、石井です。

先日訪れた上野の国立科学博物館。こどもの頃から好きな場所でしたが、大人になっても楽しめる、いえ、むしろ大人の方が満喫できる素晴らしい展示内容。ちびっこにまぎれて科学のおさらいをするもよし、化石や鉱物を静かに愛でるもよし。昭和初期に建造された日本館の重厚な佇まいを眺めるだけでも、一日中飽きません。さらにミュージアムショップには魅力的な図鑑がたくさんありまして、目移りしてもう大変。もうここに住みたい。

ああ、ノストスブックスも図鑑を増やしたいなあと思いつつ、今回はクラシックな図版をふんだんに掲載しているものを中心に、大人もたのしめる図鑑または博物誌をまとめてみました。



史上最美の植物図鑑

フローラの神殿 新装版

フローラの神殿 新装版

著者
荒俣宏
出版社
リブロポート
発行年
1990年
イギリスの植物学者/ロバート・ジョン・ソーントンが制作したリンネ植物分類解説図集を、荒俣宏が編纂。ヨーロッパの博物図鑑愛好家のあいだで古くから「史上最美の一冊」と折り紙をつけられてきた名著の復刻版です。大判サイズで美しい装丁がとても贅沢な、絵で見る植物図鑑!

フローラの神殿 新装版 フローラの神殿 新装版 フローラの神殿 新装版 学術の域を超えたロマンティックで艶やかな花達が、鮮やかに紙面を飾っています。

天文学者ヨハネス・へべリウスからの贈りもの

ヘベリウス星座図絵

ヘベリウス星座図絵

出版社
地人書館
発行年
1993年
月の地形学の父として知られるポーランドの天文学者、ヨハネス・へべリウスの星座図絵。巻頭と巻末では、近代ヨーロッパ天文学に足跡を残したヘベリウスと、サマルカンド(現タシュケント)の天文学者ウルグ・ベグの業績を照らし合わせながら解説。ページいっぱいに印刷された56点の美しい星座図が目をたのしませてくれます。

ヘベリウス星座図絵 ヘベリウス星座図絵 ヘベリウス星座図絵 画像は日本の春の夜空で観察できるおとめ座、おおぐま座、からす座。
星が見える夜は探してみてはいかがでしょう。

ヘベリウス星座図絵 こちらは北天図。それぞれの星座にまつわるストーリーも知りたくなりますね。個人的にはろくぶんぎ座、みなみのさんかく座、コンパス座などお道具系の星座がお気に入りです。

近代西洋版画を読み解く

図像観光

図像観光

著者
荒俣宏
出版社
朝日新聞社
発行年
1987年
こちらは近世ヨーロッパでさかんに制作された版画を、マスメディア的な観点から紹介した図像集。博物図鑑、寓話の挿絵、風景、人物、幻想画、記録図、解剖図の7篇にわけ、カラー図板をはさみながら丁寧な解説が添えられています。くわえて巻末には版画の種類や彩色方法、入手方法などのガイドが掲載されており、技術的な側面でも参考になる1冊。

図像観光 図像観光 図像観光 図像観光

小さきものたちへの讃歌

博物誌 虫

博物誌 虫

著者
ジュール・ミシュレ
出版社
思潮社
発行年
1970年

場面の転換は完了した。
乾からびてちぢむ灰色または黒っぽいミイラから、
新しい生物、復活者、不死鳥がぬけ出して、
若々しさに光りかがやくのが見られる。


文学作品のように思えますが、こちらはなんと蝶が蛹から羽化する瞬間の描写。フランスの歴史家/ジュール・ミシュレによる博物誌は学問よりも心情に寄せた、戯曲のようなドラマチックな言い回しが印象的。挿絵はなくとも、叙情感あふれる文章と繊細な描写が想像力をふくらませてくれます。 加えて、画家・加納光於による装丁もすてき。姉妹編として「博物誌 鳥」も出版されています。合わせてどうぞ。

ホルヘ・ルイス・ボルヘス:奇怪で不思議ないきもの辞典

幻獣辞典

幻獣辞典

著者
ホルヘ・ルイス・ボルヘス
出版社
晶文社
発行年
1986年
ホルヘ・ルイス・ボルヘスといえば幻想的な文学作品が思い浮かびますが、こんな異色の著作も。ケンタウロス、一角獣、チェシャ猫など、人類が創造した東西古今の120の空想上の生物をあつめて解説した辞典です。楽しく読める1冊。

あとがきに代えて、最後の”怪物”として紹介されているのがボルヘス本人。本書を手にとったなら、翻訳者の柳瀬尚紀によるこの洒落の効いたエンドロールまでぜひ目を通してみてください。
クリアでリアルな写真でみる昨今の図鑑も魅力的ですが、写真が生まれる以前の版画を使用した図鑑や博物誌は想像力をより強くかきたててくれます。様々に解釈できる余白が残されているからでしょうか。学問的な体系に沿っていてもいなくても、博覧強記の解説陣の知識に触れつつ視覚的にも楽しめるなんて、図鑑ってほんとうに贅沢。

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ブックディレクター。古本の仕入れ、選書、デザイン、コーディング、コラージュ、裏側でいろいろやるひと。体力がない。最近はキュー◯ーコーワゴールドによって生かされている。ヒップホップ、電子音楽、SF映画、杉浦康平のデザイン、モダニズム建築、歌川国芳の絵など、古さと新しさが混ざりあったものが好き。