本書はアレクセイ・ブロドヴィッチが手がけたハーパース・バザー誌におけるデザインワークを中心に編纂された作品集です。躍動感あふれるページ構成は今でも非常に新鮮な驚きを与えてくれます。
当時はスタジオで撮影された写真と単調な構成が主流だった雑誌のレイアウト。ブロドヴィッチは1934年にハーパース・バザー誌のアートディレクターに就任したのち、今までの雑誌におけるレイアウトの概念を革新的に変えていきます。最も大きな功績と言えるのが、写真をダイナミックに使用したエディトリアルデザイン。フォトモンタージュやソラリゼーションなどの実験的な撮影技巧も積極的に取り入れ、トリミングや合成を駆使し、いくつも魅力的な紙面を作り上げてきました。
表現の開拓者として戦後のファッション誌を牽引したブロドヴィッチ。マン・レイやハーバート・マターの写真では女性モデルのリップ、ネイルなどにワンポイントで色を使い、さりげない色気を演出。モデルが身につけているドレスのシルエットに合わせたテキストレイアウトは、息をのむ美しさ。足などのボディラインも、見事にレイアウトの軸に組み込んでしまいました。リチャード・アヴェドンの撮影したモデルはステップを踏み、紙面の奥からこちらへ歩み寄ってくるような映像的な演出がされています。
本書はジャケットデザイン、誌面構成の他、レイアウトカンプなども掲載されており、制作過程を垣間見ることのできる資料としても価値があるのではないでしょうか。ブロドヴィッチの包括的な作品集はPhaidon社からも発行されていますが、こちらのAssouline社版は実寸に近い大判サイズで鑑賞できるのが魅力です。
ハーパース・バザーを離れたのちも、ブロドヴィッチの活動は広がっていきます。主宰のワークショップ「デザイン・ラボラトリー」はアーヴィング・ペン、ロバート・フランク、アーノルド・ニューマン、ダイアン・アーバスなど次世代を担う写真家を多数輩出します。さらにはアンドレ・ケルテスの「Day of Paris」、アヴェドンの「Observations」をはじめとする写真集のプロデュース、グラフィックデザイン誌「Portfolio」の発行など、その功績は今でも随所で見ることができます。