普段身の回りにあるモノのなかで、それらが作られた由来や歴史を知っているというものが、どれだけあるでしょう。実はそうした当たり前の風景として見過ごされているもののなかにこそ、その国らしさや、人の暮らしが色濃く表われてたりするのかもしれません。
『Sar: The Essence of Indian Design』は、そんなインドの日常風景のなかに根付いた様々なプロダクトを、豊富な写真とテキストで紹介したもの。ブロックプリントの木型、シルバーのバングル、パニプリのカート、竹のスツールがインド人の生活にどのように溶け込んでいるかを明らかにすることは、すべてのモノに起源、物語、意味があるということを理解することにも繋がるのです。
美しい写真群は、「派手」「カオス」「民族的」といった、外からみた"THE インド"的イメージを敢えて潔く切り離し、プロダクトの存在感や、かたち、美しさそのものにフォーカスが当てられるような手法を取っています。
またそれらは、「Vishwas(信仰)」「Khaana Peena(飲食)」「Pehenna(身につける)」など著者独自の視点でカテゴライズされ、プロダクトが普段どのようなシチュエーションで用いられるのかがイメージできるようになっています。固定概念を取り払った状態で、読者がインドという国を改めて捉え直すことができるようとても配慮した内容になっているのです。
ムガル帝国から、イギリスによる統治を経て、現在のグローバル化した国家に至るまで、めまぐるしい変遷を遂げてきたインド。インドの新しい顔を見ることができる、というより、先入観を取り除いた本来のインドの姿が見えてくるかもしれません。