素晴らしい一冊に出会ったとき、「これはあのひとにぜひ一度見てもらいたい!」と誰かを思いかべることがありますが、こんなにも沢山ひとの顔が浮かぶ本というのもなかなか珍しいです。
テキスタイルを愛する人、本を通して広い世界を旅したいひと、そしてなにより、ひとと自然がよりよく生きるうえでなにができるかを考えたことのあるひとに、ぜひ本書を手にとっていただきたい。
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衣服産業のデザイナーとして長年ファッション業界に身を置いていたブージタ・デ・ヴォスは、流行やモノが消費されていく早さを目の当たりにし、やがて世界を巡る旅に出ます。
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そこで出会ったのはインドのルンギ、チベットのKHATA、金色を生み出す染色ターメリックなど、自然からの贈り物ともいえる伝統的織物の数々。そして植え付け、紡績、織り、編み物、刺繍、草木染め、絞り染めといった、人々が時間をかけて育んだ手工業による服飾文化。
それらの美しさの前では流行り廃りなどという概念は意味をなさず、自然から人へ、そして人から人へ永遠に変わることのない価値が受け渡されていくのです。
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始まっては終わり、また次の何かが始まるころには、これまでの過程がまるで無かったことのように忘れ去られる。そんな世の中では、モノだけでなく、わたしたちの人生という時間も簡単に消費されていくのでしょう。
わたしたちが大切なものを見落とさないように。そして、人生という限りある時間にもっと目を向けられるように。表紙に縫われたリネンには、そんな想いが込められている気がします。