ピーター・ブラッティンガは何者か。広告デザインや書体デザインにとどまらず、書籍、ディスプレイ、展示、パッケージなど多岐にわたる分野で活躍してきた氏は、自らを好んで"ヴィジュアル・コミュニケーション・スペシャリスト"と称していたそうです。
オランダでオフセット印刷の普及が進んだ第二次世界大戦後、早くて安い印刷方法が浸透する中で、高品質であることにより重点を置いていた印刷会社、デ・ヨング社。そんな父の会社にピーター・ブラッティンガが入社したのは1951年のこと。

デ・ヨング社の美術展ポスターは当時すべてブラッティンガがデザインしていたそうで、15個の四角形を用いた特徴的なグリットデザインや、スイス・スタイルを基礎としたタイポグラフィなどが有名ですが、デ・ヨング社という企業をどうイメージ付け、どんなスタイルを確立しようとしていたかという点に注目してみても、ブラッティンガという人物はとても興味深い。

たとえば、自身がデザイナーとして活動するだけでなく、企業とデザイナーや画家をつなげる仲介者的な役割を果たしていたこと。作り手側の立場になってデザイナーの意向をわかりやすく印刷工に伝えながら、かつ社内の人間として印刷工から出た技術的アドバイスをデザイナーへ行うことができたんですね。
また、自社の食堂をつかって社員向けの美術展を開催し、いつも会社を支えてくれるスタッフたちに芸術に触れる機会を還元しようとしたこと。評判を呼びすぐに一般公開されることとなりましたが、もともとは一番身近な社員への感謝からくるものだったと思うと、氏の築いた功績は豊かな人間性のたまものだなと思います。

ちなみに本体は英語・オランダ語表記ですが、日本語訳の別冊がつくのでご安心を。デザインの参考だけでなく、伝記を読むような気持ちでぜひ楽しんでください。