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アヴァンギャルド芸術の実験場。ディアギレフが築いたバレエ・リュスの時代
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アヴァンギャルド芸術の実験場。ディアギレフが築いたバレエ・リュスの時代

ディアギレフのバレエ・リュス展 1909-1929 舞台美術の革命とパリの前衛芸術家たち

いま「どこでも好きな時代へタイムスリップさせてあげる」と言われたら、バレエ・リュスのある1920年代のパリに降り立ってみたい。

天才プロデューサー、セルゲイ・ディアギレフによって設立されたバレエ団「バレエ・リュス」。20世紀の歴史的大事件として世界中に衝撃を与え、今日のモダンバレエの基礎となりました。バレエ・リュスがそれほどまでに注目されたのには、激動の時代背景と、携わった音楽家や芸術家たちの豪華さにも理由があります。

バレエ・リュスが活躍した20世紀初頭というのは、キュビズムやシュルレアリスム、ダダイズムといった新たな美術が最盛期を迎え、さらにドイツではバウハウスが設立、ロシアではロシア・アヴァンギャルド運動が勃発した時代。

そうした時代のなかで舞踊、美術、音楽をバレエの重要な三要素として考え、新鋭の作曲家や、ピカソやエルンストなど名だたる芸術家たちを巻き込んだディアギレフは、バレエを最先端の総合芸術に押し上げるにいたったのです。

本書のすばらしさは、図版の豊富さや解説の丁寧など多数ありますが、特に演目紹介頁はファンの方にはたまらないはず。
それぞれの作品紹介には、初演日程をはじめ、音楽や指揮、振り付け、美術、衣装、台本にだれが携わったのか、そして誰が出演したのかが細かく記載されているのです。衣装デザインにマティス、台本はジャン・コクトー…あぁ調べる手が止まらない。

タイムスリップは叶わないけれど、舞台の上で踊る出演者たちの躍動感、興奮に渦巻く熱気、観客の熱狂、その全てを紙の上で体験できる。コレクションとしても資料としても素晴らしい一冊です。

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ノストスブックス店長。前職では某テーマパークのお姉さんや、不動産会社の営業をしていました。小説とクラシックなものが好き。一緒に、好きだと思えるものを沢山見つけましょう。