「本屋で働いてきてよかったなぁ」と思ったことは何度もあるけれど、この世界にたった30部しかない本と出会えたこと、これにはもう嬉しいを通り越して感謝の気持ちが湧き上がってきました。
もちろん発行部数で本の価値は決まらない。けれど、ものづくりや本を愛する人々が力と想いを注ぎ、やっと絞りだした結晶のような30冊のうちの1冊。愛せないわけがありません。
松本民芸家具の創始者・池田三四郎が語るのは、会社の歴史や、商品の生産方法、池田三四郎の運命を決定づけたともいえる柳宗悦との出会い、そして安川慶一との木工談義など、まさに温故知新・和魂洋才の精神をかたちにしたもの。
日本の民芸や手工芸の未来を明日へと繋げていく、そんな強い意思が込められた本書からは、家具メーカーという枠の中で少ないパイを奪い合う考え方などではなく、日本のものづくりの本当の意味での発展を願った、深い愛情を感じます。
そして芹沢銈介が手掛けた見事な装丁も触れずにはおけません。
きっと前の所有者の方は大切にされていたんでしょう。重厚な木箱の爪をカチッと開けば、ふわりと漂う和紙の香り。表紙の革はツヤツヤで、天の金も美しいまま。
箱の中に添えられた、”時々取り出して、表紙の革と箱をお拭き下さると、一層美しい本になります。”のことばを見て、読者には本のつくり手たちの思いがまっすぐに届けられているのを嬉しく感じました。
次にこの本を手に取られる方にも、そんな幸せな気持ちも一緒に受け取っていただけますように。