歴史の中で知る昔の日本人は使命感というものに突き動かされている。
自分のおかれている現状を冷静に見つめ、来たるべき未来のために己を捧げる。
井上嘉瑞という人もまたしかり。
日本の欧文印刷における技術と知識を西洋並みに押し上げることに尽力した人物である。
日本郵船のサラリーマンでありながら、とある印刷雑誌に「田舎臭い日本の欧文印刷」という記事を投稿するほどに、当時の印刷業界に失望と危機感を持っていた。昭和11年という時代背景から考えても欧文印刷に対する意識の高さは異端だったはずだ。
そして批判のみで終わらず、自ら活字を買い集め、手を動かし、ディスカッションを重ね、自らの身体に染み込ませるように知識と技術を積み重ねていった。その過程は本書の膨大な習作に見ることが出来る。
「タイポグラフィは芸術でも、学問でもありません。」
この小さな3冊セット、ぜひ偉人伝のごとく読んで頂きたい。