そこに人はほとんど写っていないのに、さっきまで立ち話していたであろう女性や、もうすぐ帰ってくるであろう子どもたちの姿を想像することができます。
高梨豊の『町』が発行されたのは昭和52年。家庭用食器乾燥機が発売され、白黒テレビ放送が廃止された年。まだまだ人々の生活はつつましく、個人商店が店先に商品を並べて商売をしていた下町の風景がそこにあります。

開け放たれた玄関の扉や堂々と干された洗濯物、脱いだ形のままのツッカケからは、無防備さと生活感が漂っています。わたしはその時代を生きていないけど、現代のように家の内と外という区切りがはっきりしていなくて、町全体が家のようだったんだろうなぁ。

広告写真を経て、都市へと視点を向けた作品を生み出した高梨豊。4×5大型カメラをかついで撮影された、大判写真の迫力をぜひ味わってください。池波正太郎の解説もしみじみきますよ。