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世界はゲゲゲ!水木しげるの妖怪ワールドへようこそ
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世界はゲゲゲ!水木しげるの妖怪ワールドへようこそ

こんにちは!なつきです。

今日ご紹介するのは、2015年の11月、93歳で惜しまれながらこの世を去った水木しげる氏。

水木しげるといえば、言わずと知れた妖怪漫画の第一人者。その功績から、幼少期を過ごした境港市には水木しげるロードが建設され、さらに妻である武良布枝が綴った自伝エッセイ「ゲゲゲの女房」は、2010度のNHKの連続テレビ小説として放送されるなど、一大ブームを巻き起こしたことは記憶に新しいですよね。
私も小さい頃は「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメを見て育ちました。不気味なんだけど、個性豊かでどこか愛らしい妖怪たち。そして作者である水木茂るについても、あのつかみ所がないひょうひょうとしたキャラクターに、「まるで妖怪の世界から来たみたいだ……」と子供心ながらに思っていたものです(笑)。

今日は水木しげるの代表作品をご紹介しながら、その波瀾万丈な人生を辿ってみたいと思います。

マイペースは幼少時代から:「オレはほんまにアホやろか」

水木しげること武良茂(むらしげる)氏は、大阪で生まれ、鳥取県境港市で育ちました。3人兄弟の次男坊だった水木少年は、幼い頃から"超"がつくほどマイペース。遅刻は当たり前、授業は寝てばかり、そのうえガキ大将でいつもケンカに明け暮れていたというから、もう何をしに学校へ通っていたのか分かりません。

ガキ大将の仕事でいそがしかったから、勉強はやるひまがなかった。それに、奇妙な愛きょうも手伝って先生は、あれは特別だからと、おかしなソンケイまでされるようになった。それで、ますます勉強しなくなった。

完全に開き直ってます。遅刻してるのに山盛りをおねだりしてるところが可愛すぎる。

学校を卒業してからは大阪へ働きに出るものの、マイペースさが裏目に出てすぐにクビになってしまいます。再就職するも、またすぐにクビに。「仕事がダメなら、せめて絵の勉強を」と美術学校に入学したものの中退し、その後も受験、失敗、中退を繰り返した結果、最終学歴は結局高等小学校卒でした。全然反省してない(笑)!

普通であれば心が折れてもおかしくないそんな状況を、持ち前のマイペースさと楽観的な性格で何度も切り抜けてきた水木しげるですが、21歳以降に体験した戦争が心に大きな影を落とすようになります。


「何だ、お前、生きとったんか。本部の方へは先発隊は全員宣戦死と報告しといたんだが」

命からがら生き延びても、上官からはこんな信じられない言葉を放たれてしまいます。さらに悪夢は続き、ニューブリテン島でマラリアを発症して療養中、爆撃に遭い左手を失ってしまいます。

しかし、そんな過酷な状況の中で救いとなったのが、戦場の村の原住民・トライ族との出会い。


自然とともに生き、どこまでも心が豊かな村人たちとの温かな交流によって、水木しげるは改めて人間としての生き方がどうあるべきかを思い出していきました。

この奇跡のような出会いがなかったら、たとえ無事に生還できたとしても、水木しげるの心は完全に戦争の闇に呑まれてしまっていたんじゃないかな。あの伸び伸びとしたユーモア溢れる作品も、そこに登場するキャラクターたちも、生まれていなかったかもしれません。

ゲゲゲの鬼太郎の誕生

終戦後に帰国してからも、絵への憧れを捨てきれなかった水木しげるは、生活のために紙芝居作家をはじめます。しかし、これがなかなか芽が出ない。1958年に貸本漫画「ロケットマン」で漫画家としてデビューを果たすものの、依然として生活は苦しいままでした。

出版社からの報酬も滞りがちで、催促と掲載交渉の日々。この頃、後の「ゲゲゲの鬼太郎」のもととなる「墓場の鬼太郎」も誕生しますが、こちらも最初は全くヒットしません。ついに連載もなくなりかけたとき、ある一人の熱烈なファンから手紙が届きます。

『妖奇伝』にのっていた『鬼太郎』はものすごくおもしろいから、なんとかして続きをだしてくれ、という内容なのだ。この手紙のおかげで、『墓場の鬼太郎』の続きをかかしてもらうことになった。その手紙がなかったら、今の鬼太郎はなかったかもしれない。

この一通がなかったら、あの名作が生まれていなかったなんて!手紙を出してくださった方に感謝しなくては。

転機が訪れたのは1964年。漫画雑誌「ガロ」が刊行されると、商業誌で初めて漫画を掲載することになります。するとそれを見た「週刊少年マガジン」から声がかかり、今度は「テレビくん」という作品を発表することに。1965年、なんとこの「テレビくん」が講談社児童まんが賞を受賞。これを機に鬼太郎シリーズの連載も軌道に乗り、水木しげるは45歳にして、ついに人気作家の仲間入りを果たしたのです。な、長かった……。

ちなみに、「ゲゲゲの鬼太郎」というタイトルはアニメ化に伴い改題されたもの。では、そのなかから、いくつかキャラクターを紹介します。
まずは、主人公の鬼太郎から。

妖怪画談」より

鬼太郎

生まれは墓場。眼球に足が生えた父親、「目玉おやじ」に指導され、良き妖怪として育てられます。学生服の上には幽霊族の毛でできたチャンチャンコを着ていて、こちらは戦いの際には武器としても活躍。鬼太郎自身もさまざまな特技を持っていて、髪の毛針を飛ばせたり、自家発電ができたり、胃の中でヘビも飼えるとか。その特技必要?!


一反木綿

空を飛ぶ布の妖怪ですが、見た目は完全に風に飛ばされた洗濯物。戦いでは敵の顔や首に巻き付いて息の根を止めたり、鬼太郎を乗せて空中戦の手助けをしたりして活躍します。また、布ではあるものの、刃物で斬りつけられると血が出るという説も。「水木しげるの 続 妖怪事典」によると、鹿児島の妖怪だそう。


砂かけ婆

アニメでは、ちょっと怒りっぽくてよくしゃべる印象がありますが、「水木しげるの 妖怪事典」によると普段は人の前に姿を現すことはないそう。神社の近くにあるさびしい森陰などに潜んでいて、人が通ると突然ばらばらと砂をかけて脅かす……怖すぎ。こちらは奈良県の妖怪。


オレはほんまにアホやろか」では、水木しげるの幼少期から、苦しい戦争体験、そして鬼太郎シリーズを生み出すまでのストーリーを辿ることができます。人気漫画が日の目を見るまでに水木しげるが辿った怒濤の歴史を、ぜひ知っていただきたい。

ほんまにオレはアホやろか

著者
水木しげる
出版社
ポプラ社
出版年
2010年
漫画家、水木しげるの自伝的エッセイ集。戦後の混乱期を生き抜いた水木しげるが、名作「ゲゲゲの鬼太郎」を生み出すまでのおもしろ人生体験記。
水木しげるが、世界に伝わる妖怪を紹介。各種族によって名称が異なるものの、全世界には同じような妖怪が千ほど存在するという「妖怪千体説」を唱え、ユニークで少し不気味な世界の妖怪の姿を描く。

貸本時代の代表作「悪魔くん」

水木しげるの代表作といえば、貸本時代の「悪魔くん」もそのひとつ。"貸本"とは、出版物が高価だった時代に貸し出し用で制作されていた書籍・雑誌のことです。
物語は、1万年に1人の天才児・悪魔くんが、全人類が幸せに生きられる世界を築くためにサタンと闘っていくというもの。

年齢的には小学2年生ながら、アリストテレスの研究をしている悪魔くん。大人も手に余るほどの天才ぶりです。

全人類の幸せのためには悪魔の力が必要だと考える彼は、ファウスト博士の力を借りながら悪魔召還へ向け奮闘します。ちなみにこのファウスト博士、悪魔くんのような神童を待ち続けてたら400年も生きちゃったらしい。執念がすごい。

人類幸福への道がどうなったのかはぜひ漫画を読んでいただきたいのですが、登場人物たちが織り成す人間模様にも注目です。味方のフリをする裏切り者や、サタンに騙されていく大人など、人間の汚さも垣間見えるから結構大人向けな漫画だったんですね。

こちらの「悪魔くん」は、3冊揃の限定BOX。別冊付録漫画の「うじ虫」や、小冊子「悪魔くん 単行本資料集」付きです。

悪魔くん 貸本版

著者
水木しげる
出版社
小学館クリエイティブ
発行年
2010年
水木しげるの代表作の一つとして知られる漫画。小学館クリエイティブによる復刻版で、3冊揃の限定BOX。別冊付録漫画「うじ虫」、小冊子「悪魔くん 単行本資料集」、悪魔くんイラスト付。
こちらは北冬書房より復刻された800部限定版

水木しげるの代表作の一つとして知られる漫画。人類が平等に幸せな生活ができる理想社会「千年王国」の樹立を目指す悪魔くんが現代社会に戦いを挑む。北冬書房より復刻された800部限定発行。著者サイン入。

ガロ時代の作品を楽しむなら「水木しげる作品集」

ガロ時代の水木しげるの作品を楽しむなら、「水木しげる作品集」がおすすめです。「ゲゲゲの鬼太郎」でおなじみのねずみ男がたくさん登場します。

「幸福の甘き香り」より
「幸福の甘き香り」では、忍者、役人、事業家たちがそれぞれ幸せを求めて試行錯誤するのですが、みんな結局幸せを感じられないというもの。人はどうしたら幸せになれるのか?これは人間の永遠のテーマですね。

「戦争と平和」より
「戦争と平和」は、子どもだけの村で起こった戦争のお話。子どもを主役にしたユーモア溢れる展開ではありますが、これが実際に国同士で起こった戦争だったらどうだっただろうと考えさせられます。過酷な戦争体験をしたからこそ描くことができたお話だと思います。

水木しげる作品集

著者
水木しげる
出版社
青林堂
発行年
1969年
水木しげるの作品集。「不老不死の術」「イボ」「勲章」など主に「ガロ」で掲載されていた漫画作品とともに、巻末には書き下ろしの回想記「終戦後」を併せて収録。
こちらは水木しげるが古典文学「雨月物語」に挿画を付けた作品。

漫画家、水木しげるが日本の古典に挑む。中学時代に上田秋成著の本書を読んで感銘を受けた著者が、自らの絵を加え編集。

水木しげる漫画のルーツ「のんのんばあとオレ」

こうして妖怪漫画の旗手となった水木しげるですが、実はその基礎をつくった存在がいました。それは、水木家にお手伝いに来ていた「のんのんばあ」です。水木しげるの少年時代とのんのんばあとの思い出を綴った漫画「のんのんばあとオレ」は、2007年フランス・アングレーム国際マンガ賞で、日本人初となるグランプリを受賞するという快挙を達成しました。

前述の通り、幼い頃からマイペースで、学校へ行ってもケンカばかりのガキ大将だった水木少年。そんな氏に妖怪の世界を教えてくれたのが、のんのんばあでした。時にはケンカ相手から逃げて来た水木少年をかくまってくれることも。水木少年を「しげーさん」と呼び、大事な場面ではいつも相談相手となって導いてくれる、優しいおばあちゃんです。


都合のいいときだけ神頼みをすると鳥居から落ちてくる「おとろし」。暗い森の中、下駄の音を鳴らして後ろをついてくる「べとべとさん」。

のんのんばあが教えてくれる、ちょっと不気味でゾクゾクする妖怪の世界。しかしそれらは決して、水木少年を怖がらせようと思っているのではありません。のんのんばあが水木少年に伝えたかったことはきっと、「この世界には不思議なことがいっぱいあって、自分の目に見えているものだけが真実ではないんだよ」ということ。

そんなある日、のんのんばあのもとへ病気を抱えた少女、千草が療養のためにやってきます。

のんのんばあは、重い病を抱え死への恐怖に怯える千草にも、目に見える世界とは違うもうひとつの世界、「十年億土」の話を聞かせました。それによって、千草の中にあった死に対する考え方が形を変えていきます。

そして水木少年も、家族や友人、そして妖怪達との関わり合いの中で、次第に人の悲しみや優しさにも気付くことができる人間へと成長していきます。

妖怪「あずきあらい」に、千草の病気が治るようお願いする水木少年。自分の目には見えない世界を見るいうことは、自分以外の人の気持ちを想像することにも繋がっているんですね。

病気の千草のために、水木少年は「十年億土」の物語を描いて千草を励まします。水木少年が描いた「十年億土」の世界を、夢の中で千草と一緒に旅をするシーンは、思い出しただけでも涙が……。

千草が去ってしまい悲しみに暮れる水木少年に、のんのんばあはこう話して聞かせます。

身体は物を食うて大きくなるけど 人の心はなあ いろんな魂が宿るけん 成長するんだよ
そげん さまざまな魂が宿ったけん しげーさんはここまで成長したんですなあ

千草の魂が自分のなかにも宿っていることを知り、また一歩大きく成長していく水木少年。
自分の目には見えない世界を想像することの大切さ。そして、こんな生きにくい世の中でも、見方を変えれば自分次第で面白い世界に変えていけることを、妖怪やあの世のお話を用いながらのんのんばあが優しく教えてくれます。

のんのんばあとオレ

著者
水木しげる
出版社
角川書店
発行年
2007年
水木しげるの自伝的漫画。受賞記念として、フランス版の装丁と構成で3000部の日本限定販売。シリアルナンバー入り。
こちらはエッセイ版。

水木しげるによるエッセイ集。日々を楽しみ、味わい尽くした少年時代が鮮やかに蘇る。

水木しげるの不思議旅行:水木しげるワールドへようこそ

幼い頃から妖怪に親しみ、大人になってもなお仕事として妖怪の世界と関わり続けた水木しげるならではの、ちょっと不気味で不思議な体験を綴ったエッセイ集です。なかには、戦争体験にまつわるエッセイも。

「蝶になった少女」より
戦時中、ハイビスカスの大群の中で出会った美しい少女、エトラリリ。日本に戻り、水木しげるが自宅でハイビスカスの花を育てていると、どこからともなく黄色い蝶がやってきました。急いで村へ手紙を出すと、約2ヶ月前にエトラリリが亡くなっていたことを知らされます。その村では、亡くなった人間の魂は蝶になるという言い伝えがあったそうです。

遠い海を超えてでも、エトラリリは水木しげるに会いに来たかったんでしょうね。家の庭にたくさんのハイビスカスを見つけたときは、自分を覚えていてくれていたことがわかって嬉しかっただろうな。

水木しげるの不思議旅行

著者
水木しげる
出版社
サンケイ出版
発行年
1978年
水木しげるによるエッセイ集。身の回りに起こる幸運・不運は、実は妖怪の仕業かも。自らの体験を交えて語られる、不思議体験22話を収録。
水木しげるが描く、"あの世の世界"はこちらをどうぞ。

水木しげるが描く、あの世の世界。戦争中、毎日死について考えていたという自身の経験から、世界の人々の間で伝わるそれぞれの「あの世の世界」を描く。
世の中に転がっている幸運、不運。何か嫌なことがあったら、ちょっと不気味で不思議に満ちた水木しげるワールドを思い出してみましょう。目に見えないものに思いを馳せれば、世界はもっと面白く見えてくるはず!

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ノストスブックス店長。前職では某テーマパークのお姉さんや、不動産会社の営業をしていました。小説とクラシックなものが好き。一緒に、好きだと思えるものを沢山見つけましょう。