こんにちは、石井です。
黎明期ということばには心が踊ります。テクノロジーにまつわるものにはなおさら。なぜならハードウェアやソフトウェアが劇的な進化を遂げるときに生まれる実験的なアプローチの数々は、つい保守に回りがちなわたしの脳みそを刺激してくれるから。脳みそだってアップデートが必要。そこで本日は1980年代からはじまる草分け時代のコンピュータ・グラフィックス、初期のアップル製品、そして1990年代のウェブデザインにスポットを当てた書籍をご紹介したいと思います。
エイプリル・グレイマンのニューウェーブ・グラフィック
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コンピュータ・テクノロジーをデザインの道具として用いた最初期の一人としても知られるグラフィック・デザイナー、
エイプリル・グレイマン。グレイマンはスイス派の総本山・バーゼル造形学校で学んだのち、ロサンゼルスを拠点にコラージュ・アート、商業的な広告デザイン、コーポレート・アイデンティティなどを数多く手がけました。
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ユニバース活字、罫線、ジグザグな形のモチーフといったスイス派の伝統様式に、西海岸的でポップなカラーリングや奥行きのある写真のモンタージュがプラスされ、新たなリズムを産み出しています。まさに1980年代グラフィック界のニュー・ウェーブ。
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西海岸発のアヴァンギャルド・カルチャー雑誌「WET」のジャケットデザイン。好き好き大好き。
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初期のMacintoshに同梱されていたグラフィックソフト、MacDrawを駆使して制作されたコラージュ・グラフィック。上がインターフェース、下が完成形(部分)。ベクタ形式で描かれているため、たった284キロバイトという軽量のファイルサイズにもかかわらず、大判印刷にも対応できるという当時としては画期的な試み。
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カーソルやデジタルフォントをモチーフにした、立体造形物のためのスケッチ。
本書「
Hybrid Imagery」には主に1970年代後期から1980年代にグレイマンが手がけた仕事が掲載されています。スイス派のフィーリングをデジタル技術によって進化させたそのハイブリッドなデザイン群は、先駆的かつ実験的。おすすめの1冊です。
Hybrid Imagery
- 著者
- April Greiman
- 出版社
- Watson-Guptill
- 発行年
- 1990年
コンピュータ・テクノロジーをデザインの道具として用いた最初期の一人としても知られるグラフィック・デザイナー/エイプリル・グレイマンの作品集。
1981年のアイデア誌においても、エイプリル・グレイマンと写真家であるジェイム・オジャースのコンビネーションにスポットを当てた特集記事が組まれています。
アイデアNo.167/1981年7月号。グラフィック・デザイナー/エイプリル・グレイマンとジェイム・オジャース特集、芸大・芸術専門学校のグラフィック・デザイン81年度卒業作品特集を収録。
アップルインダストリアルデザインの軌跡
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アップル製品を深く愛する方々はもちろん、インダストリアルデザインの資料をお求めの方にもおすすめの一冊「
アップルデザイン」。タイトル通り、数々の名プロダクトを世に送り出したアップル社の初期プロダクトデザイン集です。Macintoshシリーズはもちろん、見たこともないレアなモデルがゴロゴロ。生粋のマックユーザーではない私ですら、歴代のアップル製品を眺めるとわくわくしてきます。
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1980年代前半に作られた、デスクトップコンピュータやノートブックのモックアップ。
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1987年発売のMacintosh SE。
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1991年発売の初代PowerBookシリーズ。タフブックと見まごうほどのごつさ。
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1992年発売のMacintosh IIvx/Performa 600/Quadra。
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携帯情報端末の先駆け、Newton MessagePad 130。1994年発売。
わたしがはじめて購入したコンピュータは、Windows98が搭載されたSotecのデスクトップマシンでした。Power Macに憧れを抱きつつも、学生のバイト代で購入するには高価だったのです。でも今となってはわたしもすっかりマックユーザーであるように、誰でも手にすることができ、身近な存在となったApple社製品。現にこのページを読んでいる方の三分の一以上はiPhoneからアクセスしているのですから。猛スピードで進化する技術を目の当たりにでき、かつ体験できるなんて素晴らしい。10年後はどんな未来になっていることでしょう。
アップルデザイン
- 著者
- ポール・クンケル
- 出版社
- アクシスパブリッシング
- 発行年
- 1998年
創業20年を記念した、Apple社のインダストリアルデザイン集。歴代のコンピュータプロダクトとそのアクセサリの写真をカラーで掲載しているほか、デザイングループを内側を描いたレポートも収録。
おまけ。Macintoshの衝撃的な登場を象徴するのが、1984年に放映されたこちらのTVCM。なんと監督はリドリー・スコット!完全にSFです。来年公開予定の「ブレードランナー」続編も楽しみですね。
インターネット黎明期のデザイン
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知っている人は知っている、なつかしきWeb1.0時代のデザインがてんこ盛り、「
Graphis Web Design Now 1」が放つ魅力は、一周回って心を打ち抜いてきます。
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FontBoyのオンラインカタログ。と、お気づきでしょうか。キャプチャされているブラウザがNetscape Navigatorだということに。バージョンは4あたり?ネスケの表示崩れには苦戦した思い出しかありません。新人コーダー泣かせ。
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アート、音楽、映画などを扱うカルチャー誌「Speak」のアーカイブより。一見してどんなコンテンツなのかさっぱりわからないインターフェース、可読性よりインパクトを重視した書体の選び方と組み方はいかにも90年代!
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ロシアのカルチャーを配信ししていたMoscow Channel。懐かしのフレーム構造。
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メディアアートの先駆けといえる実験的なサイト、
adaweb。なんとドメインは現在も生きており、当時のコンテンツがそのまま残されている模様。まるでサーバ上に建てられた記念碑ですね。そういえばと思いググってみたところ、お気に入りだった
軍艦島Ver3.0が健在で嬉しくなりました。
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なにこれ愛おしい。
Graphis Web Design Now 1
- 著者
- Ken Coupland
- 出版社
- Graphis U.S.
- 発行年
- 1997年
1990年代当時の、様々なジャンルのウェブデザインが編集された資料集。ビジュアルコミュニケーションやセルフプロモーションなど、各分野において優れたウェブデザインをカラーで多数掲載。
マーケットとしては未成熟だった反面、カオスで実験的精神に溢れていた1990年代から2000年代初期のインターネット。言い換えれば無法地帯。時限式のトロイの木馬を仕込まれてリカバリーの方法がわからず泣く泣くHDDをフォーマットしたのも、真夜中にブラクラを踏み抜いて心臓が止まりそうになったのも今となっては良き思い出。
懲りずに見よう見まねでhtmlを触りはじめ、気がついたらWEB制作を仕事にしていて、なんやかんやを経てWEB屋と古本屋を兼任したりしていて、時代に巡行しているのかいないのか、自分でもよくわかりません。が、進化し続けるコンピュータがネットワークを通して私たちをこれから何処へ連れて行ってくれるのか、いつだって楽しみなのです。
それでは、また。