今回は風景写真、とりわけ「ニューカラー 」と呼ばれる表現を取り上げてみようと思います。
カラー写真の技術は1940年代にほぼ実用化され報道や広告で積極的に使用されていましたが、アート表現としてのカラー写真が登場するのはしばらく後のこと。1960年代から1970年代、色調の安定性などの問題が解決されると、カラー写真を取り入れた新しい世代の写真家たちが次々と登場します。彼らの試みた独特の美しい発色のカラー写真表現は「ニューカラー」と呼ばれるようになりました。
そんなニューカラー派を代表する写真家、ウィリアム・エグルストン、スティーブン・ショア、ジョエル・マイロウィッツのほか、あらたな風景写真の表現を試みた2名の作品集をご紹介します。
ニューカラーの先駆、ウィリアム・エグルストン
Ancient And Modern
- 著者
- William Eggleston
- 出版社
- Jonathan Cape Ltd
- 発行年
- 2002年
ウィリアム・エグルストンの写真集。南アメリカで撮影された初期の作品から、1980年代終盤までの作品を編纂して収録。
ニューカラーの先駆となったのはアメリカ南部テネシー州メンフィス出身の写真家、ウィリアム・エグルストン。アンリ・カルティエ=ブレッソンの「決定的瞬間」に感銘を受け、写真家を目指したエグルストンは1976年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された個展以降、カラー写真による表現を広く展開します。
本書はロンドンで開催された個展の際に刊行され、アメリカ南部で撮影された初期の作品から1980年代終盤までの作品を編纂して収録しています。
ノストスの看板息子、モグー氏に似てる...。
日常や旅先の風景の合間に、墓地や廃墟、石油掘削場など少々荒廃した風景をカットインしてくるところも魅力。
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日常や旅先の風景の合間に、墓地や廃墟、石油掘削場など少々荒廃した風景をカットインしてくるところも魅力。
アンリ・カルティエ=ブレッソンの写真集。ストリートスナップを芸術として確立させた代表作「決定的瞬間」の待望の復刻版。解説ブックレット付。新刊。
アメリカン・ロードトリップかくありき。ステファン・ショア
Uncommon Places: The Complete Works
- 著者
- Stephen Shore
- 出版社
- Aperture
- 発行年
- 2004年
ステファン・ショアの写真集。ポートレートのほか、クラシックカーや建造物などをカラーで撮影。
ニューヨーク出身の写真家、ステファン・ショアは、ウォーカー・エヴァンスの写真集「American Photographs」に影響され、写真家を志しました。本書は20代半ばのショアが、ビューカメラを携えて北米を旅した際の写真をまとめたもの。ハイウェイから見える建物、モーテルの部屋、ダイナー、ビーチなど、当時のアメリカのありふれた風景を美しい色彩で映し出しました。その光景はまるでロードムービーを切り取ったかのよう。
少し鄙びた町並みと、漂うのんびりした空気感がたまりません。思わず旅に出たくなりますね。
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ストリートから避暑地へ。ジョエル・マイロウィッツ
ニューヨーク出身のジョエル・マイロウィッツのキャリアは路上でモノクロのスナップショットを撮るところからはじまりました。1970年代からカラー写真に積極的に取り組みはじめ、アメリカ東部の避暑地・ケープコッドや西部の街セントルイスなど、風景や建築物にファインダーを向けるようになります。本書はニューヨークやパリなどで撮影された代表的な作品を発表年別に編纂。
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カラー写真の普及に多大な影響を与えたといわれる繊細なカラー表現が入念に発揮された、マイロウィッツの代表作。アメリカ・マサチューセッツ州ケープコッドの穏やかな空気を映した写真作品集。
地誌学的な視点。リチャード・ミズラック
1970年代初頭にあらわれたニューカラーに親しい風景写真表現として挙げられるのが「ニュー・トポグラフィックス」です。彼らは牧歌的で美しい風景よりも、建築をはじめとする人工物あるいは自然に与える人の影響に目を向けました。カリフォルニア州南部ロサンゼルス出身の写真家、リチャード・ミズラックもそのひとりです。
「デザート・カントス(砂漠の詩篇)」 と題された本書は、アメリカ西部カリフォルニア州やネバダ州などの砂漠を撮影したシリーズをまとめたもの。核実験によるクレーターや灌漑による洪水など、人の手や自然災害が引き起こした大規模な環境変化を捉えたミズラックの代表作です。
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リチャード・ミズラックの砂漠シリーズを中心に、ランドスケープやポートレートをカラーで多数掲載。アメリカのキュレーター、アン・ウェルクス・タッカー編集による写真集。
車窓越しにインドの 旅を追体験。ラグビール・シン
A Way Into India
- 著者
- Raghubir Singh
- 出版社
- Phaidon Press
- 発行年
- 2002年
インド出身のフォトジャーナリスト/ラグビール(ラフバー)・シンによる写真集。
インド・ジャイプール出身の写真家、ラグビール(ラフバー)・シンもカラー写真の開拓者のひとり。ナショナルジオグラフィック、ニューヨークタイムズ、ニューヨーカーなど、報道写真の仕事に携わりつつ、インドの風景や人びとを記録したドキュメンタリー作品も多く遺しています。本書は、インドの国民車・アンバサダーとともに旅をし、各地で出会った風景や人びとを記録したもの。車窓をフレームにしたり、バックミラーの映り込みを利用したり、ユニークな構図が多いのも特徴的です。
インド版ステファン・ショアと言っても過言ではない、このロード・トリップ感。
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アレックス・ハリスの写真集。ニューメキシコの山岳・高原地帯で暮す人々の生活を追ったドキュメント写真作品を多数収録。今や消えつつある文化の魂を記録した作品集。
ステファン・ショアの写真解説
最後の1冊は、前述のステファン・ショアによる写真解説書。「写真の本質」と題された本書は、ショア自身の作品の他に、アルフレッド・スティーグリッツやウォーカー・エヴァンス、トーマス・ストゥルースなどの作品も交え、その見方や本質を読み解く方法を解説しています。
ニューカラー派のひとり、ジョエル・スターンフェルドの作品。日常と非日常が交じり合う、奇妙な光景を写しだしたことで知られています。
ドイツのベルント・ベッヒャー、ヒラ・ベッヒャー夫妻による給水塔の写真。ベッヒャー夫妻は1950年代から溶鉱炉や給水塔などの工業用建造物の撮影に取り組み、それらを類型学(タイポロジー)的な方法によって提示し、風景写真をコンセプチュアル・アートに押し上げました。
上記ベッヒャー夫妻の影響を大きく受けたドイツの写真家、トーマス・ストゥルースの作品。広いパースペクティブをもった端正な写真。
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ベッヒャー夫妻による工業用建造物の写真集。規則的に並ぶ直線、曲線、立方体も、朽ちた資材もまた美しい。モノクロ写真の無機質さのなかに、建築家たちがデザインに賭けた熱いロマンが見え隠れする。
トーマス・ストゥルースの写真集。2003年に開催された回顧展に併せて出版された、25年のキャリアを網羅した1冊。初期のモノクロ写真から、カラー転向後の街頭やビル街から砂漠にまで及ぶランドスケープ、ポートレートを多数収録。