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いつまでも色褪せない。60〜80年代の広告イラストレーションから学ぶ表現方法 5選
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いつまでも色褪せない。60〜80年代の広告イラストレーションから学ぶ表現方法 5選

中野です。こんにちは。

子どもの頃はあんなに夢中になって絵を描いていたのに、知らずしらずのうちに絵を描くという行為自体が嫌いになってしまった人いませんか? 僕もその一人。頭の中で想像した絵と現実に描いた絵のギャップに絶望します。

目で見たものを写実的に描写したりデフォルメしてさらさらと描く機会に接するたびに、イラストレーターの方々を本当に尊敬してしまいます。 今回は今見てもなお新鮮な輝きを放つ60〜80年代の広告イラストレーション作品の数々をご紹介しようと思います。


ポスターの存在が持つ歴史の重み

和田誠:ポスターランド

ポスターランド

著者
和田誠
出版社
講談社
発行年
1976年
日本のイラストレーター・グラフィックデザイナー、和田誠のポスター作品集。映画、コンサート、歌劇、フェスティバルなど、様々なポスター作品137点を収録。
「ポスターを作る」という行為に憧れてグラフィックデザイナーになったという、和田誠が描いた初期のポスター作品137点を大判サイズで堪能できる一冊。 ジャズ、映画といった個人的趣味の側面を強く仕事に生かすところはさすが。とはいえ60年代当時はほとんど無報酬で受けることも多かったようです。

和田誠 「草月ミュージック・イン」ポスター。ベン・シャーンの影響が色濃く残る初期の作品。音楽が聞こえてくるような力強さ。

和田誠 日活名画座のポスターは9年間無報酬で続けられました。「とにかく映画ポスターが作りたかったのでギャラなどはどうでもよかった。」とコメント。タイトル文字のレタリングやレイアウトの隅々に至るまで丁寧な仕事です。

和田誠 和田誠の作風の幅はかなり広いですが、こちらのようなデフォルメされたコミカルな作風は、今や和田誠といえばですね。

ちなみに奥様は平野レミ。息子はTRICERATOPS。関係ない情報。

レイモン・サヴィニャック:ユーモアに溢れたポスター描きのおじさん

Savignac, affichiste: Bibliotheque Forney

Savignac, affichiste: Bibliotheque Forney

著者
Raymond Savignac
出版社
Mairie de Paris
発行年
2001年
フランスの画家・グラフィックデザイナー、レイモン・サヴィニャックの作品集。
フランスの商業ポスターで活躍したレイモン・サヴィニャックは41才でモンサヴォン社の牛乳入り石鹸の広告によって一躍有名になります。誰もが一目見れば理解できるという絵本来の力を信じ、ユニークなアイデアをポスターで表現しました。

レイモン・サヴィニャック ブイヨンメーカー「マギー」のシュールなポスター。自分の肉をスープの素にされているのにも気がつかないほどに良い匂い!

レイモン・サヴィニャック BICボールペンの広告。デザインしたキャラクターを自在に動かします。

レイモン・サヴィニャック ノストスブックス店舗でもクリスマス時期になると販売するサンタクロースシリーズ。思わず笑ってしまう良い表情がニクい。

550ページにもおよぶ分厚い一冊にサヴィニャックのユーモア溢れる世界が詰まっています。アイデアを探してる方にもオススメです。頭の体操になるかも。

伊坂芳太良のエキゾチックな異国感

伊坂芳太良

Pero 伊坂芳太良作品集成

著者
伊坂芳太良
出版社
PARCO出版
発行年
1983年
PEROの愛称で親しまれ、60年代後半に活躍したイラストレーター、伊坂芳太良の作品集。
異国感漂う独特のイラストレーションで一大旋風を起こした伊坂芳太良の作品集成。緻密な描法とエキゾチックな装飾や色使いが浮世絵を見ているようで個人的に大好きなイラストレーターです。ライトパブリシティの一デザイナーとして活躍する中で、紳士服メーカー・エドワーズのイラストレーションをきっかけに一気に知名度を上げます。人気に火がつき、次から次へと舞い込む膨大な仕事をこなす中、くも膜下出血で倒れ1970年わずか42歳でその一生を終えました。

伊坂芳太良 伊坂芳太良 江戸を舞台にしたブックカバーのイラストレーション。

伊坂芳太良 緻密な描き込みと不思議なファッションで2001年という未来予想図を描いたもの。

1946〜70年までの作品が時系列で並ぶので、手法の変化を見るのも楽しいのですが、どんどん緻密になっていく様は恐ろしさを覚えるほど。どんな仕事でも断らなかったという伊坂芳太良の情熱を感じられる一冊です。

トミ・ウンゲラー:人間の愚かさと可笑しさを見つめるまなざし

Affiches

Affiches

著者
Tomi Ungerer
出版社
L'Ecole des loisirs
発行年
1990年
フランスの児童文学作家、トミ・ウンゲラーの作品集。ユーモアな発想を自在表現したイラストをカラーで多数収録。
フランス生まれのトミ・ウンゲラーは、風刺の効いたイラストレーションとブラックユーモアが特徴です。画家、イラストレーター、漫画家、デザイナー、絵本作家と幅広く活躍していますが、あらゆる活動で一貫して冷静な観察眼を忘れません。

トミ・ウンゲラー トミ・ウンゲラー トミ・ウンゲラー 子供なら怖がって目を背けたくなるような描写の中にも笑いがあり、意図を深読みしてみる楽しみ方もあります。上でご紹介したサヴィニャックとはまた違った表現方法ですね。

現代をイメージによって証言する

年鑑イラストレーション 1967

年鑑イラストレーション 1967

出版社
講談社
発行年
1967年
東京イラストレーターズ・クラブ編纂の「年鑑イラストレーション」1967年度版。
1964年に日宣美の会員たちを中心に結成された東京イラストレーターズ・クラブ年鑑の1967年版。「現代をイメージによって証言し、そのコスモスの拡大を意識の根底として、創造的形象化をめざす、イラストレーターの集団」というマニフェストを掲げ、イラストレーションとイラストレーターの存在を世に広めました。粟津潔伊坂芳太良宇野亜喜良大橋正長新太、柳原良平などなど、現在でも名の残る名だたるイラストレーターの作品を一挙に見ることができる資料的価値の高い一冊です。

東京イラストレーターズ・クラブ 結成初期だからか、かなりほのぼのムードです。なぜかアイドルスナップのような参加者たちの紹介ページ。「ごひいきTVはなんですか?」「プロレス番組」なんだこの質問と答えは。

20160316_06 20160316_07 灘本唯人の独特な造形表現が印象的。

宇野亜喜良:マックスファクターの広告 宇野亜喜良のイラストレーションを使用した美容液のマックスファクターの広告。

伊坂芳太良:製版会社アドダイプの広告 伊坂芳太良イラストレーションによる製版会社アドダイプの広告。「アードーしようかナ?」ダジャレ。。

萩原克則イラストレーション 躍動感が素晴らしい萩原克則イラストレーション。
こうして見ていくと、絵の力はやはり絶大ですね。言葉がわからずとも一目見れば理解できること、イメージをより増幅できること、この2つの点で絵に勝るものはないように思います。 さらにイラストレーター自身の技術・技法も当然素晴らしいですが、想像力と世間に対する批評の視点も重要です。

様々なイラストレーション表現を見て、ぜひご自身の表現の参考にしてみてください。

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ノストスブックス店主。歴史と古いモノ大好き。パンク大好き。羽良多平吉と上村一夫と赤瀬川原平と小村雪岱に憧れている。バンドやりたい。