抽象絵画の先駆けといえば、ワシリー・カンディンスキーや、カジミール・マレーヴィチ、そしてピエト・モンドリアン...ですが、実は彼らよりも早く、実験的な手法で抽象的な絵画を描きはじめていたヒルマ・アフ・クリントというひとりの画家がいたことをご存知でしょうか。
もしからしたら、本書を通して初めて知るという方が多いかもしれません。なぜならヒルマ・アフ・クリント(1862-1944)自身が「死後20年経つまでは作品を公開しないように」と遺言を残していたから。よって長きにわたり、その作品は人目に触れることがないままだったのです。
かつてスウェーデン王室美術院に5年間通い、肖像画や風景画といった正統な美術教育を受けていた彼女ですが、やがて神秘主義に傾倒するようになっていきます。のちに同じ思想をもった4人と芸術家集団「5人(De Fem)」を結成し、さらに霊的世界・超感覚的な世界へと没入するようになりました。
作品に描かれた直感的な線やかたち、そして十字架などのモチーフにも、彼女がスピリチュアルな世界や意識の外側からメッセージを手繰り寄せようとした様子が見て取れます。また円環や放射上に広がる光、そして動植物や文字を織り交ぜた描写からは、宇宙や世界の持つエネルギー、そして天地創造的なイメージなども感じれますね。
明るく鮮やかな色使いから可憐なイメージを受ける作品も多いですが、実は高さ3m、幅2mを超える大作も多いのです。実際に間近で見たときの迫力は、図版で見るときとはまた一味違いそうですよね。
やっと世界から注目を集めることとなった貴重な作品たちは、昨年の4月にはニューヨークのグッゲンハイム美術館で展示されていたそう。羨ましい...。
というわけで、ぜひ日本でも大規模な展覧会を開いていただきたい画家ナンバーワンであります。