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「本物」と「ニセモノ」の境界線
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「本物」と「ニセモノ」の境界線

真贋のはざま デュシャンから遺伝子まで

今日ご紹介する書籍のテーマは「真贋」、つまり本物とニセモノ。...なんともドキリとさせるテーマではありませんか。
ひとくちにニセモノといってもさまざまで、たとえばそれが「贋物」「フェイク」「まがいもの」などと聞くとマイナスなイメージを持ちがちですが、「コピー」「模写」「再現」「パロディ」はどうでしょう。いまやコピーされたもので十分事足りる状況があらゆる環境で整い、さらにいえばコピーでしかなりたたない事柄・行為がわたしたちの生活を取り巻いています。はたして本当にオリジナルこそが正統で、プライオリティが高いものだと言えるのか?

本書はそんな「本物と偽物」について多数の事例をもとに改めて問い直したもの。
考古学における石器のコピーや捏造、かの有名な赤瀬川原平の模造千円札事件、動物の擬態やカッコウの托卵、そして我々人間の遺伝を司るDNAの仕組みなど、歴史上に無数に存在する様々な真贋の事例を前に、自分のなかの常識が歪んでくるのがわかります。こうして見ると真と贋の境界線のいかに曖昧なことか。

マルセル・デュシャンの「花嫁は彼女の独身者たちによって裸にされて、さえも」=通称「大ガラス」は、1915年から1923年の間に制作され、途中でガラスにひびが入り制作が放棄された作品。生前のデュシャンに許可を得て、没後にその設計図ともいえる「グリーンボックス」をもとにした東京ヴァージョンのレプリカが制作されています。
ほかにもロンドン、ストックホルムなどでも制作されたこの「大ガラス」は、レプリカであると同時にオリジナルでもあるという革新的な作品でありながら、オリジナルが複数個存在している作品ともいえるのです。さすがレディ・メイドの生みの親。

すべてを疑ってかかり疑心暗鬼になりすぎるのもあまり身体によくなさそうですが、創作者に敬意をはらいつつ、こうした歴史を紐解くことによって、また新たな視点で本物とニセモノを捉え直すことができるのではないでしょうか。

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ノストスブックス店長。前職では某テーマパークのお姉さんや、不動産会社の営業をしていました。小説とクラシックなものが好き。一緒に、好きだと思えるものを沢山見つけましょう。