ドナルド・エヴァンズのことを知ったのは、小川洋子と堀江敏幸の小説「あとは切手を、一枚貼るだけ」。
物語の冒頭で、"国旗から言語、通過、気候、宗教、風物...あらゆることがらを系統立てて創造し、架空の国をこしらえ、名づけ、その国が発行する切手を、短い生涯の間に四千枚も描いた画家。"と語られていたのが、ドナルド・エヴァンズです。架空の人物にしては魅力的すぎるその人物についてなにげなく調べてみると実在の画家だと知り、いつか作品を拝みたいと願っていました。本書はそんなエヴァンズの切手作品を実寸大で収めた作品集。
1945年にアメリカに生まれ、火事の事故により31歳という若さでこの世を去るまで、架空の国42カ国と、架空の切手約4000枚をも生み出したエヴァンズ。
「langue des mains(またはHand-Talk)」という名の島は、耳の聞こえない友人とコミュニケーションを取るため手話を習っていた際にうまれた国。ハンドサインや、島の発見300年周年を祝う画の描かれた切手が交わされるその群島には、毎日美しい虹がかかるそう。
また植物と動物の楽園「Fauna and Flora」は、エヴァンズがロンドン自然史博物館に訪れたことから生まれた国。色とりどりの花々と、可愛らしいペンギンの切手が交わされます。
架空の世界ながら、きっとどこかにこれらの国々が実在しているはずだと信じたくなってしまうのは、エヴァンズの実体験と、人生のかけらが作品に息づいているからかもしれません。
争い、災害、戦闘機などが存在しない、ただただ平和に満ちた世界をひそかに生み出し続けたエヴァンズに、憧れは募る一方です。