かれこれ2年ほど、スマホの待受画面はベン・シャーンによる美術論「ある絵の伝記」のなかで見つけた挿絵にしています。いつ見ても、初めて目にしたときと同じくらい胸が高鳴る唯一無二の線が好き。
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1906年、家族とともにリトアニアからアメリカへ移住し、石版画職人として生計を立てていたベン・シャーン。肉体労働者階級の人々や失業者など、生きていくことに困難を抱えた人々をそばで見ていた経験が、のちの戦争や貧困といった社会的テーマを扱った作品へと繋がっていきます。
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遠いところへ無造作に投げかけられた芸術じゃなく、身近な生活や何気ない日常、そして多くの人が抱いた生の感情が源流にあるという点が、ベン・シャーン作品が沢山の人々の心に触れる所以なのかもしれません。
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さて、“ザ・コンプリート・グラフィックワークス”のタイトルの通り、氏のグラフィック仕事が贅沢に並んだ本書。
シルクスクリーン作品においては、モノクロ版、セピア版、カラー版など複数のエディションが同時に紹介され、なかには基本となるグラフィックにテキストが追加されていたり、あらたなイメージが加えられた作品も。それによって不思議なほどに変化する作品の表情には、ささやかかつハッと胸を打つような感動があります。
ひとつひとつの作品についた丁寧な解説は英語ですが、できればじっくり読み進めたい。鑑賞のもう一歩先にある、深い理解へと導いてくれるはずです。