ファーブルといえば、『昆虫記』。ではありますが、氏がこの世界に残したモノそのものよりも、自然へ寄せられた確かな愛情と、それを純粋に世の中の人々に知ってもらいたいという誠実さに、ファーブルという人間の人となりを感じます。
本書に収録されているのは、ファーブルが描いたきのこの水彩画221点。気まぐれに発生したかと思えば、放っておけばみるみる成長し、虫類と違って確かなかたちの保管が難しいきのこ。そんな小さないきものが、確かな観察眼で詳細に、そして美しく描かれています。
序文を寄せたクロード・コサネルによれば、ファーブルはそれまで一度も絵の具に触れたことがなかったというから驚き。
後半にはそれぞれのきのこに対する詳しい解説も収録されていて、水彩画とあわせて図鑑としての楽しみ方もできます。私には、ファーブルの人生や、功績、そして、”人がかくありたいと願う模範的な人”とも称される人柄について丁寧に綴られた伝記のようにも感じられました。人々が心からファーブルを尊敬し、氏の素晴らしさを伝えんとする情熱が、この1冊ですごく伝わるんですよね。
重量約5キロの本書。どかっと椅子に深く腰掛け、本を支える腕にその重みを感じながら、ファーブルの愛した自然の不思議と神秘をゆっくり楽しんでください。