「辻まこと」という人物が放つ、この捉えようのない魅力とは一体何なのでしょう。
ユーモア満載の詩やイラストによる社会の風刺から、山や動植物との触れ合いを穏やかに描いた風景画まで、振れ幅のある多彩な作品の数々。そして思わず「えっ」と声が漏れるほど、波乱万丈な人生模様。うーん、調べれば調べるほどますますその素顔が掴みどころのないものになっていく..。
ひとつ、全画文集としてまとめげられたこの15冊を眺めながらはっきりと分かるのは、辻まことがある種とても器用な人物だったということでしょうか。串田孫一も「無言の対話」のなかで述べているように、依頼に応じて自身の画風を自由に描き分けることのできる柔軟さは、絵画の領域のみならず、生活の様々なシーンで発揮されたようです。
62年という短い人生に、辻まことが残したものはなんだったか。あるときは静かに、またあるときは饒舌に語りかけてくる作品たちがそれを教えてくれるような気がします。