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その名はダリ!シュルレアリストとして挑み、苦しみ、そしてたった一人を愛し抜いたその人生とは
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その名はダリ!シュルレアリストとして挑み、苦しみ、そしてたった一人を愛し抜いたその人生とは

こんにちは、なつきです。

2016年末、東京新国立美術館で開催された「ダリ展」へ行ってきました。サルバドール・ダリといえば、シュルレアリスムの代表的人物、柔らかい時計の作品、トーレードマークの跳ねた髭……くらいの薄っぺらな知識しかなかった私ですが、展示会へ足を運んだことで今まで知らなかったダリの様々な活動や、天才と称される所以を知ることができました。
と同時に、もはや架空の存在かと思えるほど遠くに感じていたダリでさえ、悩み、模索し、人を愛して生きていた生身の人間だったんだなぁと当たり前のことに気がついた次第。

ということで本日は、生い立ちに加えこれまでに描かれた作品を紹介しながら、ダリの持つ様々な人物像に迫ってみたいと思います。


天才誕生!故郷で育まれた多彩な表現力

ダリは1904年、スペインはカタルーニャ地方にある、フィゲラスという町に生まれました。初めて絵を描いたのは、6歳の時だったと言われています。幼い頃から、画家出身だった母と、ピカソの友人でもあった画家のラモン・ピショットらにその才能を認められ、ダリは絵画にのめり込むようになっていきます。
さらに家族やラモン・ピショットらと過ごした旅先の風景や、1922年に入学したマドリードのサンフェルナンド美術学校で過ごす日々の中で、ダリは近代芸術というものに大きな感銘を受けます。ダリと言えばシュルレアリストとしての作品が有名ですが、実はポスト印象派キュビズムピュリスムなどといった様々な手法の作品を数多く残しているんです。

「後ろ姿のカダケス」
家族やラモン・ピショットらと夏の休暇を過ごしたカダケスの風景が、ポスト印象派のタッチで描かれています。何度も色を塗り重ねて生まれた柔らかなタッチと温かみのある色使いが、当時交易によって栄えたカタルーニャ地方の豊かさを表しているよう。シュルレアリスム時代のダリ作品しか知らなかったから、なんだか新鮮。こんな優しいタッチの絵も描いてたんだ。

「キュビズム風自画像」
様々な角度から見た対象を一つの画面に収めた、キュビズム的手法で描かれた自画像。ポスト印象派とのギャップがすごい。あらゆる手法を試みたその探究心もさることながら、どんな作風も自分のものにしてしまうところがダリの恐ろしいところ。

シュルレアリストとしてのダリ

その後パリに赴くと、パブロ・ピカソや、トリスタン・ツァラアンドレ・ブルトンポール・エリュアールルイ・アラゴンらといった、シュルレアリストの中心人物たちと交流を深めていくのですが、後にこの出会いを、ダリは自分に第二の人生が与えられたように感じられたと語っています。そしてその言葉通り、ダリはシュルレアリストの代表的画家として道を歩み始め、数多くの作品を描き賞賛を得ました。

「記憶の固執」
ダリの代表作品の中でも、最も有名なのがこの「記憶の固執」ではないでしょうか。絶対的な時間というものを表している「時計」と、溶けた姿形から曖昧さを連想させる「カマンベールチーズ」という対照的な存在を合わせたもの。ひとつのイメージに、別のもうひとつのイメージを重ね合わせたこの手法を、ダリは自ら"偏執狂的批判的方法"と称し、シュルレアリスムの新たな可能性を生み出しました。


「大自慰者」
下を向いた横顔はダリ自身を表していると言われ、「記憶の固執」でも中央部分に描かれています。よく見るとダリの顔にはイナゴとアリが群がっていますね。これらはダリにとっての"恐怖"を表しているものであり、ダリ作品の中に何度も登場しています。右上に描かれている人物は、妻であるガラとダリの下半身なのですが、実はこれらも性に対する恐怖心の表れ。

「夢」
「欲望の適応」
シュルレアリスムの世界観も相まって、まるで悪夢を見ているかのよう。こうして作品として描くことによって、ダリ自身ですら例えようのない恐怖心を昇華させていたのでしょうか。
天才も色々と悩みを抱えているんですね。といっても、その苦しみさえダリにとっては原動力・想像力の源になっていたのではないかと思わされます。

ダリ作品の変化を辿るなら、1910年から1983年までの作品を年代順に掲載したこちらの図録がおすすめ。

Salvador Dali: The Work The Man

著者
サルバドール・ダリ
出版社
Harry N Abrams
発行年
1984年
1910年から1983年までのダリの作品を年代順に多数紹介しながら、作風の変化とその輝かしい軌跡を網羅するボリューミーな一冊。

しかしシュルレアリスム作品は理解に難しいのも事実。こちらは日本語解説付きです。ありがたい。

氏の作品を年代順で多数収録し、丁寧な解説とともに作品の変化や背景、そしてその生涯をたどることができる一冊。

挿絵家にデザイナー。芸術家という枠を超えた華々しい活動

さらに、ダリの活躍の場は絵画芸術に留まりません。 ファッション誌「VOUGE」の表紙画や、ウォルト・ディズニーとのアニメーション作品、そして宝飾デザインに至るまで、その才能をいかんなく発揮していきます。

上の画像は1939年に刊行さたアメリカのファッション誌「VOUGE」の表紙画。下の画像は同号でダリよって描かれた、最新の水着紹介ページ。

作品のみならずダリ自身の人気の高さから、タイム誌の表紙を飾ったことも。撮影はなんとマン・レイ

女優のメイ・ウェストの顔をモチーフに描かれた、その名も「メイ・ウェストの顔」と、実際に作成されたソファ。こちらはダリ展でも実際に見ることができましたが、ぷっくりした唇がなかなかの妖艶さを放っていました。(笑)

そして個人的に、ダリ展で見た「不思議の国のアリス」の挿絵は、私の中のダリ像を完全に塗り替えるものでした。

アリスを不思議の世界へ誘い込むウサギ。アリスは縄跳びをする少女として各ページに登場します。

左はティーパーティー、右はアリスに色々と忠告する芋虫。

全体を通してシュルレアリスム的世界感ではあるものの、写実的からはかけ離れたタッチや色彩は、ダリの表現力の豊かさをまざまざと突きつけられたようでした。

一方、デザイナーとして商業的に圧倒的な注目を集めたことで、周囲のシュルレアリストたちからは"Avida Dollars"(ドルの亡者)と揶揄されるようにもなります。 たしかに、ビジネスと芸術を切り離したいという考え方の方が、当時は一般的だったのかもしれませんね。 今では、デザイナーがクライアントの希望に即した作品を生み出し、その対価としてお金を得るという関係性は当たり前に存在しますが、当時からすると芸術家がいち商売人に成り下がったと感じれたのも頷けます。 しかしだからこそ、そんな外の世界と芸術家の新しい関係を構築したダリの功績は計り知れません。

ダリの著作や挿絵といった仕事を知るならこちらの図録をどうぞ。私が一目惚れしたアリスの挿絵も収録しています。

ダリと本

編集
エドゥアルド・フォルネス、ジョルディ・オリベレス
出版社
メディテラニア出版社
発行年
1987年
著述家としても知られる一方で、数々の文学書での挿絵も手がけるダリ。多才な氏の功績を、「本」という軸から振り返る。
ちなみにシュバンクマイエルが描いた「不思議の国のアリス」はこちら。ダリと同じくシュルレアリストながら、作品の違いを楽しめます。

「インスピレーションの源泉」として、生涯に渡り向きあってきたルイス・キャロル作「不思議の国のアリス」に、自身が挿絵を手がけたもの。
またこちらの図録はダリによる宝石彫刻作品を収録したもの。ダリならではのモチーフが随所に見られる宝石の数々だけでなく、ネジ留めも施された高級感のある装丁も見どころ。

「奇蹟のダリ宝石展」の図録。実用的・物質的な宝石に命を吹き込んだとも言える宝石彫刻作品をダリ自らによるメッセージとともに収録。浅井潔氏による装丁も楽しむことができる。

ガラこそ全て。愛妻家としてのダリ

「ガラリーナ」
そして、これら華々しいダリの活躍に欠かすことのできないのが、妻であるガラの存在。 ダリにとってガラはミューズであり、母であり、よきマネージャーでもありました。自由奔放で金銭感覚の鈍いダリに代わり、作品のプロモーションや生活の管理などをガラが率先して引き受けていたというから驚きです。

「レダ・アトミカ」
レダとは、古代ギリシャ神話に登場する女王の名。レダはガラを、白鳥はガラに寄り添うダリを表現しています。

ダリは自身の著書「ダリの告白できない告白」で、ガラへの愛をおしみなく綴っています。

この愛がなければ、ガラがいなければ、自分はダリになれないだろう。まさにその真実(の愛)を絶えず創造し、それを一貫して生きぬこう、とわたしは思った。それ(彼女)は私の血液、わたしの酸素だ。

なんて情熱的…!!ダリがここまでガラへ愛情を注いだのには、ガラ自身の魅力に加えて、ダリの生い立ちや内面にも関係があります。

実は、ダリは幼少期から心に深いトラウマを抱えていました。その原因は、早逝した兄の存在。 兄にはダリと同じく"サルバドール"という名前が付けられており、その事実を知ったダリは、「自分は兄の生まれ変わりに過ぎない」という呪縛を生涯背負うことになります。

それ以外にも、自身の中に潜む犯罪意識や、残酷さ、獰猛さ、他人を屈従させようとする欲求とダリは常に戦っていました。「ダリの告白できない告白」の中でも、ガラを崖から突き落としたいという衝動にかられた経験を赤裸々に綴っています。そのような苦しみから、時に激しい妄想や笑いの発作といったヒステリーを起こすこともあったというダリ。 しかしガラへの愛情を知ったことによって、その呪縛から解放されていくのを感じます。

わたしは身を折り曲げ、痙攣するように身をふるわせ、恐怖に飛び上がり、ものすごい形相で呼吸を取り戻そうとしながら、ひざまずき、力つきるまで地面を転げまわった。顔は埃にまみれ、四肢は傷つき、胸を痛めたまま、わたしは立ち上がろうとしたが、徹底的にわたしを痛めつける致命的な歓喜の発作にまたもや襲われて、すぐに倒れてしまうのだった。

ガラはわたしから兄の魔力を追い払った。死んだ兄サルバドルの執拗な亡霊を消した。
ー略ー
彼女がわたしにそそぐ愛の力によってわたしを日のあたる場所に出してくれた。


ダリがガラへの愛を綴った表現には、遠慮や戸惑いといったものが一切感じられません。自分がいかにガラを愛しているのかということを、あらゆる言葉で表現しています。 それらは時に屈折し、行き過ぎた愛情表現に感じられる部分もありますが、"自身の全て"と公言するほどの愛って、綺麗な言葉じゃ語り尽くせないのかもしれませんね。 奇行や過激な言動の影には、ダリ自身制御しきれない苦しみと、それを全て包み込むガラの深い愛があった...。なんてドラマティックな人生。

ダリの告白できない告白

著者
サルバドール・ダリ
出版社
二見書房
発行年
1976年
サルバドール・ダリによるエッセイ集。世間一般的に知られる、シュルレアリスムを代表した天才画家という人物像を超えて、様々なエピソードをもとにダリという人間に迫る。
サルバドール・ダリによるエッセイ集。自身が自身に語るというユニークな構成で綴られた芸術論。巻末には飯島耕一による解説も併せて掲載。
芸術家やシュルレアリストなどと一括りには出来ないほど、幅広く活躍したダリ。まさに"ダリ的なダリ"と称されるほど、その存在は唯一無二です。
それにしてもいいですね、「天才」。言われてみたい。

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ノストスブックス店長。前職では某テーマパークのお姉さんや、不動産会社の営業をしていました。小説とクラシックなものが好き。一緒に、好きだと思えるものを沢山見つけましょう。