単なる説明や写生ではなく、目の娯しみや歓喜・興奮を生み出す表現として生まれた、図像。そこに描かれたのは、大脳の内側に広がる壮大なパノラマ。本日は、17世紀〜19世紀のいわゆる”図像の黄金時代”に博物学者たちが残した膨大な資料を研究・編集した「ファンタスティック12 シリーズ」をご紹介します。
「ファンタスティック12」では、自然界の生物や科学、そして人間の想像によって生み出された生物など、未知への好奇心を刺激するテーマが豊富な図版とともに解説されています。これら12篇のシリーズを編集するのは、博物学者や図像学研究家にはじまり、小説家、妖怪評論家などなど、その博学から多方面で活躍する荒俣宏。 著書である「世界大博物図鑑」制作の際には、資料費として1億円以上の借金をつくってしまったというから、その探求意欲には驚きです!今回はシリーズの中から、ノストスで人気の3作をピックアップしました。
水中の驚異
「ファンタスティック12」シリーズの第1作目として刊行された『水中の驚異』。陸上と違い、そこに住む生物を観察することが難しい海の世界。当時の人々は、まさか暗い海の底にこんなにも色鮮やかな世界が広がっているなんて思いもしなかったでしょうね。初めてその姿を目にしたときの感動や驚きもひとしおだったはず。
まるでレースのカーテンのようにふわりと揺れる触手、宝石のように青く光るコウイカにヒカリボヤ。この色使いやレイアウトから見ても、博物学者たちが目の前の生物を描写するだけではなく、その美しさをいかに表現するか模索していたことは明らか。というより、彼ら自身も当初はその美しさに、これが生物だとは信じられなかったのかも。
そしてさらに面白いのは水の描かれ方。水中の生物を描くということは、刻々と変化する水も同時に描かなくてはいけないわけです。初期の水中画では、まず全体に薄く水色を流し、描きたい対象物自体には透明な水を重ねることで、ぼんやりと水色の煙る背景に水中生物が浮かび上がる不思議なモザイク模様ができあがりました。「水の中にいる生物を描くなら、実際に水被せちゃえばいいじゃん」ってことですね。潔い。
こちらでは黒を背景に用いることで深海を表現しています。当時におけるこの画期的発想は、おおむね20世紀に生み出されたもの。特にA・アンドレスが描いた石版図の迫力は他に比較するものがないほどで、暗色背景を芸術にまで高めたとも称されています。
自然界の驚異を描いたシリーズでは、昆虫の持つ色や柄の美しさを再発見できるこちらもおすすめです。
またこちらでは様々な分野における図像表現を網羅しつつ、西洋の近代版画についても解説されています。
まるでレースのカーテンのようにふわりと揺れる触手、宝石のように青く光るコウイカにヒカリボヤ。この色使いやレイアウトから見ても、博物学者たちが目の前の生物を描写するだけではなく、その美しさをいかに表現するか模索していたことは明らか。というより、彼ら自身も当初はその美しさに、これが生物だとは信じられなかったのかも。
そしてさらに面白いのは水の描かれ方。水中の生物を描くということは、刻々と変化する水も同時に描かなくてはいけないわけです。初期の水中画では、まず全体に薄く水色を流し、描きたい対象物自体には透明な水を重ねることで、ぼんやりと水色の煙る背景に水中生物が浮かび上がる不思議なモザイク模様ができあがりました。「水の中にいる生物を描くなら、実際に水被せちゃえばいいじゃん」ってことですね。潔い。
こちらでは黒を背景に用いることで深海を表現しています。当時におけるこの画期的発想は、おおむね20世紀に生み出されたもの。特にA・アンドレスが描いた石版図の迫力は他に比較するものがないほどで、暗色背景を芸術にまで高めたとも称されています。
ファンタスティック12 第1巻 水中の驚異
- 著者
- 荒俣宏
- 出版社
- リブロポート
- 発行年
- 1991年
荒俣宏編著、ファンタスティック12シリーズ第1巻/水中の驚異編。イソギンチャクやウミウシなど、奇怪な装いの生物たちを過去の論文や図譜から編纂した水中生物のカラー図鑑。装丁は鈴木成一。
マリア・シビラ・メーリアンの「スリナム産昆虫の変態」、ゲオルグ・ディオニシウス・エーレトの「花蝶珍種図録」、モーゼズ・ハリス「オーレリアン」。これら18世紀蝶類図鑑の傑作3冊の図録を贅沢に編纂。
思慮を促す「観賞」としての現代の芸術的版画と、物を語り、見る側がいわば「観光」するようにそのものの情報を受け取ってきた17〜19世紀の西洋銅版画。本著では後者の「読み方」を荒俣宏が解説する。
解剖学
これぞ、”絵画的幻想の真打ち”と荒俣氏が綴っているように、当時の解剖図譜の表現はとにかく奔放・自由。だって見てください。
こちらのモデルの女性、皮膚がめくれているのに笑っちゃってる。正確な写生・描写をしようとしたのであれば、まずありえないですよね。
アルビヌス「人体筋骨構造図譜」より。今度はポーズまでばっちりきめてます。
しかし、このような表現にはれっきとした理由があって、人体は神の作り出した傑作であると考えられていたことから、最美の形として描かれなくてはならなかったからだそう。
人体をより際立たせるためには背景となる影が必要だと考えたアルビヌスは、ただ影を斜線で描くだけでは芸が無いので、生や死を表現する題材を描き入れたんです。その結果、解剖図がこんなにも神々しい感じに。また、ヴェサリウスが解剖した身体は彫刻家たちの手本としても使われていたことから、まるでギリシャ彫刻のようなポーズを取った解剖図になったのだとか。
一方こちらは日本の解剖図。うぅ、グロテスク…。日本の表現は、あくまで解剖した肉体をありのまま描くことを重要視していたのだと感じさせますね。こういった西洋との対比も面白い。
こちらのモデルの女性、皮膚がめくれているのに笑っちゃってる。正確な写生・描写をしようとしたのであれば、まずありえないですよね。
アルビヌス「人体筋骨構造図譜」より。今度はポーズまでばっちりきめてます。
しかし、このような表現にはれっきとした理由があって、人体は神の作り出した傑作であると考えられていたことから、最美の形として描かれなくてはならなかったからだそう。
人体をより際立たせるためには背景となる影が必要だと考えたアルビヌスは、ただ影を斜線で描くだけでは芸が無いので、生や死を表現する題材を描き入れたんです。その結果、解剖図がこんなにも神々しい感じに。また、ヴェサリウスが解剖した身体は彫刻家たちの手本としても使われていたことから、まるでギリシャ彫刻のようなポーズを取った解剖図になったのだとか。
一方こちらは日本の解剖図。うぅ、グロテスク…。日本の表現は、あくまで解剖した肉体をありのまま描くことを重要視していたのだと感じさせますね。こういった西洋との対比も面白い。
ファンタスティック12 第11巻 解剖の美学
- 著者
- 荒俣宏
- 出版社
- リブロポート
- 発行年
- 1991年
荒俣宏編著、ファンタスティック12シリーズ第11巻/解剖の美学編。「彩色解剖図譜の驚異」「諧謔と鮮烈の江戸腑分け図」「現像の十八世紀解剖図譜」の3部構成で、その細部にわたる描写はまさに第二の解体新書。装丁は鈴木成一。
怪物学
実在するものの神秘や驚異とは異なり、反自然の存在に迫ったのがこの『怪物学』。とはいえ意外や意外、実は怪物学は、「その時代の人々にとって、なにが例外的な存在とされてきたのか」という精神史と深く結びついているんです。
初期に描かれていた怪物は、「異常」や「例外」、または「異兆」といって災害や災いを予兆するものとして描かれていました。その後、新大陸の探索や発見が進むと、「遠方生息怪物学」という未開拓地に住む未知の生物という考え方も広がっていきます。
こちらの生物なんて、現代人からすればどう見てもサイ。でもはじめてサイを発見した人は驚いただろうなぁ。強固な胴体に角まで生えた生物なんて、得体の知れない怪物そのものだったことでしょう。
こちらはゲスナーによる怪物図。神話に登場する7つの人面をもったヒュドラと、船を襲う鯨が同じように怪物として描かれています。鯨と同様に、獰猛な生物として考えられていたシャチの生体が明らかになるのが、これらの絵が描かれてから約250年後であったというから、世界がいかに未知と驚異に溢れた時代であったか想像できますね。
一方こちらは人類が創造した数々の空想上の生物、"幻獣"が収録されている一風変わった図鑑。
初期に描かれていた怪物は、「異常」や「例外」、または「異兆」といって災害や災いを予兆するものとして描かれていました。その後、新大陸の探索や発見が進むと、「遠方生息怪物学」という未開拓地に住む未知の生物という考え方も広がっていきます。
こちらの生物なんて、現代人からすればどう見てもサイ。でもはじめてサイを発見した人は驚いただろうなぁ。強固な胴体に角まで生えた生物なんて、得体の知れない怪物そのものだったことでしょう。
こちらはゲスナーによる怪物図。神話に登場する7つの人面をもったヒュドラと、船を襲う鯨が同じように怪物として描かれています。鯨と同様に、獰猛な生物として考えられていたシャチの生体が明らかになるのが、これらの絵が描かれてから約250年後であったというから、世界がいかに未知と驚異に溢れた時代であったか想像できますね。
ファンタスティック12 第12巻 怪物誌
- 著者
- 荒俣宏
- 出版社
- リブロポート
- 発行年
- 1991年
荒俣宏編著、ファンタスティック12シリーズ第12巻/怪物誌編。反自然の存在として人間が作り上げ、語り継がれてきた世界各国の怪物たち。本書では、自然界の「異常」として、また災害を予兆する「異兆」としての正体を追求する。時に妖しく、時に愛らしい怪物たちの図像もカラーで多数収録。装丁は鈴木成一。
荒俣先生のお言葉のとおり、全身を目玉にしていざ図像の世界へ!