
タイガー立石は1964年に同じく画家の中村宏とともに「観光芸術協会」を結成。時は60年代、既存の芸術の枠組みを逸脱せんとする「反芸術論」がさかんな時代。観光芸術と称して日本的なポップ・アートを次々と発表し、1960年代後半からは活動の場を漫画の世界へと移します。世代の近い漫画家・赤塚不二夫と相互に影響を与え合いつつ、ナンセンスな笑いを生み出しました。

ところが漫画家として順調に歩み始めた矢先ともいえる1969年、タイガー氏は突如イタリアへ移住してしまいます。事務機器メーカー・オリベッティ社のエットーレ・ソットサス工業デザイン研究所に嘱託として在籍し、デザインの仕事に携わりながら絵を描き続け、ニューヨーク、パリなどで展示を開催。着々と生業をデザインからアートへとシフトさせます。そして1982年に帰国、1998年に肺癌で他界するまで、油彩や漫画、絵本、立体作品など多彩な活動に精力的に取り組みました。

本書「ムーン・トラックス」はタイガー立石の作品の中でも絵画作品、通称「コマ割り絵画」を編纂した作品集です。コマ割り絵画とは、1枚のタブロー(キャンバス画)を漫画のように枠で区切り、ストーリー性を加えた絵画のこと。漫画家としての顔ももつ画家・タイガー立石ならではのレイアウトです。

寅年生まれのタイガー氏。作品のいたるところに虎、虎、虎。ペンネームの由来でもあります。

気持ちの良いパースペクティブ。虎と同じく、富士山も画中に頻繁に登場します。

箱庭宇宙。侘び寂びとサイエンス・フィクションとアーケード・ゲームがミックスされた世界感。

漫画であり、絵画でもある。台詞が一切ないことが、かえって想像力を膨らませてくれます。

天地創造を思わせる、トロピカルフルーツたちのメタモルフォーゼ。
壮大すぎてなにがなんだかわかりませんが、それでいいのだ。

また、タイガー氏の作品には偉大な画家たちへのリスペクトを込めたオマージュが散りばめられています。こちらはそこはかとなくサルバドール・ダリ。

ルネ・マグリッド風の毛沢東と、パブロ・ピカソのゲルニカ。

ゴッホ…なのか?

ジョルジュ・デ・キリコの「形而上絵画」もコマ割り絵画に。
コマ割り絵画=タイガー立石の予測不可能な想像力と確かな画力で描かれた宇宙。全体から漂う浮遊感にひたるもよし、描き込まれたディテールを愉しむもよし、何度開いても飽きることなくページ間を遊泳できる作品集です。
ムーン・トラックス: タイガー立石のコマ割り絵画劇場
- 著者
- タイガー立石
- 出版社
- 工作舎
- 発行年
- 2014年
ニューメディア時代に新しいマンガを模索する漫画家・画家のタイガー立石の作品集。独自に生み出したコマ割り手法の絵画をカラーで多数掲載。
絵本作品の「とらのゆめ」では、エッシャーの石版画によるトロンプ・ルイユ(だまし絵)の手法を随所に見ることができます。とらきちのみる夢は、超現実。
漫画家・画家のタイガー立石による絵本。虎のとらきちが姿を自在に変幻させながら歩く夢の世界を描いた不思議な物語。
商業デザインや、漫画をはじめとするサブカルチャーの影響を受けたアーティストたちのペインティング、コラージュ、立体造形作品を収録したこちらの展示図録には、江戸・明治・大正・昭和それぞれの時代をテーマにした大作が掲載されています。
タイガー立石、柏木賢造、落合洋子、原高史、勝本みつるらの合同展図録。ペインティング、コラージュ、立体造形作品などをカラーで多数掲載。