作り手インタビュー:木工作家・辻有希(2)
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作り手インタビュー:木工作家・辻有希(2)

北海道で木工作家として活動する辻有希さん。前回のインタビューでは、木の素材を見つめ、出来たものを受け入れた時から、ものづくりの方向性が変わったというお話をお聞きしました。
今回はモビール作品についてや、普段使われている材やオイル、そして実験する楽しさについてうかがいます。


遊びみたいにつくってることが、一番魅力的になる

立体モビールのボディは木工旋盤という機械でつくってるんです。
途中までこれでつくって、それからは手作業で刃物で削っていきます。自分の頭の中で考えていることを形づくっていくという作業です。

ー作品に使う材たちはどこから手に入れているのですか?

なるべく北海道の木を使うようにしていて。道内の2〜3件の木材屋さんとお取り引きさせていただいています。選ばせてもらったり、リクエストしたり、現物をみて決めていますね。

北海道にあまり生えてない木があるので、面白いなっていう木材屋さんとは道外でもお取引をさせていただいています。

ー面白いなと思うポイントはなんですか?

虫食いや節や杢など、個性的な材も扱っているところです。本来はあまり価値をつけられないものもあるので、わたしたちが買うところまでおりてくる前にはねられたりすることが多いので。

そういう木は個性的で好きだなと思います。全部をそれにしたいとは思わないんですけど、活かせられる場所に活かしたいと思っていて。

木工をはじめた頃は、どちらかというプロダクトデザインの方に興味があったので、つくりたいものにあわせて材料を選んでくるという感じだったんですけど。
木工をやればやるほど、木の魅力がすごすぎて…。「こういう材があるからこういう風につくりたい」っていう方向に変わってきて。

素材との出会いが今は一番大事なことだと思っています。

アトリエには無数に木が。短い板だけど木の木目が面白かったりするとつい取っておいてしまう。

ー辻さんがよく使わている、材の種類を教えてもらってもいいですか。

はい。器だと桜、栗、くるみ、キハダなどです。モビールだとハンノキとかホオの木とか、ナラやタモを使うこともあります。あとイタヤカエデも使います。

オイルは、器はアマニ油と蜜蝋で仕上げてます。モビールは自然系のオイル塗料があるのでそれで仕上げています。色を変化させるときは、布なども染められるような鉄媒染の液や柿渋染めの液も使ってます。

ーモビールを染めてみようと思ったのは、どういったきっかけからですか。

CONTEXT-S 札幌の「朝に起きる。」の展示でモビールを初めてつくったんですけど、その時のテーマカラーが白だったんです。その時は白漆を試してみたり、白っぽい色の木や、白い色のオイル塗料を使って、白でまとめたモビールを作りました。

そのあとに開催した「そして、夜がくる。」という展示のテーマが黒だったんですよね。その時に黒染めをやってみたのが始まりです。

黒いモビールをつくったときに、壁に浮き立つようなシルエットがすごい綺麗で。テグスが消えたように見えて動いてる様子とかが良かったので、今後も染めていきたいと思いました。
でもすべての木が同じように染まっていくわけではないので、黒染めが一番綺麗にできる材はどれか実験して、最も自分が好みのハンノキで、今もつくり続けてるって感じですね。

あとホオの黒染めもすごい綺麗で。ホオ自体は緑色っぽい木なので、淡く染めると緑色が引き立つんです。
自分の中で黄金セオリー的なものがあって。イタヤカエデの鉄染めはすごい好きとか、黒染めするならもハンノキみたいな。

ーたくさん実験をされているんですね。

今でも常にしています。ノストスさんでも初めてモビールの展示をさせていただいたときに、自分でも想像できないパーツができたり、予想できない組み合わせになったり…そういう化学変化的に生まれるものが面白いと思ってるので。

常に実験というか、作品にならなくても遊びみたいにやってることはたくさんあります。

遊びみたいにつくってることが、一番魅力的になるっていうか。繰り返しつくっていくと上手くなって、自分の中で慣れてきたりするので、ものづくりの最初のわくわくを繰り返していきたいなと思います。


作り手インタビュー:木工作家・辻有希(3)に続きます。

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故郷・広島県で雑貨のお店をしていた影響で、器に目がない。盛り付ける料理は修行中。ノストスブックスの雑貨担当として奮闘します。暮らしにまつわる本、民藝本、画集が好きです。