向井さんの制作する作品はそんなアジュラックプリントの伝統にリスペクトを寄せつつ、これまでになかった模様の重なりや、染めムラ、ずれを活かし、さらに木版以外の様々な素材を使用するなど、ブロックプリントのまだ見ぬ可能性に溢れています。インドの職人が卓越した技術で制作した伝統的なブロックプリントも、向井さんの手掛ける新たな手法・表現を追求した作品も、手仕事だからこそ生み出せるあたたかみと美しさが宿っています。
今年4月、そんな向井さんのブロックプリントワークショップが「旅とテキスタイル」さん主催で開催されるとききつけ、スタッフも参加させていただくことに。7月17日(土)からのノストスブックスでの展示にさきがけて、今回はその様子をみなさんにもお伝えできたらと思います。
会場は昨年2020年に創業100周年を迎えた、染の里おちあい(二葉苑)さん。門をくぐって奥に進むと、工房は妙正寺川のまさに真横。さらさら流れる川の音が気持ちいい...。
水の音と川沿いの緑に癒やされながら、ワークショップがスタート。今回プリントする布は、事前に植物染料(ミロバランエキス)に浸したものを向井さんが準備してくださっていたので、わたしたちは一番たのしい版を押すステップからはじめます。お手本を見せていただき、自分たちでも一回ずつ試し刷りをして、いざ。
使用する染料は、Iron(鉄)ペースト、Alum(アルミ)ペースト、Indigo(藍)ペーストの3種類。こちらの染料は向井さん監修のもと京都の田中直染料店さんが制作したもので、パキスタンとインドの国境付近で受け継がれている"アジュラックプリント(※)"の染料ができるだけ再現されています。自宅で本格的なアジュラックプリントを気軽に楽しめるなんてすごい。
(※アジュラックとは、パキスタンや西部のカッチ地方などに伝わる、伝統的な染料などを用いたイスラム的な文様の木版捺染の布。)
そして通常ブロックプリントに使用されるのは木版ですが、今回は消しゴムはんこや木のブロックなど、様々なかたちの素材を事前に用意してくださっていました。木版の場合、版に染料をつけて布の上においたあと、想像以上に力を込めてドン!と押すことで色を移しますが、消しゴムはんこならスタンプ感覚。あとはそれぞれ好きな版を選んで、思い思いの模様にプリントしていきます。
頭のなかに完成図を思い描きながら、版を選び、色を選び、力加減や配置を調整する...最初からこれだ!というイメージが固まっていればいいけれど、いざ手を動かしていると「もっとこうしたい、もっとこうすればよかったかな」の連続。もう夢中です。
そして参加者のみなさんの自由な発想にも驚いてばかり。自ら持参した木版や、瓶、筆、タワシなど、各々で選び取った素材に「その手があったか!」とハッとさせられることも多く、模様の付け方も色を重ねたり、あえてひとつのかたちを組み合わせたりと実に様々。草木染めの経験者の方もいらっしゃったので、とても勉強になりました。
プリントが終わり、広々とした場所で乾くのを待っている気持ちよさそうな布たち。
乾いたら最後に色止めと、希望によっては鉄浸染をほどこして、もう一度乾かしたら完成です!染料の色がくっきりと浮かび上がって、本当に綺麗。
今回、ブロックプリントの体験と向井さんからうかがった工房や染色のお話を通して、インド文化の一端に少し触れることができたように感じました。そしてそうした伝統や歴史を軸にしつつ、新しい表現をどんどん開拓していく向井さんのイメージの源流はどんなものだとうと想像すると、わくわくが止まりません。2021年7月17日(土)からノストスブックスではじまる展示では、そういったものもみなさんにもお伝えできたらいいなと思っています。
向井詩織ブロックプリント展
「反復する地平。インドの西果ての染布」
店舗オープン日
2021年7月17 日(土)作家在廊日
2021年7月18日(日)作家在廊日
2021年7月24日(土)
2021年7月25日(日)