意外性を感じさせるマテリアルと伝統的な職人技術との組み合わせにより、コンテンポラリーな作品を発信する、2006年にスタートしたジュエリーブランドSIRI SIRI。ベースにあるものは日本の工芸技術や伝統的な美意識。
現在スイスにお住まいのSIRI SIRI 代表・デザイナーの岡本菜穂さんと、SIRI SIRIブランド・ディレクターである深井佐和子さんに作品が生まれるまでのお話しをお聞きしました。
岡本: ジュエリーデザイナーになるつもりはなかったんですが、あるきっかけで15年ほど前からこの仕事をしています。父が建築家で抽象画家だったので、なんとなくデザインの関係の仕事をするんじゃないかなとは思っていました。興味の中心にあるのはたぶん、生活とか、工芸とか、ものづくりそのものだったりします。
ブランドをはじめた2006年は、桑沢デザイン研究所でスペースデザイン科を卒業してインテリアの仕事をしていた頃。当時アンティークジュエリーがすごく好きだったんですけれど、金属アレルギーがあるということが分かったんです。インテリアや建築で使うような素材を使って、デザインの力でジュエリーにできないかなと思って作ったものが最初です。その時に作ったのが、今でもあるガラスの江戸切子のバングルとかピアス、藤籐で編んだバングルやピアスなど4、5点で最初始めました。
ーインテリアの仕事はどういったことをされていたんでしょうか。
岡本: 新宿にあるリビングデザインセンターの中で会社は変わりつつも10年くらい働いていて、家具屋さんのショールームでカタログの撮影や接客、ディスプレイヤーとしてだったり、そこでものづくりだけではなくてどうやって売るか、どうやって接客するかに触れました。特にインテリアの場合だと名作家具など一度買った椅子は一生使うことが多いので…SIRI SIRIを買ってくれる人にそういう感覚で使って欲しいなっていうのは常にありますね。
ブランドを始めた当時から変わらず、SIRI SIRIではデザインをして職人さんに作ってもらうというやり方をしています。伝統工芸に限定しているわけではないんですけど、物を見て直接話せるよう近くにいる方を東京で探すとなると、葛飾区や台東区で昔から工房を営んでいる職人さんが多くなりますね。
最初は籐とガラスの江戸切子で始まり、今では螺鈿(らでん)という貝の内側を削いで薄片にして漆器に飾る伝統工芸だったりとか…アクリルなど工業デザインっぽい素材をつかったものを作ったり。金属は出来るだけ使わないということは基本で、素材に縛られず制作をしています。
SIRI SIRIの始まり
ー今日はよろしくおねがいします。まず最初にSIRI SIRIをはじめるきっかけを教えていただけますか?岡本: ジュエリーデザイナーになるつもりはなかったんですが、あるきっかけで15年ほど前からこの仕事をしています。父が建築家で抽象画家だったので、なんとなくデザインの関係の仕事をするんじゃないかなとは思っていました。興味の中心にあるのはたぶん、生活とか、工芸とか、ものづくりそのものだったりします。
ブランドをはじめた2006年は、桑沢デザイン研究所でスペースデザイン科を卒業してインテリアの仕事をしていた頃。当時アンティークジュエリーがすごく好きだったんですけれど、金属アレルギーがあるということが分かったんです。インテリアや建築で使うような素材を使って、デザインの力でジュエリーにできないかなと思って作ったものが最初です。その時に作ったのが、今でもあるガラスの江戸切子のバングルとかピアス、藤籐で編んだバングルやピアスなど4、5点で最初始めました。
ーインテリアの仕事はどういったことをされていたんでしょうか。
岡本: 新宿にあるリビングデザインセンターの中で会社は変わりつつも10年くらい働いていて、家具屋さんのショールームでカタログの撮影や接客、ディスプレイヤーとしてだったり、そこでものづくりだけではなくてどうやって売るか、どうやって接客するかに触れました。特にインテリアの場合だと名作家具など一度買った椅子は一生使うことが多いので…SIRI SIRIを買ってくれる人にそういう感覚で使って欲しいなっていうのは常にありますね。
ブランドを始めた当時から変わらず、SIRI SIRIではデザインをして職人さんに作ってもらうというやり方をしています。伝統工芸に限定しているわけではないんですけど、物を見て直接話せるよう近くにいる方を東京で探すとなると、葛飾区や台東区で昔から工房を営んでいる職人さんが多くなりますね。
最初は籐とガラスの江戸切子で始まり、今では螺鈿(らでん)という貝の内側を削いで薄片にして漆器に飾る伝統工芸だったりとか…アクリルなど工業デザインっぽい素材をつかったものを作ったり。金属は出来るだけ使わないということは基本で、素材に縛られず制作をしています。
続けるということ
岡本:
SIRI SIRIが10年目を過ぎたあたりで自分は何が好きなのか…創作意欲の源を探ってみたいと思い、ヨーロッパへ渡りました。イギリスではオックスフォードとブライトンに1年半いて、スイスの大学院ではソーシャルインパクトをテーマに自分の創作の源流とか、工芸がもつ社会的な意味を勉強していました。スイスがいいところだったのでそのまま住むことにした、という感じです。
ーブランドが始まってから15年経った今でも同じデザインのジュエリーが作り続けられているということは、他にあまり類を見ないことだと思います。
岡本: それしか知らなかったんですよね。インテリアの仕事をしていて、基本的に名作のものは壊れたら直して使うという文化が当たり前かなと思って、一回作ってやめるというのはしなかったですね。デザインしたら長く使い続けて欲しいていうのはずっとあって、それが今もシグニチャーアイテムとして人気なのは嬉しいですね。
ーブランドが始まってから15年経った今でも同じデザインのジュエリーが作り続けられているということは、他にあまり類を見ないことだと思います。
岡本: それしか知らなかったんですよね。インテリアの仕事をしていて、基本的に名作のものは壊れたら直して使うという文化が当たり前かなと思って、一回作ってやめるというのはしなかったですね。デザインしたら長く使い続けて欲しいていうのはずっとあって、それが今もシグニチャーアイテムとして人気なのは嬉しいですね。
ストーリーを伝えていく/SIRI SIRI magazine
今回はもうひとり、SIRI SIRIブランド・ディレクターの深井佐和子さんにもお話をうかがいました。岡本さんはスイスでデザインを、深井さんは日本でブランドのディレクションを進めています。
ー深井さんがSIRI SIRIの仕事を始められたのはいつからですか?
深井: 同い年で同じような人たちと仕事をしていたので、お互いのことは15年くらい前から知っていたのですが、ちゃんと会ったのは3年くらい前。同じ頃にお互い海外に出ていたので、私は昨日までロンドンにいたけど、岡本さんはいまロンドンか...みたいな感じですれ違いを繰り替えして、最終的にミッドタウンで会いましたね(笑)。写真のアートギャラリーで働いていて、ちょうど独立したタイミングで。
ー初期の頃から一緒にされていたのかと思っていました…!思っていたよりも最近で驚きました。
深井: 実は。ちょうどSIRI SIRIも親会社から独立するタイミングで相談を受けてっていうのが始まりですね。私はもちろんSIRI SIRIは持っていて好きで。
岡本: 深井さんと共通しているのは同世代というのもあるんですけれど、アートと社会的な意義の間を往来するような未来を目指したいっていうのがポイントで。 アートの人はアートの人。デザインやソーシャルの人はそれぞれで別れてしまうことが多い中、それを一緒に考えられる深井さんと一緒にやりたいと思ってました。
深井: 私自身イギリスやオランダなど海外に住んでいた時期が長くて、その間にインプットしていることが北欧的なデザインなど岡本さんのブックリストを見ても近くて。実際ヨーロッパにいると日本の文化が全然出て行っていないなというジレンマがありました。
それは言葉的な意味だけじゃなくて、文化的に正しく翻訳されていなくて。アート業界で10年くらい働いていたのですが、私が関わっていたのはアートと言っても写真だったので、割と日本の写真は欧米市場でも受け入れられる土台ができてきたところだったんですよね。
日本のいいデザインやプロダクト、技術そのものとか、文化的なものとか、出て行っていいのになと思いながら帰ってきた所があったので、そういう意味でもやりたいことと合致したタイミングではありましたね。
ー写真のディレクションなども深井さんが現在担当されているんですよね。
深井: そうですね、私は写真に関わっていたのが長かったのと、撮影そのものが好きで。写真はやっぱり言語なので、どういう写真にしたら人に伝わるかは気をつけなきゃいけないなと思うんですね。
というのと、いま写真についてのリテラシーも10年前に比べるとすごい上がっているので、消費のスピードもあがっているし、逆にマーケティングされすぎちゃって、例えばみんなKINFOLKっぽい感じに陥ったりもするし。 そういう風にあわせるのは簡単だし、ビジネス的にいうと売り上げが上がりやすくなるっていうのはあると思うんですけれど、SIRI SIRIが売ろうとしているものはもうちょっとスローペースなものなので、そこの価値が伝わるように写真もしていかなきゃいけないなと思っていて。
これは言語化しずらいところではあるんですが、写真は何万枚あっても写真だし2枚だけでも写真じゃないですか。写真を読み取る感性はみんなもう持っていて。それを受け取りながら自分で買うものを選んだりしているのかなと思っていて。だからその視覚的な表現は大事に考えているんですね。
SIRI SIRIのジュエリーは建築的な要素もあるので、建物のように撮ったりとか、ラグジュアリーに撮ったり。それからどういう人につけてほしいかというのを、どういう風に表現したらいいかというのは、結構カメラマンの人にとっては難しくて。
今回は思い切ってwebのリニューアルのタイミングで伊丹豪さんに全部お願いして。300点近くある商品を贅沢にも全部撮り直しています。毎週撮影しているんですけれど、あまり機械的に撮れなくて、1個1個、板を立てたり当てたり外したり…写真も手工藝の世界になってきています。今日も明日も、今月はずっと。
ー伊丹さんの写真、とても楽しみです。今回ノストスでも撮影させてもらって、ジュエリーからくる職人さんのすごさとデザインの美しさを受けて、生半可な撮影はできないと思いました…!
深井: 工業製品ではなく手で作ったものには揺らぎがあるので、光の当て方で出る影とか、1個1個違うんですよね。そしてwebサイトっていうプラットフォームのグリッドに当てはめていくと、有機的なものをイメージとして入れていくのって難しくて。 オンランショップとしての機能的なところは残しつつ、かつ良さは見せつつっていうのは難しいなって思ってます。
言葉にも社会的なレイヤーがあって伝わりかたも違うので、そこは総合的に編集しながらブランドって作っていかなきゃいけないものだなとは思っていて。SIRI SIRIのコアなファンの人ってやっぱり、ニッチな方で。自分で表現している女性だったりとか、そういう人にも届く言葉っていうのを気をつけてはいます。
建築家の工藤桃子さんもそうなんですが話が通じる人が周りに集まってきていて、それで仲間にささえられてSIRI SIRIっていうブランドが成り立っているような気がしていて。
そういう人たちが社会的に何かディレクションする立場になってきていて、スポークスマンで話してくれるんですよね。それはたぶん、岡本さんの人間力が大きいなと思います。
ブランドは日々たくさん生まれてくるけれど、15年残るっていうのはすごいことだと思うので、プロダクトがいいというだけではなくて、デザイナーの人間性とか、ものを通して表現しようとしている文化的な深みとかがだんだん成果としてでてきているんじゃないかなとは思うんですけどね。
私も岡本さんもジュエリーを売っておきながら、本当は消費主義的なことにあんまり興味がないんですよね。文化系女子といってしまってはあれですけれど、文化系オタクな人がまわりに男女問わず多いんじゃないんですかと思うんですけれど。
ーSIRI SIRIには「受信したい」と思う情報がたくさんあります。web magazineの「RADIO ASSEMBLAGE」も聞きました。
岡本・深井:受信!笑
ーぎゃあ恥ずかしい。笑
岡本:通称、「佐和子の部屋」ね。
ー物を買う時に誰がどう作ってるか、後ろに流れる物語があるものに惹かれます。SIRI SIRIの背景に流れるストーリーやアートへの興味など、発信されているものがとても面白いなあと思っています。
深井:これだけ物があって、服があって、買う理由ってどこにあるんだろうって考えると、「誰がデザインしているか」や、「信頼している人が作ってデザインしているものを着たい、身に付けたい」って思うのは自然な流れですよね。
ーそこに意識的でありたいですし、そのストーリーをみんなに知ってもらえたら嬉しいなという想いがあります。それを伝えれる形はどういうものだろう、というのが私たちの課題です。
深井:SIRI SIRIがアートブックと一緒に展示されるっているのは初めてなんじゃないかな。日本だとブランドやデザイナー自身がレファレンスを見せるってやり方はしないですよね。見る人にとって知的レベルを要求されるじゃないですか。
逆にアートブックを扱っているお店じゃないとできないというか、 SIRI SIRIが「ブロスフェルトの…」っていうとちょっと押し付けがましいというか、なんていうんでしょう、過去の引用と自分を接続しようとするずるさってものがあるじゃないですか。あまりできないなと思うんですけど、普段からアートブックを取り扱っているnostos booksで見せるというのは下駄を履かせてもらっているような…嬉しいですね。
岡本:多面的に見えるし。
ーノストスに来てくださる方は点と点がつながることを楽しんでいただける方が多いと思っているので、この形が店頭でも伝わると嬉しいなと思ってます。
岡本:そうですね、形を作るっていうのは一つの線で伝えきれることはなくて、いろんな要素が一個に集約してできているので、それを言葉で表すのはなかなか難しくて。それを本というもので繋がりを見てもらえるのはありがたいですね。
ー読み取るヒントになると嬉しいなと思ってます。
深井:ファッションデザイナーの人の記事を読んでいて、インスピレーションになっている本とかを参考にしたりするから面白いなと思いますね。プロダクトデザイナーの人のインスピレーションになっている本の展示はよくやるんですか?
ー個人的にとても興味があります。ものを作っている方は「これを参考にしました!」と声を大にして言わないと思うんですが、本を取り扱っている私たちなら聞ける、やったーというところがあります。
岡本:デザイナーやクリエイター同士でインスタのメッセンジャーで「いいのあったよ」ってやりとりしたりしていて、面白いところですけれど、なかなかね、文章だけでは伝わらないことだしそういうところも見ていただけたら楽しいですね。
ーSIRI SIRIが好きでお店に来ていただいた方が知らない世界の扉が小さく広がるきっかけになったりとか、逆もまた嬉しいなぁという想いです。
深井: そうですね。ヨーロッパは美術館や博物館が素晴らしいですし、アーカイブの文化なんですよね。岡本さんがリストに書いていたケ・ブランリーもいいし、その向かいにある東洋美術館のギメとかもとても素敵で。そこにリサーチに行って今のデザインに活かすっていうサイクルが自然に行われていて。日本ももちろん日本画とか素晴らしいものはあって学ぶべきとことは色々あるんですけれど、なんかいろんなインスピレーションがひとつひとつのプロダクトに入っているので、それが見れるっていのは面白いなと思いますね。
ーノストスがものづくりをしている人たちのアーカイブのような資料室のようなスペースになったらいいなあって日々思っているところで、過去の新しい発見を今自分のために引っ張り出してこれるようなことができるように、面白くなったらいいなと。
岡本:日本に帰ってノストスに行って衝撃というか、日本は特に造形や素材など視覚的な美しさへの興味が強いので、ビジュアルブックの文化が盛んなんだなと感じました。私のいるドイツ語圏は文学やコンセプトに重むきを置く文化なので、ノストスにあるような本はあまりないですね。私も日本にいる時はクラフトやアートを視覚的にとらえているものからインスピレーションを得てると思いました。
ー深井さんがSIRI SIRIの仕事を始められたのはいつからですか?
深井: 同い年で同じような人たちと仕事をしていたので、お互いのことは15年くらい前から知っていたのですが、ちゃんと会ったのは3年くらい前。同じ頃にお互い海外に出ていたので、私は昨日までロンドンにいたけど、岡本さんはいまロンドンか...みたいな感じですれ違いを繰り替えして、最終的にミッドタウンで会いましたね(笑)。写真のアートギャラリーで働いていて、ちょうど独立したタイミングで。
ー初期の頃から一緒にされていたのかと思っていました…!思っていたよりも最近で驚きました。
深井: 実は。ちょうどSIRI SIRIも親会社から独立するタイミングで相談を受けてっていうのが始まりですね。私はもちろんSIRI SIRIは持っていて好きで。
岡本: 深井さんと共通しているのは同世代というのもあるんですけれど、アートと社会的な意義の間を往来するような未来を目指したいっていうのがポイントで。 アートの人はアートの人。デザインやソーシャルの人はそれぞれで別れてしまうことが多い中、それを一緒に考えられる深井さんと一緒にやりたいと思ってました。
深井: 私自身イギリスやオランダなど海外に住んでいた時期が長くて、その間にインプットしていることが北欧的なデザインなど岡本さんのブックリストを見ても近くて。実際ヨーロッパにいると日本の文化が全然出て行っていないなというジレンマがありました。
それは言葉的な意味だけじゃなくて、文化的に正しく翻訳されていなくて。アート業界で10年くらい働いていたのですが、私が関わっていたのはアートと言っても写真だったので、割と日本の写真は欧米市場でも受け入れられる土台ができてきたところだったんですよね。
日本のいいデザインやプロダクト、技術そのものとか、文化的なものとか、出て行っていいのになと思いながら帰ってきた所があったので、そういう意味でもやりたいことと合致したタイミングではありましたね。
ー写真のディレクションなども深井さんが現在担当されているんですよね。
深井: そうですね、私は写真に関わっていたのが長かったのと、撮影そのものが好きで。写真はやっぱり言語なので、どういう写真にしたら人に伝わるかは気をつけなきゃいけないなと思うんですね。
というのと、いま写真についてのリテラシーも10年前に比べるとすごい上がっているので、消費のスピードもあがっているし、逆にマーケティングされすぎちゃって、例えばみんなKINFOLKっぽい感じに陥ったりもするし。 そういう風にあわせるのは簡単だし、ビジネス的にいうと売り上げが上がりやすくなるっていうのはあると思うんですけれど、SIRI SIRIが売ろうとしているものはもうちょっとスローペースなものなので、そこの価値が伝わるように写真もしていかなきゃいけないなと思っていて。
これは言語化しずらいところではあるんですが、写真は何万枚あっても写真だし2枚だけでも写真じゃないですか。写真を読み取る感性はみんなもう持っていて。それを受け取りながら自分で買うものを選んだりしているのかなと思っていて。だからその視覚的な表現は大事に考えているんですね。
SIRI SIRIのジュエリーは建築的な要素もあるので、建物のように撮ったりとか、ラグジュアリーに撮ったり。それからどういう人につけてほしいかというのを、どういう風に表現したらいいかというのは、結構カメラマンの人にとっては難しくて。
今回は思い切ってwebのリニューアルのタイミングで伊丹豪さんに全部お願いして。300点近くある商品を贅沢にも全部撮り直しています。毎週撮影しているんですけれど、あまり機械的に撮れなくて、1個1個、板を立てたり当てたり外したり…写真も手工藝の世界になってきています。今日も明日も、今月はずっと。
ー伊丹さんの写真、とても楽しみです。今回ノストスでも撮影させてもらって、ジュエリーからくる職人さんのすごさとデザインの美しさを受けて、生半可な撮影はできないと思いました…!
深井: 工業製品ではなく手で作ったものには揺らぎがあるので、光の当て方で出る影とか、1個1個違うんですよね。そしてwebサイトっていうプラットフォームのグリッドに当てはめていくと、有機的なものをイメージとして入れていくのって難しくて。 オンランショップとしての機能的なところは残しつつ、かつ良さは見せつつっていうのは難しいなって思ってます。
言葉にも社会的なレイヤーがあって伝わりかたも違うので、そこは総合的に編集しながらブランドって作っていかなきゃいけないものだなとは思っていて。SIRI SIRIのコアなファンの人ってやっぱり、ニッチな方で。自分で表現している女性だったりとか、そういう人にも届く言葉っていうのを気をつけてはいます。
建築家の工藤桃子さんもそうなんですが話が通じる人が周りに集まってきていて、それで仲間にささえられてSIRI SIRIっていうブランドが成り立っているような気がしていて。
そういう人たちが社会的に何かディレクションする立場になってきていて、スポークスマンで話してくれるんですよね。それはたぶん、岡本さんの人間力が大きいなと思います。
ブランドは日々たくさん生まれてくるけれど、15年残るっていうのはすごいことだと思うので、プロダクトがいいというだけではなくて、デザイナーの人間性とか、ものを通して表現しようとしている文化的な深みとかがだんだん成果としてでてきているんじゃないかなとは思うんですけどね。
私も岡本さんもジュエリーを売っておきながら、本当は消費主義的なことにあんまり興味がないんですよね。文化系女子といってしまってはあれですけれど、文化系オタクな人がまわりに男女問わず多いんじゃないんですかと思うんですけれど。
ーSIRI SIRIには「受信したい」と思う情報がたくさんあります。web magazineの「RADIO ASSEMBLAGE」も聞きました。
岡本・深井:受信!笑
ーぎゃあ恥ずかしい。笑
岡本:通称、「佐和子の部屋」ね。
ー物を買う時に誰がどう作ってるか、後ろに流れる物語があるものに惹かれます。SIRI SIRIの背景に流れるストーリーやアートへの興味など、発信されているものがとても面白いなあと思っています。
深井:これだけ物があって、服があって、買う理由ってどこにあるんだろうって考えると、「誰がデザインしているか」や、「信頼している人が作ってデザインしているものを着たい、身に付けたい」って思うのは自然な流れですよね。
ーそこに意識的でありたいですし、そのストーリーをみんなに知ってもらえたら嬉しいなという想いがあります。それを伝えれる形はどういうものだろう、というのが私たちの課題です。
深井:SIRI SIRIがアートブックと一緒に展示されるっているのは初めてなんじゃないかな。日本だとブランドやデザイナー自身がレファレンスを見せるってやり方はしないですよね。見る人にとって知的レベルを要求されるじゃないですか。
逆にアートブックを扱っているお店じゃないとできないというか、 SIRI SIRIが「ブロスフェルトの…」っていうとちょっと押し付けがましいというか、なんていうんでしょう、過去の引用と自分を接続しようとするずるさってものがあるじゃないですか。あまりできないなと思うんですけど、普段からアートブックを取り扱っているnostos booksで見せるというのは下駄を履かせてもらっているような…嬉しいですね。
岡本:多面的に見えるし。
ーノストスに来てくださる方は点と点がつながることを楽しんでいただける方が多いと思っているので、この形が店頭でも伝わると嬉しいなと思ってます。
岡本:そうですね、形を作るっていうのは一つの線で伝えきれることはなくて、いろんな要素が一個に集約してできているので、それを言葉で表すのはなかなか難しくて。それを本というもので繋がりを見てもらえるのはありがたいですね。
ー読み取るヒントになると嬉しいなと思ってます。
深井:ファッションデザイナーの人の記事を読んでいて、インスピレーションになっている本とかを参考にしたりするから面白いなと思いますね。プロダクトデザイナーの人のインスピレーションになっている本の展示はよくやるんですか?
ー個人的にとても興味があります。ものを作っている方は「これを参考にしました!」と声を大にして言わないと思うんですが、本を取り扱っている私たちなら聞ける、やったーというところがあります。
岡本:デザイナーやクリエイター同士でインスタのメッセンジャーで「いいのあったよ」ってやりとりしたりしていて、面白いところですけれど、なかなかね、文章だけでは伝わらないことだしそういうところも見ていただけたら楽しいですね。
ーSIRI SIRIが好きでお店に来ていただいた方が知らない世界の扉が小さく広がるきっかけになったりとか、逆もまた嬉しいなぁという想いです。
深井: そうですね。ヨーロッパは美術館や博物館が素晴らしいですし、アーカイブの文化なんですよね。岡本さんがリストに書いていたケ・ブランリーもいいし、その向かいにある東洋美術館のギメとかもとても素敵で。そこにリサーチに行って今のデザインに活かすっていうサイクルが自然に行われていて。日本ももちろん日本画とか素晴らしいものはあって学ぶべきとことは色々あるんですけれど、なんかいろんなインスピレーションがひとつひとつのプロダクトに入っているので、それが見れるっていのは面白いなと思いますね。
ーノストスがものづくりをしている人たちのアーカイブのような資料室のようなスペースになったらいいなあって日々思っているところで、過去の新しい発見を今自分のために引っ張り出してこれるようなことができるように、面白くなったらいいなと。
岡本:日本に帰ってノストスに行って衝撃というか、日本は特に造形や素材など視覚的な美しさへの興味が強いので、ビジュアルブックの文化が盛んなんだなと感じました。私のいるドイツ語圏は文学やコンセプトに重むきを置く文化なので、ノストスにあるような本はあまりないですね。私も日本にいる時はクラフトやアートを視覚的にとらえているものからインスピレーションを得てると思いました。
SIRI SIRIのこれから
ー松陰神社前でお会いした時にちらりとお伺いしたんですが、今はスイスの職人さんと一緒に作っているものがあるんですよね。
岡本:そうなんです、今はリサイクルガラスを使って照明を作っていて。ベルンから1時間くらい行った工房と一緒に制作しています。それはSIRI SIRI の姉妹ブランドにすることになると思うんですけれど、やっぱり住んでいるところでものづくりをした方がいいなという想いがあって。信念というか…大学の研究の一環でもあったんですけれど、ローカルなものづくりを続けていきたい。
あと今はSIRI SIRIでweekend houseのような、家をディレクションするというプロジェクトがあって。ジュエリーのフ衣食住の”衣”の分野からさらに広げて、生活全般に関わるデザインをするブランドになれたらいいなと想っています。その第一歩という感じですね。泊まりに行けて、家そのものを買えるという。今、土地探しをしているところです。
深井:家、売るので、買って欲しいです!(笑)
ー気になる…!次なる展開もとても楽しみです。
《編集後記》
今回、岡本さんにはPOP UP SHOPでのノストスの選書にあわせてブックリストや、インスピレーションのもとになっている空間などをリストアップして頂きました。シリーズそれぞれのお話の中で、印象的だったのはKIRIKO bangleをデザインする際に「日本の静かな光」を表現するために、切子の工程の中でカット後の磨きの工程を通常のものよりも半分で止めるというデザインをしているということ。
日本の風土や歴史の流れを断ち切るようなデザインはしたくなかった、というお話には唸りました。nostos booksでは、そういったSIRI SIRIのジュエリーの後ろに流れる物語を大切に少しずつお伝えしていけたらと思っています。
岡本:そうなんです、今はリサイクルガラスを使って照明を作っていて。ベルンから1時間くらい行った工房と一緒に制作しています。それはSIRI SIRI の姉妹ブランドにすることになると思うんですけれど、やっぱり住んでいるところでものづくりをした方がいいなという想いがあって。信念というか…大学の研究の一環でもあったんですけれど、ローカルなものづくりを続けていきたい。
あと今はSIRI SIRIでweekend houseのような、家をディレクションするというプロジェクトがあって。ジュエリーのフ衣食住の”衣”の分野からさらに広げて、生活全般に関わるデザインをするブランドになれたらいいなと想っています。その第一歩という感じですね。泊まりに行けて、家そのものを買えるという。今、土地探しをしているところです。
深井:家、売るので、買って欲しいです!(笑)
ー気になる…!次なる展開もとても楽しみです。
建築家で抽象画家の父の影響で、幼いころよりアートやデザインに囲まれた環境で育つ。 桑沢デザイン研究所スペースデザイン科在学中、より身近な自分自身の身体に近いもののデザインに対する興味が高まり、ジュエリー創作に向かう。 2006年 ジュエリーブランド「SIRI SIRI」を発表。 建築、インテリアデザインを学んだ経験を活かし、日常の身のまわりにある素材をジュエリーに昇華させる独特な世界を展開する。
http://sirisiri.jp/
《深井佐和子(ふかいさわこ)プロフィール》
SIRI SIRI ブランド・ディレクター
1981年東京生まれ。東京の現代写真ギャラリー、アートブックの出版社にて10年ディレクターを務めた後独立。デンマーク、ロンドン、アムステルダムでの計5年間に渡る海外での生活を経て、現在は東京を拠点にアート・デザインを専門とした編集・翻訳等のプロダクションを手がける。SIRI SIRIでは各コラボレーション事業、イベント、PRを統括するブランド・ディレクターとして業務を行っている。 https://www.swtokyo.jp/