選書のお話。本棚から辿る、世界手しごとの旅
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選書のお話。本棚から辿る、世界手しごとの旅

ノストスブックスは「手としごと」展を開催するにあたり、「世界の手しごと」をテーマに厳選した書籍をあつめました。作る・選ぶ・暮らすの3つのパートに分け、選書担当・石井がその一部をご紹介します。



世界手しごとの旅 その1 「作る」
極北からアフリカまで、世界の手しごと

たとえば、「イヌイットの壁掛け」。イヌイットとは、カナダ北部に暮らす先住民族。彼らはトナカイやオットセイなどを狩り、衣食住の糧とする狩猟民族として、厳しい自然のなかで生活を営んでいました。ですが、今では近代化が進み、時代の流れとともに暮らしも変化しつつあります。

そんななかで生まれたのが、こちらの壁掛け。狩猟で得た毛皮を加工するかわりに、端切れを縫い合わせて作るアップリケを壁掛けとして作るようになりました。極寒の自然には存在しないはずのカラフルな色、かわいらしくデフォルメされたモチーフ。ひと針ごとに思いの込められた壁掛けは、イヌイットの新しい伝統として伝えられていくことでしょう。

そしてもう1冊は「イメージの力 国立民族学博物館コレクションにさぐる」。「手しごと」というテーマに対して選ぶには、ちょっと意外かもしれないですね。

ですが、時代や場所を限定せずに考えれば、縄文時代の土器だって手しごと。現在「手しごと」と呼ばれているものは、遠からず文化人類学や民族学の分野に紐付いています。はるか昔から育まれ、人々の暮らしとともに変化する、その多種多様な歩みを知るには最適の一冊なのではと思います。

そのほか、北欧、南米、アジア、アフリカなど、さまざまな地域・時代の魅力的なプロダクトをご紹介します。

世界手しごとの旅 その2 「選ぶ」
目利きたちの審美眼

作家や収集家、古道具店主らが自らのコレクションやセレクトを紹介している書籍をご紹介します。選ぶという行為に対して、目利きたちはどんな基準やこだわりをもっているのでしょうか。

芹沢銈介 作品とコレクション」はタイトルずばり、その作品と収集品を紹介する一冊です。

日本を代表する工芸家でもあり、型絵染の人間国宝でもある芹沢銈介が手掛けた作品は不思議な魅力にあふれています。和のデザインに寄り過ぎることなく、いまの私たちの生活にも馴染む。すごいセンスです。

そして、芹沢銈介は作り手でもあると同時に、世界を旅して民藝品をあつめ研究した収集家でもあります。そのコレクションがとても面白い。南米やアフリカの陶器、像、布、仮面。これらを生活に取り入れ、制作のインスピレーションを得ていたのかもしれません。

すぐれた審美眼というものは、一期一会の出会いを楽しむことから育まれるのかもしれませんね。

世界手しごとの旅 その3 「暮らす」
調和とぬくもりのある住空間

手しごとによって作られた品々を実際に使用したり、飾ったり。さまざまな暮らしのかたちをご紹介します。

個人的な話ですが、わたしは住空間作りが下手なのです。家具や雑貨を「質感がいいな」「色やかたちが好みだなあ」と購入し、ほくほくしながら設置したところ、あれ?何かが違う...ということが、本当にたくさんありすぎて困ります。求ム、調和。

そんな経験をお持ちの同志に全力でおすすめしたいのが、「もう一つの名作住宅 ハンドクラフテッド・モダン」。ミッドセンチュリー期のデザイナーたちが暮らした住まいを撮り下ろした写真集です。被写体はラッセル・ライト、ジョージ・ナカシマ、イームス夫妻、ヴァルター・グロピウスら14名の住宅。

彼らの住まいは、創造性に溢れ、あたたかみがあり、遊び心が満ちています。古いもの、モダンなものが無造作に置かれているようでいて、不思議な均衡をたもつその姿は、理想的な住まいの1つなのではないでしょうか。

最後に

世界各国の個性豊かな手しごとを知り、目利きたちの視点やこだわりから学び、じぶんの暮らしに応用していく。そんな流れを感じながら手に取っていただけたら嬉しいです。

毎日の暮らしがより素敵なものになりますように。

手としごと展、ぜひ遊びに来てくださいね。

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ブックディレクター。古本の仕入れ、選書、デザイン、コーディング、コラージュ、裏側でいろいろやるひと。体力がない。最近はキュー◯ーコーワゴールドによって生かされている。ヒップホップ、電子音楽、SF映画、杉浦康平のデザイン、モダニズム建築、歌川国芳の絵など、古さと新しさが混ざりあったものが好き。