実際に座ってみても、毛足が長く座り心地がいい。さらに、10年、20年使ってもへこたれず、むしろどんどん美しくなることを教えてもらい、自分が生活に使うものは、永く愛用できるものを選びたいと思うようになりました。
今回は展示販売に合わせ、駒木根さんにノッティングの椅子敷きの魅力についてお聞きしました。
ーノッティングの椅子敷きはどうやって生まれたんですか?
70年くらい前に、研究所の創設者である外村吉之介先生が椅子用の敷物として、ペルシャ絨毯やキリムの織り方を参考にして考案されたそうです。今はウールの糸を使用したものが大半ですが、木綿のものもあります。木綿のテーブルセンターなどの布を織る時に、織りはじめと織り終わりに縦糸が少し織れずに残るんですよ。もともとは、その残糸を束にして結びつけるというのがはじまりだったようです。
ー織りの余り糸を使ってたんですね。 駒木根さんのノッティングは色の合わせが素敵だと常々思っているのですが、色合わせはなにかを参考にされていますか?
特に参考にしているものはないです。なにかで「いいな」、と思う色合わせを見つけると参考にすることもありますが、自分の好みかな。こんなのどうだろうっていう感じで。少ない色数の中で組み合わせますが、だからこそまとまるのかもしれません。
ー日常的にノッティングを使われていますが、使っていて気付く魅力を教えてください。
すぐだめにならないっていうのは魅力だと思いますね。その時その時で表情が変わるじゃないですか。長く使ってきたものって歴史みたいなのがあって、愛着がわいてきますよね。ーウールは冬のイメージがありますが、ノッティングの椅子敷きは一年中使ってもいいんですよね?
夏でも暑いから敷くのが嫌って思ったことはないですよ。自分自身が年中使ってるからおすすめできます。自分が物を作るようになってからは、必ず使ってみるんですよ。人に勧めるのにいい加減な勧め方をしたくなくって。ーなるほど。駒木根さんのお宅には、職人さんが作られている器や籠などがたくさんありますが、やはり使って気付くことは多いですよね。
民藝の食器って、普通に売られている食器に比ベたら高かったんですよね。欲しいけど手が出ない。 26、7 歳の頃だったでしょうか。外村先生とお話する機会があって、「日常の品と言われるけど、私たちはなかなか使えないです」と思い切って質問してみたことがあったんです。そうしたらしばらく沈黙されて、「そうですか…。それをーつ作るのにどれくらいの労力がかかるかっていうのを考えたら決して高いとは思いません。とにかくひとつ買って、使ってみてください。」と静かな口調で言われました。
それは後になってすごく胸に沁みるというか、実感できる言葉になったんです。
やっぱり、ずっと長いこと自分が好きなものを使っていると想いが変わってくるし、「食器そのものが育つ」と言われるのも分かる気がします。
最初買った時よりもいい感じになってきた時って嬉しいですよね。せっかくだったらそういうことを感じられるもので暮らしたい。
ー「食器そのものが育つ」というのは良い言葉ですね。それはノッティングの椅子敷きにも当てはまることだと思います。 最後に、どんな方に使ってもらいたいですか?
使ってみたいなぁという人には、どんどん使ってもらいたいんですよね。だけど価格との折り合いがあるので、そこはちょっと苦しいところではあるんですけど。 私が30年くらい前に買った時は、若くて、安月給のサラリーマンだったから「うーん」と悩んだけど、結局この歳まで使えていて良かったなと自分で思えてる。そういうふうにして使ってもらえるといいかなと思います。編集後記
駒木根さんのわかりやすく丁寧な言葉使いや、一言一言を大切に選び取ったような受け答えをお聞きしていて、「健康で、無駄がなく、まじめでいばらない」という外村先生の言葉がずっと頭の中にありました。
その言葉は、倉敷本染手織研究所の物づくりの精神です。
それは、一点一点手しごとで作られるノッティングの椅子敷きからも感じ取ることができます。座面の整ったカット、端がほつれてこない結び方…
永く愛用してもらえるように使う人のことを考えた工夫が、物そのものの美しさになっていることを実感しました。
今回の「手としごと展」では、13柄のノッティングの椅子敷きをご覧いただけます。どうぞ、実際に見て、座って、その魅力を味わってください。