小西泰央がロモグラフィーで伝える、グラストンベリー・フェスティバルと写真の魅力
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小西泰央がロモグラフィーで伝える、グラストンベリー・フェスティバルと写真の魅力

現在開催中の小西泰央写真展「i feel awesome」では、イギリス・グラストンベリーで40年以上続く音楽フェス/グラストンベリー・フェスティバルを全身で楽しむ観客たちの姿を、トイカメラのロモグラフィーで収めた写真を展示しています。

そこで今回は、もっと展示を楽しんでもらうべくロモグラフィーやグラストンベリーの魅力などについてお話を聞きました。


ライブハウスで見つけた、一瞬を切り取る楽しさ

――写真はいつから撮り始めたんですか?

写真部だった姉の写真を見てはいて、カメラを借りてはちょくちょく撮ってたんですよね。それがロモグラフィーのLC-Aという機種だったんです。LC-Aは全部自動なので、シャッタースピードを調整することができなくて。一度、観に行ってたライブを撮ったことがあったんですが、全く撮れてなかった(笑)。「ああ、こんな感じになっちゃうのか」って思って、一旦写真は諦めて。

――音楽と写真だと、どちらのほうが好きになったんですか?

どっちも同じくらいかな。

――音楽も、お姉さんの影響で?

いや、音楽は中学・高校の先輩に影響を受けて、ハードコアばっかり聴いてました。ライブハウスって小さなコミュニティだから、仲間内でブッキングも、フライヤーのデザインをしてくれる人もいるし、ライブハウスのスタッフだって友達みたいなものだし。ってなると、チケット買って来ているとはいえ、観てるだけのお客さんだと何も貢献できてないなと。それで、姉のデジカメを借りてライブハウスに行くようになったんです。友達のバンドでまたライブを撮り始めたんですけど、「あ、デジカメなら撮れるかも」って手応えを感じて、写真を本格的に始めました。

konitan2 ――じゃあ、写真は独学なんですね。

そうですね。まあ、デジカメだったらやり直しが効くんで、「こうすればこう撮れるんだ」って実験しながら撮ってましたね。

――カメラマンとして独立したのはいつ頃ですか?

2009年です。それまでは結婚式会場の撮影をする事務所に入っていて、ふと「よし、そろそろフリーになろう!」って思い立ったんですよね。

――それは、音楽の写真でやっていこうと?

メインでできればいいなと思ってはいましたけど、「写真でやっていきたいな」って思いのほうが大きかったですね。ようやく自分の中で一つ自信を持てるものができたというか。

konitan5 ――写真が好きになっていったんですね。写真の魅力はどこにあると思いますか?

ライブを撮っていて特に思うんですけど、普通に見ていたら見過ごしちゃう光景も、一瞬に切り取ってみると、ものすごくいい画がいっぱいあるんですよね。いろんな角度や視点から見ると、それはもっと増える。ふとした表情も写真に収めると、すごくいい画になったりして。

――渾身の1枚はどんな写真ですか?

2009年にコンバージってバンドが来日したとき、撮らせてもらったうちの1枚が今でもすごく気に入ってますね。ハードコアバンドって、客に殴りかかるようにマイクを向けるんですよ。

converge ――これ、いいですね。アーティストとオーディエンスのエネルギーがぶつかり合ってる。

ね。レジェンド級のハードコアバンドを撮らせてもらったというのもあって、すごくいい思い出ですね。

フジロックからグラストへ

――フジロックでも撮っているんですよね。観客として行ったことはあるんですか?

観客としては2006年に、レッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)目当てで行きました。それが本当に楽しくて、2007年はフジロックそのものを目的に行きましたね。もちろん、前夜祭から全日程をキャンプで。

――おお、ガッツリ最初から最後まで!しかもキャンプ!

そうなんですよ。前日の夜中から出発してました(笑)。フジロックに行きたいと思っている友達も周りにほとんどいなくて、そこからぱったりと行かなくなっちゃいました。次に行ったのは2013年で、その年はもうカメラマンとしてでしたね。

――フジロックを撮ることになったのはどういった経緯なんですか?

フジロックのファン同士が連絡をやり取りする掲示板を作ったジャーナリストの花房浩一さんという方がいるんですが、今はそれをfujirockers.orgというサイトにリニューアルして、フジロックファンが集まってレポートを書いてるんです。フジロックって、オフィシャルのカメラマンが3人しかいないんですよ。だから、オフィシャルでできないところもレポートしようって。ステージだけじゃなく、おいしいものや観客の様子を記録したりしてるんです。結婚式会場のカメラマンの先輩が先にこのチームに入っていて、フジロックのラインナップをいいなって僕がSNSでポストをしたら、「カメラマンとして参加しない?」って声を掛けられて。そこから3年連続で撮ってます。

konitan4 ――そのチームで、グラストも?

花房さんは30年以上グラストンベリーに行っていて、Smashing Mag.っていうサイトを立ち上げて、グラストのレポートもアップしてるんですよ。ここ最近はfujirockers.orgのメンバーから何人か引き連れて取材に行っていて、去年・今年と僕もその一人として参加させてもらいました。

――ライブも撮りつつ、作品撮りもしつつ?

グラストって、3日間で900ステージが行われるんですけど、1日300ステージとしても、実質観られるのは3つ、4つくらいなんですよね。やっぱり広いし、同時にいくつも行われるから、時間や体力的にも厳しくて。そこまで絞っちゃうから、逆にちょこちょこと撮る時間はあるんですよ。

――去年と今年で、行ってみての違いってありました?

去年は初めてだったから、その規模の大きさに度肝を抜かれましたね。フジは縦に長いんだけど、グラストは面だからもっと広くて。世界的にもこんなことをやってる場所は少ないし、40年もやってるなんて本当に異常だなって(笑)。


今年は2回目だったからある程度慣れてたけど、1回で回りきれる広さじゃないから、初めてのことも結構多かったですね。それに、去年と比べて今年は特に泥がひどくて。グラストンベリーって、イギリスの中でも割と天気が悪いほうらしいんですね。寝てる間にちょっと降って、軽くでもぬかるむと、10万人が踏みつけるもんだからグッチャグチャになっちゃって。それはもう、耕されたように(笑)。足が埋まっちゃって全然前に進めない。

――あはは。砂浜よりも大変そう!

本当に大変。適当に過ごしてるように見える人でも、しっかり長靴は履いてますからね。でも、今年はその泥のせいでアキレス腱を痛めちゃって、アデルも観ずにとりあえずテントに帰ってご飯食べて寝ちゃいました。ちょっともったいなかったなあ(笑)。

ロモグラフィーから始まるコミュニケーション

――グラストンベリーをロモで撮ろうと思ったきっかけはなんだったんですか?

去年、グラストの写真を撮る前にノストスブックスで展示をすることは決めていたんですけど、何かおもしろい撮り方ができないかなってギリギリまで悩んでたんです。そんなとき、フォトグラファーのShiori Nishiさんがロモで撮った写真がFacebookのタイムラインに流れてきて、これでフェスを撮ったらいい感じになりそうだなって。

――というと?

トイカメラ特有のコントラストと彩度が高めな質感と、フェスのハッピー感が合うんじゃないかなって。それと、ロモのエックスプロ(XPro)ってフィルムはクロスプロセス(フィルムと現像液のネガとポジをミックスさせる手法)をするために生まれたフィルムで、現像すると全体的に青みがかった写真になるんです。それが、グラストの会場みたいな緑の多い自然を撮るのにぴったりだろうなってイメージが浮かんだんですよ。それで、2015年はエックスプロを入れたフィルムカメラで撮りました。


今年は、ロモから出てるペッツヴァール(Petzval)っていうレンズをデジカメに取り付けてみました。これだと、写真の外側にぐるぐるしたボケが出て、背景が不思議な感じに歪んだり、中心に引き込まれる写真が撮れるのがおもしろいんです。

それに、ペッツヴァールはボディがゴールドですごく目立つから、いろんな人に興味を持たれるんですよ。観客はみんなスマホだし、プレスのカメラマンは400mmのバカでかい望遠レンズとか持って来ていて、こんなカメラ誰も持ってない(笑)。「なにそれ?」「俺達を撮ってよ!」なんて声を掛けられることが多かったですね。


――小西さんならではの組み合わせだったんですね。

確かに、普段もShioriさんくらいしかロモを取り入れて撮ってるフォトグラファーはいないかもしれないですね。彼女の紹介で、エンドースメントというか、レンズを使わせてもらえることになって。

――それで、このノストスブックスとロモグラフィー・プラスアーツ千代田 3331内)での2部構成の展示が実現したんですね。

はい。おもしろいレンズを使ってみたいと話したら、コンテンツとして発信しないかと提案してくれて。ノストスブックスでの展示はナイトタイム、ロモグラフィー・プラスではデイタイムのグラストの写真を集めて展示することになっています。

――ロモを使うことの魅力はどんなところにありますか?

飾りたいくらい可愛くて、おもしろい形のカメラだから、撮られる側の警戒心がなくなるんですよね。だから、被写体の自然な表情が撮れる。しかも、簡単に。おもちゃみたいで、価格も安いから、いろんな人が写真を撮ること自体に興味を持ってくれるのも嬉しいですね。ダイアナ・デラックス・キット(Diana Deluxe Kit)って機種なら、レンズがいっぱいついたフルセットでも2万4000円だし。レンズやカメラをいろいろ組み合わせて、カメラをカメラとして楽しむだけじゃなく、自分の中で膨らむイマジネーションを形にしやすいのも魅力の一つですね。


――楽しそう!ロモ熱が急上昇してきました!最後になりますが、この写真展でぜひ観てほしい1枚を教えて下さい。

グラストで撮った4000枚のうち、100枚まで絞って、今回出展する12枚を決めていたんですが、最後の1枚がなかなか決まらなくて。もう一度4000枚を見返していると、この1枚に目が留まったんです。あまりにもありふれた、グラストで過ごすカップルの写真なんですけど、よく見てみると“グラストらしさ”がいっぱい写り込んでるんですよ。テントやステージ、会場の装飾、芝生のエリアも写ってるんですよね。

それに、右上に写ってる白いテントのようなところに、グラストンベリー・トーっていう街の有名なスポットが写ってるんです。なんでもない写真だと思ってたけど、知らないうちにグラストンベリーをフェスとしても、街としても収めることができていて、僕の思う写真のおもしろさが出た1枚ですね。他にも、楽しいだけじゃない(笑)いろんなグラストの風景を展示しているので、ぜひ観に来てほしいです。

小西泰央がロモグラフィーで伝える、グラストンベリー・フェスティバルと写真の魅力
小西さんの撮影・編集によるグラスとの風景を収めたムービーもぜひご覧ください。

Glastonbury Festival 2016 by Taio Konishi from Lomography on Vimeo.



Taio Konishi「i feel awesome」


PROFILE:
小西泰央 Taio Konishi
国内外のコンサートや音楽フェスの撮影をしているフォトグラファー。これまでにFujiRock FestivalやGlastonbury Festival、Fluff Festival、NOT A Fesitivalなどを撮影。Behance Japan Tokyo Local Communityのメンバーでもある。


DATE:
2016年8月6日(土)-8月21日(日)

nostos books
東京都世田谷区世田谷4-2-12
12:00~20:00 水曜定休
03-5799-7982
http://nostos.jp




2016年8月24日(水)-9月11日(日)

Lomogrphy+
東京都千代田区外神田6丁目11-14
アーツ千代田 3331 1F
12:00-19:00 月・火曜及び施設休館日定休
https://microsites.lomography.jp/lomographyplus/

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